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phase.06 失望



「戦列艦か…なんだ……この海域は」


『不明。地形データが照合できません。』


「木造の帆船(はんせん)6機で艦隊を組んでいるのか?何故だ?意味がわからない…熱源はあるか?」


『皆無。内燃機関を搭載していない物と推測されます』


「わけがわからん、なんだあの艦隊は……」


 ここがラニアケア海でもシャプレー海でもないとして、周囲に島が見当たら無いほどの海原である事に変わりは無い。大海のヘイムダルにおいて大海原は主戦場だ。何十何百何千という無数のプレイヤーがそれぞれが創り上げた最強の艦をもって各々の友と操縦してぶつかり合う戦闘フィールドだ。


 そんな場所に帆船で来るような馬鹿はいない。

ヘイムダルの主力は鉄鋼船だ、帆船などチュートリアルフィールドの島でしか見る事がない。

別に戦列艦を運用する事自体は問題ないが、装備可能な兵装があまりにも少なすぎるし電子戦が必須となるヘイムダルの海戦において内燃機関すら設けられていない精々20ノットしかでないような帆船などでかい的でしいかない。

 見ている分には微笑ましいので好意的なプレイヤーは多いし、海賊プレイをして遊んでいる奴もここまでしょぼいと逆に襲わないくらいの玩具のような船だ。


 そのような船で艦隊を組んで大海に飛び出すなど気が狂っている。

 誰も興味を示さないかもしれないが、万一流れ弾が飛んできたら木っ端微塵に轟沈するぞ?


「いや…むしろ好都合か…浪漫プレイを楽しんでいるようなユーザーであれば会話は容易だろう。フィアナ、当該戦列艦の分類は?」


『44門艦5等フリゲートが4隻、90門艦2等戦列艦が2隻、計6隻です』


「フリゲートって……一応、兵装を聞いてもいいか?」


『主力兵装はカノン砲、補助火砲としてカロネードが搭載されている事が確認できます』


「カノン砲…カノン砲ね……なるほど、カノン砲か………敵ではないな。そのままドローンで接近してコンタクトを取ってくれ、万が一にも撃ち落されるような事は無いだろう。通信設備があるかは不明だがオープンチャンネルでの対話を優先しろ」


『了解しました艦長』


 ヘイムダルにこういう楽しみ方をしている人がいるとはな。

SF兵装でゴリゴリに着飾ったDaoine(ディーナ) Sidhe(シー)とは対極にある存在だが、正直俺だって木造帆船は大好きだ。Daoine(ディーナ) Sidhe(シー)や近代軍艦とは格好良さのベクトルが全く違う。


 そのフォルムといい

 その戦い方といい

 古代船舶や中世戦列艦は存在そのものが芸術品だからな!



 そうこう考えているうちにドローンが当該戦列艦に接近した。


「もう少しだけ接近可能か?いや、操縦インターフェースを回せ。ここからは俺が見る」


『了解しました艦長』


 5等艦であれば1人、2等艦であれば3人もいれば余裕で動かせるはずだ。

 大海のヘイムダルでは……そのはずなんだが……


「なんだあの人数は、いったい何人の人間で船を動かしているんだ?」


『5等艦は157の人体を確認、2等艦は712の人体を確認。6隻で1996の人体を確認』


「せんッ!?」


 1996人!?大艦隊が組めるぞおい!!?

てっきり帆船に浪漫を求めて集まった10人くらいの仲良しグループだと思ったが、1996人はいくらなんでも異常だ。というより、どうせ操縦するのは10人くらいなんだから折角なら残りの無駄な奴らも木造帆船を作って1500隻くらいの超木造大艦隊とか作ればよかったじゃないのか?そっちの方が面白そうな気がするんだが……

 

 10人くらいの人間の集まりだと思ったが、約2000人の帆船ファンのプレイヤーだったとはな……話しかけるのが急に怖くなってきた。それはつまり、2000人規模の同盟を率いている人間が居るってことだからな、緊張してきた。


 緊張してきたが……話すしかない。

 早くログアウトしたいし……


「ふぅ……………よし」


 ドローンのスピーカーを最大にしてもう少しだけ接近して話そう。

 近付けば近付くほどわかるが、なんだこいつらは……

 むさくるしい男が寄せ集まって……帆船好きってこんな奴らばかりなのか?

 どいつもこいつも忙しそうに動いているが何やってんだろうか。

 

 まあそれはいい。遊び方は人それぞれだからな


<あ、あー、あーマイクテストマイクテスト……>


 お、こっち向いたな?

 指差している奴も居るからマイクは問題なく聞こえていそうだな


<あー突然すみません!少々お尋ねしたい事がありまして――>


 そこまで言って、男達が困惑している様子から俺は気付いてしまった。


 乗組員が全員外国人であることに。


「しまった……フィアナ相手の言葉を集音して言語を特定、俺の言語を相手に会わせて翻訳、スピーカーから流す事は可能か?可能のはずだよな?」


『翻訳は可能です。集音は既に開始しております』


「よし、気を取り直して……」


<あー突然すみません!少々お尋ねしたい事がありまして――>


 今度は英語になっているはずだから伝わるだろうと思ったのだが、どうにもまだ困惑している。

 英語やスペイン語ではないのだろうか?


「何をしている。集音した音声を分析、言語の特定をした後に早くこちらに流せ。」


『分析不能。該当する言語が存在しません』


「そんなはずないだろ、スペイン語か?中国語か?何かしらの言語に該当するだろ?」


『オリヤー語を含め使用頻度上位30言語に該当はありませんでした』


「マジか……ヘイムダルってそんなに対応言語多かったのか…すげぇゲームだったんだな」


 それと同時に、使用頻度上位30言語ではないマイナー言語を使う人達の集団か、困ったな……


『艦長、乗組員の敵対行動を確認しました。』


「なに?」


 どうしたものかと考えてモニターから意識を外している間に、帆船に乗った男達がカノン砲をドローン目掛けて発射しようと動いていたが、


「いやいやいや、そこも手動でやるのかよ。こいつらの戦列艦愛どうなってんだよ」


 モニターを見ると、カノン砲の発射などという音声1つ、ボタン1つでできるような作業を複数の男達が動き回ってこなしていた。浪漫を追い求めるあまり現実と同じように動かしたくなったのだろうが、驚くべき事は現実の動きをここまで再現できるヘイムダルの造りこみのほうだな。


『艦長、指示を』


「放置でいい、どうせカノン砲ではDaoine(ディーナ) Sidhe(シー)のドローンに傷はつけられん」


 せかせかと動く男たち、標準を合わせ、弾を込め、今必殺の砲弾がドローンへと襲い掛かってきた。

 しかし、その砲弾はドローンに当たる直前に半透明の障壁に阻まれてしまった。


「帆船に浪漫を注ぐのは結構だが…近代艦、近未来艦の勉強もしておくべきだったな……Daoine(ディーナ) Sidhe(シー)に生半可な兵装による攻撃は通じない。アトラクトリアクターを搭載してから出直してこい間抜け共が」


 本当は即座に撃沈してやりたいが、出来ることならログアウト方法を聞き出したい。

 2000人もいるのなら誰か1人くらい英語が出来る人間が居るんじゃないだろうかと期待している。

 だから今は撃沈しないでおいてやろう。しかし、Daoine(ディーナ) Sidhe(シー)に砲身を向けたものは全て撃沈、これは絶対だ。お前らの船は情報を全て聞き出してから木っ端みじんの轟沈だ。


「今度はなんだ?」


 どうしたものかとモニターを眺めていると、今度はなんとローブを纏い杖を持ったお爺さんが甲板に現れた。

 

「魔法使いのコスプレは嫌いじゃないが……世界観に合ってねぇんだよ…」


 ここは大海のヘイムダル……船と浪漫が支配する大海原の世界だ。

 剣や魔法のファンタジーが好きならその手のVRゲームを遊べばいいだろう。

 

 そんな事を考えて様子を見ていると…


 ローブを纏ったお爺さんキャラが何やらぶつぶつと呟き

 杖をドローンに向けてかざしてきた。


 その瞬間、


 杖の先に幾何学模様の魔法陣が現れたと同時に眩いばかりの紫電がドローンへと飛来してきた。



「………なんだ?」


 

 当然ながら紫電がドローンに命中することはなく、傷1つつけられることはなかったが……


 

 大好きだったゲームに魔法が実装されていた事に酷くショックを受けた。

 艦隊に傷をつけられるよりもショックだったかもしれない。


お読みいただきありがとう御座います!

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