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パラ ベラム(戦争に備えよ)/ノーラの場合

ウォルズリー家の屋敷から少し離れた小高い丘の上に、

初代当主の墓はあった。


今では親族でも訪れる者も少なく、忘れられた存在に

なりつつあった。


「久しぶりね。」

長い金髪を無造作に束ね、浅葱色のワンピースに身を包み、

ワインボトルの入ったカゴを持った女性が墓碑の前に

たたずんでいる。


「あたしがアンについて日本に渡って以来だから、

十年以上ぶりかな?」

女性は座り込んで、墓石を突ついて、はにかんだように笑う。


「あら、忘れちゃった?さすがに荷物を運ぶのに

いつもの格好じゃ無理だから、せっかくだからあんたと

出会った時の姿になってあげたのに。仕方ないわね。」


女性はカゴから古い赤ワインを取り出し二つのグラスに

注いで墓の前に置くと、ワンピースの裾を持って

くるりと回り、いつもの白猫ノーラの姿に戻った。


「いよいよ明日よ。親族会議。

まあ、ウォルズリー家最大のピンチかもね。

ルーパス坊やは仕方ないとしても、あの黒い森の魔女が

ちょっと厄介なのよね。


そう、まるで、あんたと出会った時のあたしみたい。

一族の復讐の事しか頭になくて、

すべてを滅ぼす事のみを願い一切の迷いがない。


まあでも安心して。約束通り、あんたの子供たちは

あたしが守るから。」


ノーラは、初代当主と出会ってからの様々な出来事を

思い出していた。

「本当に、最初はあんたのこと、ぶっ殺してやろうかと

何度思った事か。だってそうじゃない?永遠の命を

与えてやるって言うから、喜んで契約したら猫よ猫!


いくら文句を言ってもあんたは知らぬ存ぜずだし。

やけっぱちになって高い所から飛び降りたり、

毒草食べてもなかなか死なないし、

死んだらまたリセットされて白猫よ!

こんな契約、今の時代なら裁判ものよ!」


でも、面白い事もあったな。

当時、ヨーロッパ中を放浪していたあんたと一緒に

旅したおかげで、色々なことー様々な風景や人々、

食べ物を知る事ができたし。


それに戦争や飢餓、病気で簡単に消えていく、命。

はかないからこそ一生懸命に生きる事の大切さを

教えてくれたのも、あんただったわね。


でもさ、時のイングランド王に協力して戦争を

集結させてからは、ここイギリスに定着して、

やっと落ち着いた生活が始まると思ったら、

あんた急に病気で死んじゃうしさ。


あんた、亡くなるときにあたしと約束したわよね?

いつか、また会えるよって。

それまで、この家を守ってくれって。


ねえ、あたしずーっと待ってるのよ。

あんたもいい加減、約束守りなさいよ。」


ノーラは立ち上がり、墓に背を向けた。

「あたしも年かな。魔力も衰えてきて、

次は生れ変わる事も無理かも知れない。


だから、最後にもう一度だけ、あんたに会って

おきたかったんだ。じゃあね。」


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