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クリスマス戦争 レシラvsパメリタ合衆国 (※コメディーです)


ピロシキ1

[着いたー。食うぞー]


ボルシチ7

[来たよー。飲むぞー]


部下からの報告が、次々とレシラ軍の専用アプリに表示される。着々と現場へ到着し、ミッションに取り掛かっているようだ。

民間機を装った軍の機体も、予定通りパラシュート班を目標ポイントに送り届けている。


AIたん

[みんな揃ったよっ!]


情報部が開発した最新型AIのメッセージを見て、ヒゲの大佐は重々しく頷いた。それは要するに、全員から到着メッセージが入ったという旨の報告だ。

…部下もAIも全員口調がアレなのは、パメリタでの通信は民間網も全て監視されているのでその対策だ。仕方ないのだ。

…別にノリノリでやってる訳ではない。いや本当に。


「…全員予定通りか」


去年は一人、パラシュートが上手く開かない奴がいて大怪我して回収しなきゃならなかったからな。ちょっと大変だった。

今年は備品の点検を怠るバカはいなかったようでなによりだ。


大佐は大きく頷き、普通のメガネっぽく見える高性能デバイスの下でギラリと鋭く目を光らせた。


「ではワシもやるかな!」


大佐のパラシュートは、既に小さく畳まれバックパックの中だ。

余計な痕跡は残さない。

それが彼の率いる特殊部隊の基本だ。


ちなみに今夜は、大佐も部下も全員が単独行動をしている。何故なら今宵はクリスマス。サンタさんは常に現場に一人と相場が決まっているからだ!


「いつも我が国を目の敵にしているパメリタの奴らに、今年も思い知らせてやろう。年に一度のこのめでたい日に、我が国の軍人がパメリタの幼い子どもたちに、一体何をしているのか……クククっ……クククククっ……」


一軒目のターゲットに向かいながら、高笑いしたい気持ちを頑張って抑え、ほくそ笑む大佐。

彼は、この日に子どもたちに渡す物の半分にポケットマネーを使っている。そうすることで、国家からもう半分の予算を引き出すほどにこの作戦に入れ込んでいるのだ。


レシラの上層部は毎年「ちょっと変だな」と思いつつも、この件以外は国家に忠実で有能な大佐の願いなので「まあいいか」と承認している。

それなりに部隊の訓練になるし。



このミッションの第一段階は、何かを欲しがるパメリタ合衆国内の子どもをネット上で探すことから始まる。

豪邸が欲しいとか、優しい両親が欲しいとかの無理な願いは弾かれる。そして身元を割り出し住所を調べ、その子の部屋の位置まで調べる。ストリートマップとSNSがあるので割と簡単なお仕事だ。

皆ネットリテラシーが低くて助かる。


親と一緒の部屋に寝ている子どもも、残念ながら対象から外される。民間人でも普通に銃を撃ってくる物騒な国なので仕方がない。

それでも中々膨大な数の候補が残る。

そこから色々考慮して、部隊の人員に合わせて絞り込むのだ。


当日は深夜に現場に到着する。

陸上班は車やバイク、公共交通機関などで。一部弛んでいる奴らは強制的にパラシュート班に振り分けられる。


大佐の趣味みたいな任務で敵国の捕虜になりたくない!


と部下の普段の訓練に気合いが入るので、このシステムはなかなかに大好評だ。

おかげで年々、パラシュート班に振り分ける人員は減っている。


「パラシュートも悪くないのだがな」


大佐は立派なヒゲを撫でながら独りごちた。

何しろ空から舞い降りる、というところがいい。正にサンタ。ロマンじゃないか。



そんなことはさておき、大佐は任務に取り掛かることにした。一人当たりのノルマがキツいのも、このミッションの特徴だ。モタモタしていられない。

トップの自分がノルマを達成できないなど、あってはならない。というか受け取れなかったら子どもたちが可哀想じゃないか。


可及的速やかに子ども部屋に侵入し、ミッションを済ませ立ち去る必要がある。年々セキュリティシステムが進化しているので、一般宅とはいえ気が抜けない。

急いで、しかし慎重に。


一軒目の家は真っ暗だった。

クリスマスなのにもう親も寝ているのだろうかと(いぶか)りつつ、ポーチを抜け敷地内に侵入する。

子どもの部屋は二階だ。

外壁の微かな出っ張りをつかんで登り、窓の錠を静かに外して難なく侵入した。

しかしそこで異変に気づいた。


ベッドが空なのだ。

キチンと整えられたベッド。

トイレに起きた訳ではなさそうだ。

そっと布団に触れてみるが冷たい。


静かにドアを開け、気配を探りつつ階下に下りる。そこにも人の気配はない。テーブルの上に、料理の残りもない。

大佐は状況を察して肩を落とした。


留守か。


クリスマスシーズンにはよくあることとはいえ、がっくりくる。

この家はダメだ。


残念に思いつつも速やかに家を出る。

持ってきた物は持ち帰る。プレゼントは『子どもの枕元に置く』がミッションルールだからだ。

来年はより長期間、家族全員のSNSをチェックさせて空振り防止に力を入れないとな。


ため息を吐いて次の現場へと急ぐ。

次の家は、一階の部屋に明かりがついていた。人の気配もある。

よし、と拳を握る大佐。

レシラの特殊部隊(サンタさん)の訪れを待っている子どもは大勢いるのだ。へこんでいる暇などない。






この日、彼と彼の部下たちは、パメリタ全土で無数の住宅に侵入しリボンのかかった不審物を残していった。


そしてそれから数日後、ある寂れた海岸沖に停泊している潜水艦に彼らは集っていた。


「皆ご苦労!今年も大成功だったな!」


大佐はご満悦だ。

今年も一人も捕まることなく、任務を完了できた。後はもう、知らん顔をしてこのまま国に帰るだけだ。


「来年も楽しみだな!」


ノルマを達成できなかった奴らには、残量に応じて楽しい地獄の特訓をプレゼントだ。来年は子どもたちを悲しませないように。当然の処置だ。


上機嫌でスピリットを飲み干す大佐には、部下たちの困ったような笑みは目に入らない。





◇ ◇ ◇


パメリタサイド 司令部:




「サンタ追跡システムに反応ありっ…!」


「どこだ!?」


「あっ…消えました」


「こっちは遊覧飛行のようです!観光ルートを飛んでいます!」


「ぐぬぬ…まだ一つも捕らえられんのか!」


「あっ…!怪しい機体が…」


「どこだっ…!」


「…すみません。二機並んでいるので、おそらく観光かと…」


「ええーい!怪しげな所にはとりあえず警察官を差し向けろ!空振りでも構わん!」


現場の指揮官の命令に、スクリーンを見る部下たちはこっそりため息を吐いた。


「勘弁して欲しいよな」


「どうせアレだろ?今年も奴ら、子どもたちにプレゼントを届けに来たんだろ?」


「毎年毎年、よくやるよな」


サン(・・)ドル・()トゥラーノフ大佐だっけ?」


「今まで一件もこの日に敵対行動なし。もういい加減、黙認してもよくね?」


「だよな。この任務が無けりゃ、俺今ごろ家で家族とターキー食ってたのに」


「俺も。この日はおふくろが腕によりをかけるから楽しみにしてたのにさ」


「翌日、冷え切った残り物を一人で食べる虚しさ。やってられねーよな」


「…残り物があるだけいいだろ。俺なんて去年は、帰ったらマカロニチーズ出されて雪かきさせられて終わりだったぜ。クリスマスも一緒に祝えない息子は息子じゃないとさ…」


皆が黙った。

マカチーは好きだが、ターキーの代わりにマカチーはキツい。

同情の視線が集まる。


「…ドンマイ」


近くの席の同僚が、両側から肩を叩いた。


「おまえら、弛んでるぞー!」


ヒソヒソ話に気づいた指揮官の怒号が飛ぶ。

けれど気合いが入らないのも仕方がないのだ。

敵国だけれど、軍人だけれど、彼らはこの日ばかりは自国の子どもたちに笑顔を運んでくれるサンタさんなのだ。

幼い頃にお世話になった人間が、この中にもチラホラいたりする。

だから思ってしまうのだ。


この日くらいは、別にいいよな


って。

どういうつもりか知らないが、彼らは毎年莫大な金をかけて、この国のサンタさんになってくれているのだから。



◇ ◇ ◇


現場の警察官:


雪の中を、二人組の警察官が巡回している。こんな時間に外を歩いている人間を見かけては、声をかける。


「おい!そこで何をしている!」


「あ〜?」


赤ら顔の男が振り返った。

酔っ払いだ。これだけ酔っていれば、悪さなどできまい。

しかも手に持っているのは国産ビールの缶だ。

ならパメリタ人だ。レシラの軍人が、度数一桁の酒なんて飲む筈がないからな!

やけにでかい荷物を背負っているが、どうせ中身もビールだろ。


「行ってよし!」


年長の警察官が、偏見に塗れた判断をスピーディーに下した。

詳しい話は聞かされていないが、自分たちが捜しているのはレシラ軍人だ。一人でも見つければ、ボーナスが出ると上から言われている。

どこにでもいる酔っ払いに構っている暇はないのだ。


もう一人の警察官は、その判断をちょっと疑問に思ったものの、反論はしなかった。

彼にとっては、もらえるかどうかわからないボーナスよりも、日々一緒に仕事をしている先輩の機嫌を損ねないことの方がよほど大事だから。

職場の人間関係、ちょー重要。


「気をつけて帰れよー!」


だから疑問の代わりに一声かけた。男はフラフラとした足取りで片手を上げて去っていった。




◇ ◇ ◇


再び司令部。夜明け:


「今年も!収穫なしか!」


ドゴンとスチール製の机を殴りつけて吠える指揮官。対して部下たちには、もう帰りたいムードが漂っている。


当然だ。

大事な日を無駄に過ごしたのだ。ご馳走もビールもパーティーも無しで。せめて家に帰ってぐっすり眠りたい。


お偉いさんはいいよな。怒鳴って命令するだけの簡単なお仕事で


これが彼らの正直な気持ちだ。


「くっそ!奴らめ!来年こそは!来年こそはっ…!」


怒り狂う指揮官の声を聞き流しながら、部下たちは「来年こそは非番になりますように」とサンタクロースに願うのだった。


来年に、続く!?


※この話はフィクションです。

実在する国家、組織とは一切関係ありません!



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