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顔のない少年1

すべてを焼き尽くしたあの日、あれから三百年が過ぎた。


一羽のカラスが飛んできて、バルコニーのニナの

すぐ側にとまる。


「そう、あの婆さんもやられたの。本当に役に立たないこと。」

カラスを優しく撫でながらつぶやく。


あの子供にそれほど魔力があるとは思えなかったけど、

意外にやるじゃないか。


まあ、いい。手駒はいくらでもある。

殺そうと思えば何時だってできる。

それより問題はハワードだ。


歴代ウォルズリー家の中でも指折りの魔力をもつあの男が

魔法壁を施したあの塔にこもっている限り、

こちらからは手が出せない。


やはりチャンスは、後継者を指名する会議の場しか

ないのだろう。それまでは周りの人間を始末していって、

たっぷりと恐怖を味合わせてやる。


ドイツでは、遂にヒトラーが兵を起こし、

侵略と虐殺の第一歩へ歩み出した。


イギリスもあの家を乗っ取ったら、政府も王室も

すべてを飲み込んでドイツのように地獄の門へと続く

一本道を敷いてあげる。


そしてヨーロッパからアメリカ,アジア,世界中の国々へ。


もっと、もっとだ。奴らの血を奴ら自身の手で、

この大地に降り注がせ、生まれてきた事を後悔するような,

この世の地獄を見せてやる。


村のみんなが受けた苦しみや悲しみ、

絶望を人間共に味あわせてやるから。


ミヒャエル、エミール、村のみんな。

もう少しだけ待っていてね。


きっと、すべてが終わっても、

私はみんなと同じ場所に戻る事はできないだろう。


でも、かまわない。すべてが終わって

ひとつまみの灰になって消えてもかまわない。


ただ、ただひとつだけ心残りがある。

ミヒャエル。あなたの笑顔が思い出せないこと。


思い出そうとすると、あの時の絶望と苦痛に

ゆがんだ顔しか浮かんでこない。

お願い。もう一度,笑って、ミヒャエル。


「おーい、どこだ。どこにいるのだ。」

廊下から声がする。ルーパスが起きてきたようだ。


「どうされました、ルーパス様。嫌な夢でもご覧に

なりましたか?」


「おお、ニナ。」ルーパスは迷子の子供のように、

おろおろと廊下を徘徊している。


「わたしはここにおりますよ?どこにも行きはしません。」

ニナはにっこり笑ってルーパスに寄り添う。

「いや、メリッサを、メリッサを知らぬか?

どこにもおらぬのだ。」


あの婆さんか。ちょうど先ほど、ハワードの配下の者に

焼かれたところだ。


「ーさあ、存じ上げませんが。どうかなさいました?」

ルーパスは途方に暮れた顔で、話し出した。


「うむ、いや、馬鹿げた話だとは思うのだが、

さきほどわしの夢に現れて、もう、二度とわしの側に

いる事はできないと、別れを告げおったのだ。」


怪物になっても、気持ちは恋する乙女のままなわけね。

大した執念だ。


「ああ、そういえば他のメイドと共に暇を取らせて

ほしいと言っていましたわ。」

「まさか、まさか、そんな。もう何十年も、

いつもわしの側にいてくれたのに。」


ルーパスはひどくうろたえ、親指の爪を噛んでいる。

ふん、こいつには呆れるばかりだ。この小心者め。


「所詮は彼女も、他の者と同じだったという事でしょう。

あなたのことを腹の底で馬鹿にし蔑んでいたのでしょう。

だからこうやって、あなたの気持ちも

考えずあっさりといなくなってしまうのですよ。」


「そんな、メリッサがそんな。

いつも一緒にいてくれたのに。あいつまでわしを!」


ブルブルと震え出すルーパスを強く抱きしめ、

ニナはささやく。


「初めて出会ったときに言ったでしょう?

あなたの理解者は私だけ、どんな時も

私がついている限りあなたは大丈夫です。」


ささやくニナから溢れ出す闇が二人を包みこみ、

ルーパスの瞳を再び染め上げる。


「そう、そうだ、わしにはおまえがいる。

おまえさえいてくれればいい。」

「さあ、もう一度楽しい夜を始めましょう。」


二人が寝室へと消えて行く後姿を、カラスだけが見ていた。


to be continued

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