phase.02 乗艦
「んんんん~~~!」
どうやら椅子の上で寝ていたらしく、寝起きの体を慣らすようにゆっくりを伸びをし、昨日も寝落ちしてしまったのかと思いながら目を開けた所でようやく気付いた
「あっと……『Daoine』の中だったか。ゲームの中で寝落ちするとか学生の時以来だな。ははは」
そういえば、VRMMO『大海のヘイムダル』のサービス終了日に久々にログインしたんだった。
「良かったー……寝落ちしてサービス終了のカウントダウンを見過ごす所だったわ」
『Daoine』は超大型船に相応しく、発令所も広い。
俺が座っている艦長席の眼前には何も映し出されていない巨大なモニターがいくつも備え付けてあり、眼下には制御端末がいくつも並び、かつては9人のフレンドがこの発令所に集まり『Daoine Sidhe』を動かしていた。
しかしまあ、313メートルもの巨大な船をたったの9人で動かしていたのはゲームならではだな。どんな航行システムだよ
「って!もう7時じゃねえかッ!?」
眼前の巨大モニターには小さく現実の時刻が表示されているのたが、寝ぼけ眼で薄っすらと見ていたそれをしっかり捉えた瞬間、眠気は吹き飛び血の気が引いた
「遅刻する!!システムコール!!!」
ヤバイヤバイヤバイ、会社に遅刻する!
急いでログアウトしなければと思い、慌ててシステムメニューを呼び出したものの……
「は?!早く出て来い!システムコール!!」
ログアウトするためのメニューが一向に出て来ない。
「マジヤバイ!早く!システムコール!システムコール!」
遅刻する!!嫌だ!怒られる!
…
ん?
あれ?
「そういやまだ『Daoine』の中っていうか、ヘイムダルのサービス終了してないのか?0時に終了だったよな………?」
と、なると……
時計の表示かバグっているだけでまだ夜なのか?
もしくはサービス終了が延期したのか
「いや!今そんな事はどうでもいい!システムコール!」
メニューが開けないと公式サイトにアクセス出来ないから事実確認のしようがない上に、ログアウトだって出来なやしないからな。
表示バグだろうがサービス延長だろうがどちらでも構わないのだが、システムメニューが開けないとどうしようもない。
「……ふぅ……フレンドリスト!……も開かないか………なんなんだよマジで………ひっどいバグだなおい……」
ヘイムダルにこんな酷いバグが発生した事など無かったが、よりによってサービス終了間際にこんな事するかね…管理側の人手が足りてないのかな……はぁ……
「この場合どうするのがいいんだ……」
フレンドリストも表示されないから他のプレイヤーと連絡を取る手段もない……と言ってもフレンドなんて誰もログインしていなかったけど。
チャンネル全体にメッセージを送る広域チャットのアイテムを使ってもいいが、そもそもチャット欄も表示されていないからな……意味がない可能性の方が高い上に俺がチャット見えないんじゃなんの意味もない。
「あああああ!!!時計が正確なら遅刻だ!!誰でもいいから今何時かだけ教えてくれよぉ!!!」
広い発令室の中、艦長席に腰掛けながらジタバタと暴れた
その時だった
『現在時刻は午前7時17分21秒です』
俺の言葉に答えるかのように発令室に音声が響き渡った
「誰だ!?」
だらけた身体を椅子から起こし、即座に声をあげた
『おはようございます艦長。Daoine Sidhe航行制御AI『フィアナ』です』
「フィアナ………?」
なんだそれ……聞いた事が………いや、聞いた事はある……
『2241日振りの乗艦に感謝を。当艦はオールグリーン。各種兵装は予備を含め整備が完了しております。グレートアトラクトリアクター4機、モノポールドライヴ4機は停止、静粛性を最優先に、生命維持システムのみ稼働状態にあります。』
「なん………」
だ?
確かに『Daoine Sidhe』には設定として超高性能航行制御AIが搭載されている事になっている。
そうでもなければ313メートルにも及ぶ超弩級船をたったの9人で動かす事など不可能だからな。ゲームだからと言われれば其れまでだが、そう言う細かな所を色々な設定で補っていた事は知っている。
『フィアナ』は『Daoine Sidhe』に搭載された最新鋭のAIであり、このような超級テクノロジーの補助により俺たちプレイヤーは『大海のヘイムダル』で快適に船を操舵することが出来ていた………と言う設定は知っている。
知っているが……AIと会話するようなゲームシステムは存在しない。昨日久々にログインした時にはそんな機能は無かったので間違いない。
『艦長、作戦行動の発令を提言致します』
混乱する頭に淡々とした『フィアナ』の声が響いていた。
お読みいただきありがとうございます!
お試しに書いてみた初めてのSFですが、SFは知識が沢山必要になって大変ですね……なとなく書き始めてから船とか潜水艦とか全然知らない事に気付いて沢山資料に目を通したり船の事調べたりアマプラでSFアニメを見たりしました。