夢か幻か、初めての魔法発動1
なぜヘンリーがイギリスを訪れることになったのか。
それはすべて、あの夜の出来事にさかのぼる。
あの、夢とも現実ともつかない魔法に包まれた夜に。
その夜、ヘンリーは自分の部屋のベッドの上に座り込んで、
組み木細工の小さな箱をあちこち触っては首を傾げていた。
「ここをこうして、うーん。うん?うーん。」
ヘンリーの持っている箱は、現在闘病中の父親が入院する
前に作ってくれたもので、大切な宝物だ。
何重にも仕組まれた仕掛けを解かないと開かないように
なっており、ずっと触っているのだが解くことができない。
「あーもう、わかんないや」
ベッドに倒れこんでふうっとため息をつく。
「パパ、早く帰ってこないかなあ。」
大きな枕に顔を埋めながら、呟く。
「ぼくはお兄ちゃんだから。パパとも約束したんだから。
ママのお手伝いをすること、妹の面倒を見ること、
ノーラにちゃんとご飯をあげてお世話をすること。」
パパの看病と仕事、そしてまだ幼い妹の世話に
明け暮れているママが、もうすぐ十歳になる自分の事を
後回しにしているのも理解はしているつもりだ。
でも、それでも。寂しいのは苦手だ。ひとりきりの
ベッドで目を閉じると、この世界のいろいろな物は
すべて幻で、真っ暗闇に自分しかいない気がして
悲しくなってくる。
もし神様がいるなら、どうしてこんなに寂しい思いを
させるんだろう。布団を頭からかぶり体を丸めながら
一生懸命涙をこらえていると、ぶるるっと寒気がして
オシッコに行きたくなってきた。
「あああ~おトイレに行くのやだなあ。」
二階建てのこの家で、家族の部屋は二階、
昼間は建築事務所として使われている一階にトイレはあり、
夜は当然のごとく人っ子ひとりいないため不気味な静けさに
包まれており、ヘンリーの一番苦手な場所なのだ。
初夏とはいえ、山の上に建っているだけに夜は冷え込む。
サイドボードの上のガウンを羽織ってベッドから降り立った。
このガウンはイギリスのおばあちゃんが、お祖父ちゃんには
内緒で、ロンドンにある高級デパート、ハロッズで買って
送ってくれた物でヘンリーのお気に入りの品だ。
ただ、本人は気付いていないが、純日本人的なパンツと
ランニングの上に王室御用達の豪華なガウンという、
ものすごく頭の悪い星の王子様のような珍妙な格好では
あるのだが。
階段を降りて月明かりが差し込む長い廊下をそろりそろりと
歩き、なんとかもらさないでトイレにたどり着いて、
用をすませることができた。
「ふうう~」もっと小さい頃は、夜中にこのトイレに
行くのが怖くて我慢してちびってしまう事もあった。
われながら成長したなあとにんまりと笑いながら
ドアを開けると、目の前に巨大な虎がいた。
「????」後ろを向いて考える。これは夢なのか?
パンツに手を触れる。
トイレでオシッコをしたつもりが実は夢の中で、
失敗したことが何度もあったからだ。パンツは濡れてない。
よかった、これは夢じゃない。ん?と言うことは?
「グオオオオオオ!」
虎の咆哮で体がびりびりと震える。
「うきゃああああああああああああ!」
ヘンリーも、お返しのようにガラスが全部割れても
おかしくないぐらいの悲鳴をあげた。
to be continued




