シュヴァルツヴァルト・ドライブ4
「ヘンリー!」
ノーラが絶叫し顔を覆った。もの凄い瀑煙があがり、
煙が晴れると無傷のヘンリーがいる。よく見ると、
ヘンリーの周りに結界が張られている。
「いったい、どういう事だ?」
アーサーが唖然とする間にもヘンリーは戦車隊の方へ
向かい、掲げた右手をまっすぐ振り下ろしたかと思うと、
巨大な雷が戦車隊を直撃し、もの凄い轟音とともに
先頭の戦車が吹き飛んだ。慌てて二台目、三台目の
戦車砲が火を噴くが、結界ですべて弾かれてしまう。
続けて二度、三度と手を振り下ろすと残った戦車も
全て吹き飛ばされてしまった。
「こいつは凄い!とんでもない力じゃないか。」
アーサーが唸った。
「ヘンリー、ヘンリー!ダメ、止めなさい!」
ノーラの叫びもまったく聞こえないかのように
ヘンリーは辺り一面に雷を落とし続ける。
「おいおい、流石にヤバいぞ!この辺りの森が
全部焼け野原になってしまう!」
「太郎、もう止めて!」
アーサーがぎょっとして振り向くと、
ノーラが母親のアンに変身して叫んでいる。
「いいの、もういいのよ。お止めなさい!」
「マ、マ、」ヘンリーの動きが止まり、
こちらを振り向くと、膝から崩れ落ちて
ゆっくり地面に倒れ込んでいった。
「今のうちよ、ヘンリーを車に乗せて、早く逃げるわよ!」
「あ、ああ、わかった。そうしよう。」
車を走らせながら、アーサーは白猫姿に戻ったノーラに
話しかける。
「ヘンリー君のあの力は、いったいどう言う事なんだ?」
「あの森で経験した事が引き金になって、
遂にあの子の力が覚醒したのよ。祖父のハワードを超え、
おそらくウォルズリー家の歴史の中で最強の力が。」
「あの森の経験って、いったい何がおこったんだ?」
「そんな事、あたしにもわかんないわよ、
あの子が目覚めてから聞かないと。」
「あのさ、最後にいいかい?」
「何よ、もう。まだなんかあるの?」
「できたら帰りのドライブはさっきの姿でいてくれると
うれしいんだけど。」
「あんた、バカなの!」ビターン!
ああ、これがいつもヘンリー君のもらってるビンタか。
これは効くな。
何とか屋敷に辿り着いたのはその日の真夜中を
大幅に回った頃だった。
ヘンリーをベッドに運んでアーサーがぼやく。
「いやはや、何とも大変な一日だったな。」
「ノーラ様もヘンリー様もご無事で
よろしゅうございました。」
レスターが自分の寝室から駆けつけてきた。
「お茶はお持ちしなくても大丈夫ですか?」
「レスター、あんた人の心配してる場合じゃないでしょう?」
「ノーラ様、執事としてそういう訳には参りません。
しかしいったい何が。」
「まあ、朝になってヘンリーが目覚めたら聞くとしましょう。あたしも疲れたわ。」
「ぼく、見ちゃったんだ。」
全員がぎょっとして振り返ると、
ヘンリーが目を覚ましていた。
「ヘンリー君、見たって何を?」
ヘンリーは、しばらく沈黙した後、ゆっくりと喋り出した。
「あの村で、何があったか。あの顔のない少年は、
魔女の弟だったんだ。
お姉さんが捕まったのを心配して街に行ったんだけど、
後を尾けられて、あの村がばれちゃったんだ。
魔女狩りの連中や街の人たちががあの子を人質に取って、
酷い拷問をして村の人たちを捕まえて。それで、それで」
ヘンリーの両手がシーツをしわくちゃに握りしめて、
小さく震えてる。
「でも、その村は魔女の一族の村だったんだろ?」
「いくら相手が魔女だからといって、あんな事が
許されていい訳ないよ!」
ヘンリーの叫びが部屋中に響いた。
「あんな、あんなこと、人間のやる事じゃない!
大人も子供も、男の人も女の人もたくさん酷い事を
されて、みんな、みんな殺されて。」
両手で顔を覆って、ヘンリーが泣き出した。
「あの子の記憶がぼくの中に入ってきたんだ。
痛みも、苦しみも、悲しみも全部。
もう忘れる事なんてできないよ。」
「ヘンリー、落ち着いて。」
ノーラがゆっくりと諭すように話す。
「ノーラ、ぼくもう解らないよ。
あの魔女は悪いやつで、倒さなきゃいけないと
思っていたけど、本当に悪いのはだれ?
自分の家族や友だちにあんな事されたら、
人間なんて復讐されて当然、殺されて当然だよ!」
「そういうことを言うのは、お願い。止めて、ヘンリー。」
「あの子も救えなかった。友だちなのに。約束したのに。
あの子はまだ、あの黒い森の中で独りぼっちで
さまよっている。
ぼく、何にもできなかったんだよ、ノーラ。」
声をあげて泣くヘンリーを、
皆、ただ黙って見守るしかなかった。
to be continued




