顔のない少年2
その夜,ヘンリーはベッドに入ってからも
ノーラに言われた事をずっと考えていた。
あの時,メリッサさんが人間の姿に戻った時。
殺さなくても,争わなくても、
解決する事はできたんじゃないだろうか。
だって、ぼくたち、話し合ってないじゃないか。
パパが言っていたみたいに,なんでそんな事をするのかを
理解できたら、もっと違う道があるんじゃないのかな。
「それは違うわよ,ヘンリー。」
同じベッドで背中合わせに寝ているはずのノーラが
ぼくの心の中を読んだように声をかけてきた。
「違うって,何がさ?」
ぼくも背中を向けたまま,ノーラにたずねる。
「あれは、あんたに力がないからああいう事になったの。
相手を押さえ込む強さもなく,本当は何を考えているか
察する感性も足りない。だから相手の言う事をそのまんま
信じて,あやうくみんな全滅するところだった。
全部、あんたの力不足のせい。」
「そんなこと、わかってるよ。」
「じゃあ,早く寝なさい。」
「わかってるよ、そんなこと。ぼくがなんにも
できないことくらい、わかってる。でも…。」
「でも、なに?あんたねー」
しつこいヘンリーにいらっときたノーラが怒ろうとして,
言葉を止めた。
「うっ、うう…うう」
ヘンリーが声を殺して泣いていた。
ママにあいたい。
パパや華子にあいたい。
お家に帰りたい。
ママ、ママ、ぼく、もうイヤなんだ。
怖い思いばっかりで、もう無理だよ。
「うう、うう、うう。」
背中を向けて泣き続けるヘンリーを見てノーラは思った。
わかってるのよ、あんたがまだ十歳の子供なのも。
限界まで精いっぱいやってる事も。
でもね、あんたがしっかりしてくれないとハワードも
あたしも安心していけないの…。
ふうっとため息をつくと,
ノーラは何かの呪文を小さな声で唱えた
仕方ない,こんなの特別なんだからね。
「太郎。こっちを向いて。」
ママの声だ!え、でも、なんで?振り向くと、
幻じゃない,ママがそこにいた。
「おいで,太郎。」
ママ、いやママに変身したノーラは優しく微笑んだ。
「ううわああああん、ママ!わああああん」
抱きしめられて大声で泣くうちに、
太郎、いやヘンリーはいつか,深い眠りについていた。
深い眠りの底で,ヘンリーは不思議な夢を見ていた。
一人で暗い森の中をさまよって、
どこへ行けば抜け出せるのか,見当もつかない。
あてもなく歩いていると一人の少年がうずくまって
泣いている。
年令は自分と同じくらい,気になって声をかけようと
思うと,姿が見えなくなってしまう。
あきらめて歩いていると,またうずくまっている。
何度も繰り返すうちに見失ってしまった。
ヘンリーは途方に暮れて座り込んだ。
ここはいったいどこなんだろう?
「ここは、黒い森だよ。」
驚いて横を見ると,さっきの少年が同じように
膝を抱えて座り込んでいる。
「黒い森?」
「うん。普通の人は入れないんだよ。きみ、すごいね。」
「ええ、そうなの?そうだ,ぼく、ヘンリー。きみは?」
「ぼく?わかんない。」
「え、名前,忘れちゃったの?」
そこまで話したところで,ヘンリーは少年の顔がない事に
気づいた。
「き、きみ,顔がないの?」
「かお?かおってなに?」
「迷子なの?お家はどこ?」
「おうち?おうちは…」
急に少年の口調が変わった。
「おうちにかえりたい。この森のどこかなんだけど,
おうちがわかんないんだ。おうちにかえりたい、
ねえさまにあいたい、でも、でも、ぼくがわるいんだ、
ぼくのせいなんだ。ぼくのせいでみんな、
みんなしんじゃった。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
だからねえさまもずっとおこってる。
ごめんなさいっていってもきこえないんだ。
ねえさま、ごめんなさい。
でもあいたい。おうちにかえりたい。」
少年は声を上げて泣き出した。
ヘンリーは思わず、少年を強く抱きしめた。
「ねえ,泣かないで。大丈夫だよ,ぼくがいる、
きみのお家も探してあげるよ。」
「ほんとう?ぼく、おうちにかえれる?」
「もちろんだよ!きみ、ここでずっと一人なの?」
「うん、むかしはみんないっしょだった気がするけど、
ずうっとひとりだよ。」
「じゃあ、これからは一人じゃないよ。ぼくが友達だよ。」
「ぼくのともだちになってくれるの、ヘンリー?」
「もちろんだよ!」
握手をしたところで,ヘンリーは目が覚めた。
気づくと涙があふれていた。
右手には、まだ、あの子の手の感触が残っている。
これはただの夢じゃない、
あの子はいるんだ。ひとりぼっちで、黒い森の中を
ずっとさまよっているんだ。
「そういえば、黒い森って,確か!」




