シュヴァルツヴァルト・ドライブ1
「で、ドイツまでやって来た理由ってヘンリーくんの
夢の友達探しって訳かい?」
ちょっと呆れたような口調のアーサーさんの
運転する車でぼくたちーぼく,ノーラ、アーサーさんは
黒い森、シュヴァルツヴァルトを目指している。
「すいません,アーサーさん。そう言えばレスターさんの
具合はどうですか?」
「まあ、あと一日寝ておけば大丈夫だろ。
さすが白ニャンコ先生の魔法だ。」
「あんたねえ、そのいい方,なんか腹立つわね!
まあ、いいんだけど。
箱から出ているからか、ノーラはくつろいで快適そうだ。
「しかし、その夢に出てきた子供が、この件に本当に
関係あるのかい?」
「確証はないんですけど、でも何かつながりがある気が
して仕方ないんです。」
ノーラが続けて話す。
「あたしもヘンリーから最初聞いたときはどうかと
思ったんだけどね。あくまで想像なんだけど、イギリスに
来てあの魔女の魔力を一番受けているのはこの子なのよ。
その課程で向こうの精神世界と何かのきっかけで
シンクロ状態になって、そんな夢を見たんじゃないかと
思うの。で、その子供を探す事が、あの魔女の秘密を
解く鍵になる気がするのよ。」
「なるほど。しかし、一口に黒い森と言っても
なかなかの広さだぜ?」
「それなら大丈夫。」
ノーラがミシュラン社の地図を広げながら指差した。
「伝承によれば、黒い森の魔女裁判で有名な街がここ、
そこから一番近いこの森一帯で間違いないと思うわ。」
「オッケー、じゃあ急ごう!」
アーサーはミラーに移る後方の様子を確認すると、
アクセルを踏み込んだ。
「ところで、後ろの車、ずっとあたしたちを尾けて
きてるわね。」
「ああ、ドイツ入国以来、ずっとだな。」
「ええ、そうなんですか?」
振り向こうとするとノーラのビンタが飛んできた。
「バカなの?こういう時は前向いて気づいていない
振りするの!」
ママ、ぼくの頭がこれ以上良くならなかったら、
絶対ノーラのせいだと思います。
「お二人さん、そろそろだよ。」
やがて目的地に到着した。車を木陰に止めて森へ
足を踏み入れる。
「ここが例の魔女たちが住んでいた黒い森か。
特に何と言うことはないよな。」
アーサーさんは辺りを見渡して言うが
ノーラは対照的に、何とも居心地悪そうにつぶやく。
「これはちょっと、気配が凄いわね。アーサー、
あんた何も感じないの?」
「ん?まあ、何と言うか森の中が薄暗いせいか、
不安な感じにはなるかな。それがどうかしたのかい?
ヘンリーくん、君はどうなんだい?」
「何だか怖いです。怒っているのか泣いているのか
わからないけど、この森自体が感情を持って
人間が立ち入ることを拒否している感じがします。」
なんだろう、この肌がピリピリと言うか、
ざわざわしたイヤな感じが止まらない。
「どう、ヘンリー。その子の気配、何か感じる?」
「うーん、森の空気がすごくて、今のところわからないや。」
ガサッ、ガサッ、足を踏み入れてゆくごとに嫌な感じが
強くなっていく。
その時だ、奥の木立にあの子の姿が見えた。
「あ、待って!」
「ヘンリー、一人であんまり奥へ行くんじゃないわよ!」
後を追いかけて、森の奥深くへ入っていった。
「おかしいなあ、この辺りだと思ったのに。」
少年が消えた辺りをウロウロしているうちに、
随分奥まで来てしまった。
「あ、いた!」
初めて出会ったときと同じように、座り込んでいるが、
どうも様子がおかしい。
近づいてみると、ガタガタと震えている。
「きみ、だいじょうぶ?」
ヘンリーのかける声が届かないようだ。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
村のみんな、ぼくのせいで、あんなことに。ごめんなさい。」
「もう、だいじょうぶだよ、ねえ、ぼくだよ、ヘンリーだよ。」
男の子が顔を上げた。
「その声は、ヘンリーくん?」
「そうだよ、約束しただろ、きみのお家を探しにきたんだ。」
その時、ヘンリーは目の前の空間がぼんやりと
歪んでいるのに気がついた。
手を伸ばしてみると、何もないはずの空間に、
なにかが存在している。まるで分厚いゴムの様に弾力があり、
触る事はできるが破る事は無理だと思わせる。
「ヘンリー、どうしたの?見つかった?」
ノーラが後を追いかけてきた。
「ひょっとして、その黒い影がそうなの?」
どうもヘンリー以外には、少年の姿はちゃんとは
見えないようだ。
to be continued




