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婚約破棄は必ずあると誰もが心構えをしていた結果

サクッと読めるであろう婚約破棄物をまた書きました。

お時間ありましたらご覧いただけると幸いです。

「タチアナ・フラガリア・アナナッサ! 貴様のような面白みのない地味女などこのイグニス王国の将来の国母としてふさわしくない! よって、貴様とは婚約破棄し、この可憐で心優しい乙女ユリア・ピルラーを新たに婚約者としよう!」


 突如として王宮の夜会会場に大きな声が響き渡った。


 夜会に居る貴族たちが振り返ると、イグニス王国の王太子アルフレッド・ド・イグニスその人が自分の婚約者タチアナ・フラガリア・アナナッサ侯爵令嬢を怒鳴りつけていた。


 王太子アルフレッドの顔は鬼のように歪められ、その腕にはユリア・ピルラー男爵令嬢がしがみついている。


「っ……このお馬鹿!」

「なっ、母上にも話したではないですか? ユリアと婚約した方がっ……」


 王妃の畳んだ扇がアルフレッドの頭にゴッ……という鈍い音を立ててさく裂した。

 別の貴族夫人たちと話していた王妃は慌てて駆け付けたらしく、息が乱れている。


 ついでに、夜会会場を警備していた王宮騎士たちも駆けつける。


「なっ……貴様ら何をする俺は王太子だぞっ!! 王太子なんだぞーーー!! もごっ? もごごっ?!!」


 王宮騎士達は王の命令で、躊躇ためらいなく王太子(?)に何重にも縄をかけて、猿轡さるぐつわをかませると肩に担ぎ上げる。

 ミイラのような形にパッケージングされた王太子(?)アルフレッドは、気持ちわるくグニャグニャとうごめきながら夜会会場の外へと運ばれていった。

 ついでにユリア・ピルラー男爵令嬢は、その両親たちと一緒に縄を掛けられて、騎士達に引きずられて連れていかれた。


 会場の貴族たちがその騒ぎに注目している間に、他の貴族たちと話していた第二王子がタチアナ・フラガリア・アナナッサ侯爵令嬢に駆け寄ってきた後、


「聖なる炎よ、フレア」


 と火の魔法を唱え、自分の顔の黒子を焼いた。

 第二王子が発動したのは特殊な火魔法で、対象のみを焼く便利な魔法である。

 かすかに肉を焼く匂いがしたが、すぐに宙に消えた。


 その後、第二王子は何事もなかったかのようにタチアナ・フラガリア・アナナッサ侯爵令嬢ににっこりと微笑みかける。

 その黒子のない顔で穏やかに微笑む様子は、アルフレッド・ド・イグニスがユリア・ピルラー男爵令嬢に惑わされる前と瓜二つだった。

 第二王子とアルフレッド王太子(?)は顔に黒子があるかないかぐらいしか顔立ちが違っていなかったからだ。


 タチアナ・フラガリア・アナナッサ侯爵令嬢は、その微笑みに心得たというように力強く頷いた。


 そう、王族とタチアナ・フラガリア・アナナッサ侯爵令嬢は分かっていた。

 アルフレッド・ド・イグニスがいつかこんな婚約破棄騒動を犯してしまうかもしれないぐらい愚かだという事が。


 しかし、ぎりぎりまでこんな事件を起こしてしまうまで、皆、アルフレッドを信じていたのだ。

 散々、王族とタチアナ・フラガリア・アナナッサ侯爵令嬢はアルフレッド王太子と話し合いを続け、さとし続けてきた。


 でも、やはり信じ切れずに心の奥底で、各々がアルフレッド王太子が騒動を起こしてしまった場合の対応を頭の中で、または人に相談して何度もシミュレーションしてきたのだ。

 そのシミュレーションがスムーズな形で、今、結実けつじつしていた。


「……皆の者、不審者が夜会会場に紛れ込み騒がせたようだな……、だが案ずるな。何も被害はないようだ。夜会を続けよう。なあ、王太子アルフレッドよ」

「はい、陛下。私の婚約者のタチアナも無事で良かったです」


 第二王子が、王に『王太子アルフレッド』と呼びかけられて流れるように返事をする。

 隣に立つタチアナを愛しそうに見つめ、その手をそっと握った。

 タチアナはそれに答えて、やはり愛しそうに王太子アルフレッドを見詰める。

 タチアナは自分の役目を正しく理解していた。


 王の言葉に、夜会会場の貴族たちは瞬時に理解した。

 第二王子が『王太子アルフレッド』になった……いや、第2王子は元々おらず、タチアナ・フラガリア・アナナッサ侯爵令嬢と仲睦まじい王太子が居るだけなのだという事だ。


 夜会会場に集まっている貴族たちは口々に、『不審者には驚きましたが陛下や騎士たちの対応は見事でしたな』とか『王太子殿下と未来の王太子妃様が仲が良くこの国も安泰ですわ』等、いつものようにお喋りを続ける。

 イグニス王国の貴族たちも頭の中でこんな事態が起こることを予測していたのだろう。


 微妙に王太子派と第2王子派の貴族たちが仲良くお喋りしているという妙な光景も見られた。

 いや、妙ではない最初から聡明で文武両道の第2王子はおらず、聡明で文武両道の王太子ただ一人がいただけなのだから。


 ちょうど運よく(?)(織り込み済みの通り)、夜会会場に招かれていた外国貴族達は全員イグニス王国より国力が下の国ばかりであり、王太子の婚約者が隣にいる第2王子を王太子アルフレッドとして扱うより他なかった。


 なお、余談にはなるがスパイから話を聞いた、夜会には招かれなかった外国が鑑定を使える魔法使いに、『王太子アルフレッド』のステータスを鑑定させたところ、第2王子の名前が二重線で消されて『アルフレッド』となっていることが確認されたそうだ。

読んで下さってありがとうございました。

もし良かったら評価やいいねやブクマをよろしくお願いします。

また、私の他の小説も読んでいただけたら嬉しいです。

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「大好きだった花売りのNPCを利用する事にした」

― 新着の感想 ―
[良い点] あまりにも強引でスムーズで円満な一連の流れw 歌舞伎の早替えかっていうね いやー皆さん有能且つ一応決定的やらかしを待つだけの情もあってよい国ですね
[一言] まあ残当に考えれば第二王子とかって「そのため」の人員よね、本来。
[良い点] 鑑定使っても、名前だけなら そして王族や大臣たち満場一致なら、正式に名前変更ぐらいできますもんねー
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