シュヴァルツヴァルト・ドライブ3
「遅いわねえ、ヘンリーってば大丈夫かしら。」
「本当にこの先に何かあるのかい?何にも見えないぜ?」
結界の外でノーラと追いついたアーサーが心配していると
結界からゆっくりとヘンリーが出てきた。
「何やってんの、心配するじゃないって、
あんた、ヘンリーちょっと大丈夫?」
真っ青な顔色でフラフラの状態で出てくると、
アーサーの腕の中に倒れ込んだ。
「おい、ヘンリー君!」
「ヘンリーしっかりして!」
とりあえずヘンリーを抱きかかえて車に戻ろうとする
二人の前に人影が立ちふさがった。
「イギリス情報部、アーサー・ボイルさん御一行ですね?
ドイツ国家保安警察です。ご同行いただけますか?」
軍服姿の二人の男が、なまりのない英語で話しかけてきた。
「いや、ぼくたち単なるイギリス人旅行者だけど、
人違いじゃないかい?」
道の向こうから後2台の車がやってきて止まり、
4人の男が降りてきた。
計6人か、こいつはちと厳しいな。さてどうしたものか。
「大人しくご同行いただくほうが、お互いの利益に
かなうと思いますが。」
「ふむ、そうだな。その前に、この子を車に降ろしても
いいかい?」
6人の男たちは双子のような息の合ったタイミングで
顔を見合わせると、うなずいた。
「かまいません。」
「そうかい?悪いね。」アーサーをゆっくり助手席に
座らせると同時に、車内に先回りしていたノーラが
素早く銃を手渡しした。
「はい、動くなよ!今から抜いても絶対間に合わないから。
こちらとしても英独関係にいらないもめ事を起こしたくは
ないんだよ。」
が、男たちは無言で距離を詰めてくる。
「おいおい、命知らずは止めておいた方がいいぜ?
止まれ!おい、止まれってば!」
「仕方ない!」
先頭の男の足を撃った。だが男はそのまま近づいてくる。
「おいおい、何だよこいつら。」
男たちは、唸り声をあげながら、軍服を引き裂いて
巨大な熊のような姿に変貌した。
『オトナシクキテモラオウカ』
「アーサー、こいつらメリッサと同じ魔女の眷属よ!
普通の銃弾は効かないわ!」
ノーラが叫ぶ。
「慌てなさんな、そういう事なら話は別だ!」
アーサーは車のシートの下から銀色に輝く銃を素早く
取り出すと怪物に撃ち込んだ。先ほどとは違い、
銃弾が撃ち込まれるたびに、怪物は悶え苦しんでいく。
「こいつは効くだろう?メイドさんに銃弾が
効かなかったのを反省して大急ぎで造らせ
たMI6武器部オリジナル、純銀の弾だ!高いんだぜ!
「やるじゃない!こうなったらあたしも
負けてらんないわね!」
ノーラはボンネットに飛び移り呪文を唱えたかと思うと
巨大な鷲の様な姿に変身し、上空に舞い上がると
つむじ風を巻き起こし、残りの怪物をなぎ倒して行く。
「すごいな、白猫姉さんは何でも有りだな。」
素早いモーションで銃を連射しながらアーサーが
感心したように叫ぶ。
「バカな事言ってないで、今のうちに逃げるわよ!」
「オッケー!長居は無用だな!」
だが運転席に乗り込んだアーサーは、前方の道を
見た事のない巨大な3台の車両が塞いでいるのに気づいた。
「嘘だろ、おい。噂には聞いていたけど、
もう完成してたってのかよ。」
それは後のヨーロッパ戦線で連合国を震え上がらせる
事になる、タイガー戦車だった。
ノーラが上空から何度もつむじ風を起こすが、
びくともしない。しまいには疲れ果て車に舞い降りて
変身も解けてしまった。
「ちょっと、何なのよアレ!冗談じゃないわよ!
アレはまずいわ、あたしの魔法じゃ歯が立たないわ。
とっとと車出しなさいよ!」
アーサーは首を横に振った。
「逃げ出したくても、あれだけの戦車砲に狙われたら
逃げ場はないよ。」
「じゃあ何、むざむざ捕まるしかないってわけ?」
「木っ端微塵で人生を終えるのはイヤだろう?」
「捕まって拷問されるのもまっぴらよ!」
拷問?また?拷問は、もういやだ!
それまで意識を失っていたヘンリーが急に
目を覚まし、立ち上がった。
「ちょっとヘンリー、あんた起きちゃダメよ!」
「ヘンリー君、危ないから身を伏せて、ヘンリー君!」
ヘンリーは二人の呼びかけに一切返答せず、
まるで何かに取り憑かれたかのように
車を降りて、まっすぐに戦車隊の方へ向かって行く。
「危ない、戻れ!」「ヘンリー戻って!」
ノーラが駆け寄ろうとした瞬間、戦車砲が火を噴いて
ヘンリーを直撃した。
to be continued




