phase.04 起動
「急ぎログアウトがしたい。会社に遅刻する事はもうどうでもいい。最善策を提言してくれ」
『質問内容が不明瞭です。現在当艦は生命維持を除いた全システムを停止、ログアウト状態にあります』
「……あーもう!なんなんだよ!サービス終了するからってことで久しぶりにログインしたらこんな不具合かよ!最後まで楽しい思い出だけで終わらせてくれよな……このゲームは俺の青春なんだぞ……最後の最後にこういうことすんのマジでやめろよな………」
フィアナは何の役にも立たない。自分で考えるしかないようだ。
サービス終了と言っても『大海のヘイムダル』のアクティブユーザーは5万人以上は居た。
俺と同じ症状に陥っているユーザーが近くに取り残されている可能性もある……か?
可能性はゼロではないはずだ。
となれば……俺のするべき事は他のプレイヤーの探索だが……不可能だ。
俺1人ではDaoine Sidheは十全に動かせない……
ドローンを射出して周辺海域の探索をするのもありか?
いくら腕が鈍っていてもそれくらいなら1人で出来る……よし……
『艦長、作戦行動の発令を提言致します』
やるべき事が決まった所で、アトラクトリアクターを起動しドローン射出の為の準備を始めようと艦長席から立ち上がった所で、フィアナが話しかけて来た。
「いいよ、お前には何も期待していない。俺はリアクターの起動に向かう。回線が復旧したら教えてくれ」
と言っても手動でリアクター起動したのなんて大昔だから、もう手順なんて覚えてない。
ヤバイな、システムメニューが開けないとなると操作マニュアルにもアクセスできないぞ?
え?詰んでね?
海底から動けなくないかこれ?
『回線は今現在途絶状態ですが、ご命令頂ければグレートアトラクトリアクター起動シーケンスを開始します』
「なに…?そんな事が出来るのか?リアクター制御は発令室下部の制御端末にて人力で行う必要があったはずだが?」
『肯定します。ご命令頂ければ即座に実行可能です。』
「少し待て……」
俺が休止している間にシステムが大幅に改善された……という事は無いよな?
昨日ログインした時に一通りアプデ情報には目を通したが新規兵装が追加された以外にはでかいアプデは無かった。今のようにAIと会話できるシステムが実装されたなんて事もかかれてなかったが……不明な点が多いな。
「よし、アトラクトリアクターを起動しろ4機全てだ」
『了解です艦長。起動まで36分』
「カウントダウンは不要だ。他に何が出来る?モノポールドライヴも起動可能か?」
『肯定します。平行して起動致しますか?』
「おお……そうだな、ドライヴの起動も頼む。それと同時に索敵を開始しろ、艦影を補足次第情報を4番モニターに映せ」
『了解です艦長。レーダー分析機の射出許可を』
「許可する。敵性艦の有無だけ確認してくれ」
『了解です艦長。一部バイタルが低下しております。バイオモジュールにてナノマシンの摂取とトゥルーライトの照射、医療モジュールにてダグザ錠の経口摂取を提言致します』
「はいはい……設定細かすぎるだろ」
たかがゲームのAIのくせに色々と凝ってるな……
確かに『Daoine Sidhe』の中にはいくつものモジュールがあるが、あれは当時仲間と面白半分で作っただけの見せ掛けだけのものだ。
あらゆる病気を治すナノマシンを製造するバイオモジュール
死んでさえ居なければ生物を再生し蘇生可能な医療モジュール
医療モジュールでは人体が活動する上で必要な栄養素を含んだダグザタブレットを無限に生み出したり
太陽光と全く同じ波長を生み出すトゥルーライトが設定してあったり……他にも色々作ったな……
みんなで考えるのが楽しくて1つの区画の設定を考えるだけで数週間かけたりしたもんだ。
それにしても、若かったんだなー俺も……厨二病って時期だろうが後悔はしていない。
何1つ恥じる事のない思い出だ。
「プレイヤーの探索が始まるまで適当に艦内を歩いてるから何かあればアナウンスしてくれ」
この時間になれば会社の遅刻は免れないしなんなら無断欠勤だ。終わったわ、色々終わったわ。
どうにかして今回の事故を説明して無実を証明するしかないが、それは今考える事ではない。
アクシデント自体は最悪だが、折角出来た時間は有効に使おう。
昨日は結局時間がなくて1つ1つ回ってあげられなかったしな。
ゆっくりと回って『Daoine Sidhe』とお別れをしよう。
待っていてくれて有難う、沢山の思い出をありがとう。
『艦長、海上に複数の艦影を捕捉しました』
どうやら、艦内をのんびりと歩く時間はないらしい
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