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マリーゴールド  作者: かかと
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第9話

 …ベッドに座った。なんか体が重い。精神的なものだろうと思う。病気になるとこんなにも弱気になるのだな。深呼吸をする。何回やっても体は重いままである。窓の外を見る。あくせく動いている人を見ればみんなそれぞれ頑張っていると分かる。しかし、俺は頑張っていないな。病気になって弱気になって…。そんなことを考えるなんて全く意味のないことだ。とりあえず本を読もう。


 蛇が顔を出しながらチロチロと舌を出しながら俺の方を見ている。蛇はそのまま俺の方に向かって首を伸ばす。何とか下に急ぐ。蛇は徐々に近づいているが、なかなか届くことはない。体が大きすぎて支えるのが難しいから、崖から体を伸ばしている。そこまで俺を食べたいと思っているのか。意味が分からない。他の動物もいるだろうに。徐々に降りていきながら、何かが落ちてくるのが見える。慌てて近くにあった枝を掴む。大きな石とともに蛇が降ってきた。砂もものすごい量が落ちてきたが、枝を離すことはなかった。音が聞こえてして下を見ると蛇が動いていない。そして、多くの血が出ている。あれでは生きてはいないだろう。木の枝を掴みながら近くの石に足を乗せる。


 少し休む。もう少しで死ぬところだった。欲にまみれているな。しかし、そのおかげで俺は助かった。そのまま少しずつ崖を下っていく。崖を下りることができた。…、これが正解だったのか。道なき道を行くというのが。


 …、何だろうこの小説。その小説を折りたたみゴミ箱に入れた。糞だったな。あまりにもつまらない小説。気を取り直して好きな漫画を読む。やっぱり好きな漫画を読むとそれなりに気分が上がっていく。スポーツ漫画は特に気分が上がる。…、もう一度窓を見てみる。先ほどのよりも人のことに劣って見えない。やはり、精神的なものが要因で体調が悪いのだろう。そろそろ一二時になる。ラーメンでいいか。…、袋麺を準備して鍋に水を入れる。こんなものばかり食べていたらよくなるものもよくならない。しかし、今はあまり食べ物がほしくない。沸騰した水にラーメンを入れる。…三分後、丼にラーメンを入れる。


 ラーメンをすすりながら、昼のニュースを見ている。ニュースではそこまで変なニュースはやっていない。昔に比べて凶悪な事件が少なくなっている。ただ、通り魔やいきなり襲われるなどいきなり襲われるような無差別な事件が多くなっている。…、特に芸能人やスポーツ選手に関しても特にない。


 …袋から漢方薬を出してみる。袋を開けて口に流し入れる。そのまま水を流し込む。かなり苦い。のど越しも最悪だが、効能はあるのだろう。少し苦みを抑えるためにチョコレートを冷蔵庫から出した。…食べてみて、ビターチョコレートだと分かる。そういえば、ビターチョコレートしか買っていなかったな。かなり苦くなってしまった。…、何か買いに行こうか。…もう面倒くさいな。やる気も出ないし。また、漫画でも読もうか。


 iPhoneのアラームが鳴っている。見てみるとすでに午後四時だ。随分と時間が経った。やはり何もしていない。これでは良くないよな。…でも何もやる気が起きないのは事実。無理に何かをしようとしてはいけないと病気的にはあるらしい。しかし、何もやらないというのもストレスになっているような気がする。そういえば最近体がたるんでいるな。筋トレでもやろうか。その場で腕立て伏せを行う。徐々に体に負荷がかかっていく。心地よいものではない。しかし、首筋に血流が流れていくのを感じる。少し続けていると体が徐々に温まってきた。運動も悪いものではない。少ししかやっていないのに眠くなってきた…。


 起きると午後7時だった。コンビニへ行く。少し眠ってしまった。明日はどうだろうか。ちゃんと起きることができるかな。コンビニで弁当を見ていると後ろから背中を叩かれる。振り向くと四葉さんが立っていた。


「こんばんは。」

「あ、はい。」

「はいって…。緊張しすぎ。」


 緊張するに決まっている。四葉さんは自分のことを可愛いと思っていないのかもしれないがかなり可愛い部類に入る。それに女性と話すのは久しぶりだ。


「ちゃんと薬は飲んだ?」

「はい。飲みました。」

「漢方薬の効果が出てくるのは一週間後くらいだからそれまでしぶとく飲み続けないといけないよ。」

「…わかりました。」


 …、少し碓井と似ているところがある。碓井は母親がと言っていたが、彼女も何かあったのだろうか。


「どうかしたの?」

「いえ。別に。」

「そういえばどこに住んでいるの?」

「えっと、近くのアパートに。」

「フーン…。」


 保険証を渡しているから住所は分かっているはずだけど。…、彼女はそういったところを確認していないのだろう。まあ、いちいち確認することもないか。特に俺のことに興味がないのかもしれないな。彼女の服はワンピースで仕事のイメージは全くない。しかし、あの診療所は五時までだからそこまで遅くなることはないのだと思っていた。


「私もこの近くなのよね。」

「そうなのですか?」

「バスもそれなりに通っているし、駅からも十分ほど。その上、大学病院までバス一本で行くことができたから良かったのよ。」


 そのような便の良さからここに住んでいるのもあるのか。でも、俺もそれが理由でここのアパートに決めている。


「とりあえず会計を済ませましょう。」


 彼女は弁当と缶ビールを持って会計にもっていく。水を一つ取って彼女の後ろに並んだ。彼女は小さな黒のバッグから財布を取り出し店員にお支払いをしている。


「後ろの方どうぞ。」


 あー、俺のことか…。気だるげに仕事をしている店員に弁当と水を手渡す。店員はバーコードを読みながら、機械的に話をしている。


「温めはどうしますか?」

「大丈夫です。」

「袋は?」

「ありますので。」


 ポケットからエコバックを取り出す。水を入れる。弁当を慎重にエコバックへ入れる。弁当が傾いてしまうと色んな味が混ざってしまって美味しくなくなる。


「支払いはペイペイで。」

「わかりました。」


 レジスターを操作しながらiPhoneの画面を読み取る。iPhoneから音声が聞こえて会計を終える。弁当を追加で入れて外に出ようとする。後ろから服を引っ張られた。


「私のこと、忘れていたでしょ。」

「すみません。」


 彼女は頬を膨らませている。可愛いのだが知っている女性にこういうことをやられるとあまり好きではないな。コンビニを出て自分の家に帰ろうとするが、四葉さんも俺と同じ方向に歩いている。


「匠もこっちなの?」

「…そうですね。」


 なんか馴れ馴れしいな。あんまりこういった感じの女性は苦手だ。なんというか自分のテリトリーにずかずかと入られるような感じである。見えない空気というのは彼女には見えないのだろうな。俺にはその空気が見えるので彼女みたいになれない。ある意味、すごくうらやましい。無言で歩くが、彼女も俺の側を離れない。ついに自分のアパートの前にまで来た。


「…君の家はここのアパート?」

「…はい。」

「私もここなのよ。」

「…マジですか?」

「そうよ。」


 やはりこの世界は大きくて狭い。昔はもっと狭かったのだろうなと思っている。ほとんどの人間が自分の生まれた場所で育ってそのまま死んでいく。今みたいに世界へ羽ばたけるようなことはない。WEBでつながることもない。そんな閉鎖的な空間で俺は生きることができたのだろうかと思う。おそらく、生きることはできない。アパートで体調が悪いと言ってぐずぐずしているようなしているような俺では。でも、生きることができたのだろうなと思う。何も知らなければ何も思うことはなかったのではないか。最近の人間は昔より賢くなりそして精神的にも成長した。だから、さらにすごい人を見るようになって自信がなくなり、自分を潰してしまう人が出てきた。知らなければきっとずっと成長できたのだ。その人生が終わっていくのはどうしても強い人たちの責務であるというけど、それはきっと正しくない。自分を見ているのは自分で比べているのは他人で自分を卑下しているのはまた自分である。結局のところ、自分の中でどうするかを決めていく。それだけだ。


「また、考えているわね。」

「え?」

「考えるのも悪くないけどさ。そんなに意味がないことを悩んだって仕方ないよ。この世界に生きている以上は目に見えるもの、感じるものが全てだから。」


 正直、うらやましいなと思う。目の前のことに集中できるのであれば、どれだけの時間、時間を無駄にしないことだろう。どうしても頭から嫌な想像や変な想像が離れていかない。唯一、無心になれるのは掃除している時と料理をしている時。なんとなく集中しないと失敗するし、ある程度力を抜いていないと失敗する。


「…、何かあったのですか?」

「何が?」

「なんとなく。」


 彼女の横顔が泣いているように見えている。涙は出ていないけどその姿はかなり悲しそうに見えている。ふとした瞬間の顔色を見逃していないと思う。長く付き合っていけば行くほどわかってくる。


「大人をからかったらだめだよ。」

「言うほど年は離れていないですよね。」

「…女に歳を聞かないで。」


 …大人とか言ってもなかなか思えない。四葉さんはそのまま前を向いた。大学生と社会人では年以上の開きを感じる。


「一緒にご飯を食べる?」

「…からかっていますよね。」

「からかってはいないわよ。一応、薬の関係もあるしね。」


 …顔は笑っている。難しい。しかし、このまま…。


「フッ。面白いわね。行くわよ。私の部屋で食べましょう。どうせ部屋に居ても悩んでしまうでしょ?」


 その通りなのだが、お邪魔しても良いものだろうか。俺も一応、男だし。彼女がどう思っているかわからないが、危険な匂いが多少なりともあるような気がしている。


「何もしないわ。あ、でも薬がないわよね。」

「え?」

「表情に出ているよ。年下を襲ったりしないわ。」


 彼女を見ると看護師の顔になっている。薬を持ってくるには自分の部屋に戻らないと…。なんか急に誘われたからか体と心がついていかない。その行動を見た四葉さんがため息をついた。


「まどろっこしいわね。私の部屋は407だから薬を持ってきなさい。弁当も忘れずにね。」

「わかりました。」


 彼女も俺の性格が分かってきたのかな。年上とはいえ命令されると従うしかないのは嫌だなと思う。しかし、その方がかなり楽だということも同時に分かっている。決断を相手に委ねた方が楽できる。男性以前に人として駄目なような気がする。

自動ドアを開けて、それぞれ部屋に戻った。俺は五階なので彼女の方が下になる。エレベーターで彼女を見送った後、自分の部屋に戻り、薬を取ってくる。弁当を見ながらレンジで温める。流石に彼女の部屋で暖めてもらうのはなにか異なる。そういえば、ポテトチップスがどこかに。探しているコンソメ味があった…。でも女性は太るからこういったものを…。まあ、いいか。食べなればもって帰ればいいだけの話。


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