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phase.08 確信



「フィアナ、お前は大海のヘイムダルについての詳細情報がないんだったな?」 


 いくつか確認だけでもしておこう。


『肯定します艦長、詳細データの提供を希望します』


「では、Daoine(ディーナ) Sidhe(シー)の履歴を遡れ。かつて俺達が活動している惑星の名は?」


『惑星の名はユミルです』


「正解だ。では次に、地球という名の惑星はわかるか?」


『地球はユミルへ移民団を送った人類発祥の地と呼ばれる惑星の名です。移民船は着水に失敗し半壊、3つに分裂した後、現地生命に回収されました。その際に現地生命と融和した地球陣営をラニアケア海王同盟、現地生命と敵対した地球陣営をシャプレー海域同盟、地球への帰還を諦めテクノロジーコアの争奪戦に加わる事のない者を空洞、またはボイドと呼びます』


「そうだ。次にDaoine(ディーナ) Sidhe(シー)の最終作戦目標を答えろ」


 これは大海のヘイムダルの公式の設定であり、ストーリーの導入部だ。

 ここまで知っているくせに大海のヘイムダルという単語を知らないなんて事がありえるのか?


『移民船の墜落より2000年以上が経過した現在、バラバラに散った移民船の3つのテクノロジーコアを回収するの事がDaoine(ディーナ) Sidhe(シー)の最終作戦目標です』


「ああ、そうだ」


 大海のヘイムダルでは初めに、ラニアケア、シャプレー、ボイドの3つの陣営のどれかに所属する。

そして互いがもつテクノロジーコアを奪い合うという名目で戦うわけだ。

 最も、ボイドは勝った方にコアを贈与すると決めてあるため、バチバチに戦うのはラニアケアとシャプレーだけだ。3つの陣営でそれぞれ開発できる兵装に違いがあるし、どっちが強いとかどっちが弱いとかってのはないが、プレイヤーは所属する陣営の技術しか選択できない。



 しかし、全ての陣営と敵対する事を選べば全ての技術開発が可能になる。

その代わり目に映る全ての船が敵であり、仲間以外の何万、何十万というプレイヤー全てが敵になる修羅の道だ。島にあるレストエリアも使えず、島での補給も受けられないので装備や弾薬は自分たちで用意するしかないし、適当にログアウトすることだって出来ない。


 全ての技術開発が可能になる代わりに、全てのプレイヤーと敵対する。

そんなゲームの設定上に辛うじて存在しているお遊びシステムに挑戦するプレイヤーは数多く存在したが、やり遂げる事が出来た者は存在しなかった。


 ただ一隻、Daoine(ディーナ) Sidhe(シー)を除いて


 不可能と思える作戦を次々にこなし、困難と思える状況を打破し、無数の砲弾やレーザーが飛び交うヘイムダルの戦場をただの一隻だけで切り抜けたからこそ、多くのプレイヤーはDaoine(ディーナ) Sidhe(シー)に熱狂したし、俺達9人もそれに応える為に全身全霊を掛けた。


 そんな俺達の最終目標は、ゲームの設定では3つの陣営からテクノロジーコアを奪取するという事になっていたが、そもそもあれはゲームの設定であり、実際に移民船が墜落したりテクノロジーコアがあったりするわけではない。フィアナが話しているのはゲームの設定だ。

 

 大海のヘイムダルというゲームの設定だ



「もう一度聞くが、大海のヘイムダルという名に聞き覚えはないか?」


『不明、類似ワードの検索に失敗。詳細データの提出を希望します』



 3つのテクノロジーコアを奪取するなんていう設定まで知っているくせに、ゲームタイトルは不明か…


 作品に没頭させる為にあえてそうしている可能性もあるが、もうサービス終了するゲームだぞ?

 今更AIシステムなんて導入するか?

 30ヶ国以上の言語を検索できるのに、それ以外のマイナー言語を使うような奴にそうそう出会うか?


 空腹も尿意もゲームでは感じない、倫理的な観点からいくつかの感覚は遮断されているからな。

 感じる前に強制排出されるようになっているし、性的な感覚もまた遮断されている。

 そういうお店にいって金を払えば全能体感型インタフェースなんかで色々できっちゃ出来るが……

 

 大海のヘイムダルはR12でアバター欠損やゴア表現もなければ、味覚遮断もされている健全なゲームだ。


「フィアナ、1つ確認したいことがある」


『ご質問ください』


「例えば俺がここで怪我をしたとして、医療モジュールにいけば回復は可能か?」


『即死で無ければ回復は可能です。バックアップデータを保存いただければ頭部破壊時にも復元は可能です』


「お、おう……じゃあ、ちょっと……」


 やってみるか。


 軽く自分の身体を触ってみる。これだけではここがVRなのか現実なのかは判断できない。


 次に、自分の頭を叩いてみた。


「ふむ……痛いな」


 ヘイムダルに限らず、相当コアなゲームを除いて痛覚は遮断されているはずなのに……

 そもそも俺のVRインターフェースは痛覚には対応していない。

 万が一VR世界でトラウマ級の死に方をすれば現実世界にも影響が出てしまうからな。

 まあ、ストレス値が一定以上になれば警告文が出て強制排出されるから心配はいらないが。


「次は……」


 腰に挿してあったお飾りのコンバットナイフを取り出す。

 ヘイムダルでこれを使うような機会はまず無いが、誰だってアバターには凝るからな。

 Daoine(ディーナ) Sidhe(シー)の制服デザインもみんなで考えた数少ない宝物だ……


 手に持ったナイフで俺は自分の髪を少しだけ切ってみた



「欠損が規制されていない……か……それに髪も手元に残っている」



 髪は簡単に切れたし、切った後の髪は背景グラフィックに溶ける事無く残り続けていた。



 VR世界に潜り続けてしまい、現実世界との区別が付かなくなった場合の判断の1つがこれだ。


 髪を切って地面に落とす。これだけでわかる。

一部の特殊な世界観のVR世界を除いて、VRの世界は清潔だ。髪の毛1つ、塵1つ落ちいない……髪やゴミが落ちてもすぐに消えるからな……そういった不要な描画に演算処理を割かないようにしてある。



「ッ……………」 



 最後に、ナイフで自分の腕を軽く切ってみた。

 

 切った箇所に酷い痛みが走り、髪同様に地面に落ちた血は消える事がなかった。


 VR世界に痛覚は無い。

 専用のマンマシンインターフェースを使ったVR格闘技でしか痛覚が適用されるような事はない。




「ふぅ…………そうか………」



 ようやく事態の深刻さに気付いた俺は艦長席に深く腰掛けた



『一部バイタルが低下しております。バイオモジュールにてナノマシンの摂取とトゥルーライトの照射、医療モジュールにてダグザ錠の経口摂取、医療ポッドにて損傷箇所の修復を提言致します』



 理由も原理も不明だが、ここはVRの世界ではなく、ゲームの中でもなく



「フィアナ……ここは現実か?」



『質問の意図が不明瞭ですが、ここは現実です。ここ数分の発言を推測するに、艦長はゲーム世界と混同されているように見受けられます。精神鑑定を受けることを提言致します。医療モジュールに急ぎ移動願います。続きまして報告いたします。グレートアトラクトリアクター4機、正常可動。モノポールドライヴ4機、正常可動。Daoine(ディーナ) Sidhe(シー)全システムグリーン』



 はあ……異世界転生って……一世紀以上前に流行ってたアレだろ?


 え?

 マジ?



 え?




 とりあえず………精神鑑定受けるか……


 

 リアクターの起動と同時に明るくなった艦内をトボトボと歩きながら俺は医療モジュールに向かった。



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