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シュヴァルツヴァルト・ドライブ2

「ねえ、ノーラ、こっちに来てちょっと手を伸ばしてみて。」

ノーラが手を伸ばしてみる。


「これは、まさか!」

「これ、何だと思う?」

「これ、結界よ。」

「結界?誰が、何のために?」


「おそらくあの魔女の仕業よ。一般の人間には何も

見えないし、何も触れない。そしてあたしやあんたの

ような魔力を持つ者は立ち入る事を拒むようにできている。

おそらくこの結界の中が魔女が住んでいた村なんだと思う。

それにしても、三百年経っても解けない結界なんて

聞いた事もないわ。何という魔力なの。」


ぼくはそっと手を触れて、ゆっくりと力を入れてみた。


「ねえノーラ。ぼく、この中に入れるかも知れない。」

「ええ、嘘でしょ?この結界の強さは尋常じゃないわよ?」

「ひょっとしたら、ここがきみのお家かも知れないよ。

行ってみよう。」


ヘンリーは顔のない少年の手を握ると、眼を閉じて、

結界に振れた手に意識を集中して、少しずつ、少しずつ。

ゆっくりと力を加えて行った。


まず右手が消え、そのまま身体が少しずつ消えて行く。

「ちょ、ちょっと待ってヘンリー!

中はどうなっているのか見当もつかないのよ!」

「大丈夫、ここで待ってて。」


ヘンリーの姿がゆっくりと消えて行くのを、

ノーラは呆然と見送った。

「この結界を簡単に破れる魔法使いなんてそうはいない。

あの子、もの凄いスピードで魔力が上がっていってるわ。

まさか、もう覚醒しかけてるの?」


完全に結界を通り抜けた二人の前に広がっていたのは、

古い小さな村だった。

「あのー、誰か、どなたか、いませんか?」


人気はなく、返事はない。家の中をのぞくと、

テーブルの上には食事の支度があったり、

仕事で使う道具がそのまま残されて、ついさっきまで

誰かがいたような気配がする。


「何だか、時が止まっているみたいだ。

ここがきみのお家のある村じゃない?」

その時ヘンリーは男の子が震え出しているのに気がついた。


「あ、ああ、あああああ、ああああああああ!!」

絶叫すると倒れ込んでしまった。

「しっかりして、大丈夫?」

抱きかかえた瞬間、少年の姿は消え、ヘンリーの頭の中に

顔のない少年の体験した記憶が、一気に流れ込んできた。

それはヘンリーが生涯忘れる事のできない、

凄惨で無惨な光景だった。


顔のない少年、ミヒャエルは人間の街で聞いた姉ニナの

行方について、村の大人たちに相談しようと戻ってきた

ところだった。村の者にしか通れない結界の秘密の

出入り口から入ろうとした瞬間、後を尾けてきた人間に

腕を掴まれて引き戻されてしまった。

「よう坊や。ご苦労様。」振り向くと、

街で会った男の他に武装した沢山の人間がいた。


にやりと笑う男の顔を見て、ミヒャエルは初めて

自分がだまされた事に気づいた。

「俺たちにはわからないけど、この辺りにおまえら

魔女の村があるんだろ?ひとつ案内してもらえると

助かるんだがな。」


ミヒャエルは思った。

ぼくが信用したばっかりに、

悪い人間を連れてきてしまった。

村のみんなを巻き添えにするわけにはいかない。


「なんだぼうや、協力してくれないのか。残念だなあ。」

固く口を閉ざすミヒャエルを見た男は小さく笑うと、

懐からナイフを取り出し、いきなり何も言わずに

ミヒャエルの右腕に突き刺した。

「あーーー!!」

絶叫とともにミヒャエルは泣き叫んだ。


「協力してくれる気になったか?」

男は笑いながらナイフをえぐるようにまわす。

「いやー!」

泣き叫びながらも、何も喋らないのを見ると

男はあたりに向けて叫んだ。


「おい魔女ども!おまえら見てんだろ?

早くしないとガキがどうなっても知らないぞ?

次は耳がいいか?それとも目か?好きなだけこいつを

切り刻んでやるぞ!」その時だ。


「子供を離せ!」

エミールがクワを片手に結界から飛び出してきた。

「エミール、来ちゃダメ!みんなも出てこないで!」

泣きながらミヒャエルが叫ぶ。


「いるじゃねえか。武器を捨てて全員出てこいよ。

そうしないと手遅れになるぜ?」

ナイフがミヒャエルの右耳を削ぎ落とした。

絶叫が森中に響き渡る。


「わかった!わかったからもうやめてくれ!」

結界から村の人間が出てきた。みんな泣き叫ぶ

ミヒャエルを見て涙を流している。


「これで全員か?嘘ついてないだろうな!」

「嘘はない。もうその子を解放してやってくれ。

人質なら代わりにワシがなる。」

最長老のフックスが一歩前に出る。


「ふん、どうやらあんたいちばん偉いさんみたいだな。

ま、それもいいかな。」

男の気がそれた瞬間、ミヒャエルは屋外で焚き火を

するのに便利だからとニナに教わった唯一の魔法、

小さな炎を起こし男に投げつけた。

炎は男の片目を捕らえ火花が散った。

「ぐああー!目が、俺の目が!」

男の手を振りほどいてミヒャエルが村のみんなの元に

駆け寄ろうとした瞬間だった。


「何しやがるこのくそガキ!」

何発もの銃弾が小さな身体を貫き、地面に叩き付けられた。

「ミヒャエル!おのれ、貴様ら!」

長老たちが一斉に魔法を放ち、魔法を使えない者たちは、

クワや棒で立ち向かった。


「くそ、こいつら調子に乗りやがって!全員生け捕りに

しろって話だったが、もうかまわねえ、皆殺しだ!」


いくら魔法が使えても、多勢に無勢、あっという間に

村人たちは倒されて行った。

人間たちは村人を制圧すると、オモチャのように

もてあそびながら殺していった。


抵抗した男たちはよってたかって切り刻まれ、

女性の多くは陵辱された後、殺された。

逃げ惑う小さな子供たちはナイフや弓矢の的にされていった。

それらの全てをミヒャエルは地面に横たわり、

瀕死の状態で涙を流しながら見ていた。

ごめんなさい、みんな。ぼくのせいで、

こんな。ごめんなさい。


「このガキ、まだ息があるぜ。」

片目を押さえた男がミヒャエルの金髪を掴み

引きずり起こした。


「てめえ、よくも俺の片目を焼いてくれたな!

倍にして返してやるぜ。」

ミヒャエルの目の前にナイフの切っ先が迫ってきた。

それが最後に見た記憶だった。


to be continued


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