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メリッサ、愛の果てに2

怪物へと変身したメリッサが襲いかかる。

ヘンリーの魔法により、なんとか追い詰めるが、

その甘さをつかれ、逆襲される。

一点ピンチに陥った彼らを救ったのは?

「許さない、あの方を、私の愛しい人を傷つける者は

許さない!」

みしり、みしり。メリッサさんの身体が奇妙な音を立て

ねじれながら伸びていく。

上品なブラウスが裂け、背中からいびつな形の

毛むくじゃらの腕が二本、現れた。


引き裂かれたスカートから牛のように変化した両足がのぞき、

腰の辺りまでびっしりと長い毛がはえていき、

頭が天井まで届かんばかりの巨大な怪物へと変化していった。

「何という事だ。メリッサ、君までも闇に落ちてしまっていたのか。


レスターさんが呻きながら呆然と立ち尽くしている。

「父さん、どいてくれ!そいつはもう、

父さんの知っているメリッサさんじゃない!」

アーサーさんは銃を構える。


どうしよう、どうしたらいいんだろう。

なんでこんな時にノーラはいないんだ。


「ヘンリーくん、君も下がれ、早く!」

アーサーさんは拳銃をメリッサさんであった怪物に向けて撃った。

「やめてくれ、アーサー!」

「くそっ!」

レスターさんの叫びを無視して撃ち続けるが、

怪物には効いていない様で、鋭い爪が伸びた四本の手を

振り回しながら迫ってくる。


ぼくはポケットの中からマジックボックスを取り出すと、

航海中に真夜中の甲板でノーラに教わったことを思い出していた。


「いいこと、ヘンリー。通常、魔法を使用する際に

必要なのが呪文の詠唱よ。これは個人の持つ魔力つまり

エネルギーを人や物など対象物に対し魔法として

発動させるために必要な数式なの。わかる?」


「う、うん。何となく。」

ごめんなさい、あんまりわかりません。


「えーとね、つまり、これはレシピなの。いくらいい魚や

野菜があっても、調理方法を知らなかったら

美味しい料理にならないでしょう?」


「あ、そうか。そういう事か、わかった!」

「料理に例えたらわかるって、あんたってほんとバカね!」ヒドイよお。

「で、料理でもそうだけど、本来呪文を覚えるのには

長い時間と訓練が必要なの。でも残念ながらそんな時間は

ないから、ママが作ってくれたこのマジックボックスを

利用するわ。この箱には呪文の詠唱を魔力で書き込んで

くれているから、あんたはこの箱に自分のエネルギーを

流し込めば、魔法として発動してくれるわけよ。」


「へー、ママってすごいねえノーラ!」

パンパンパパパン!ビンタの連発だ。


「あんたが頼りないからでしょ!ほら、練習するわよ!

ちゃんとイメージして!」

月が照らす甲板で、マンツーマンの魔法の特訓は航海の間中続いたんだ。


光のイメージを心に描く。すべてを照らし、

暗闇を蹴散らす光の矢を思い浮かべ、

マジックボックスを握った両手を怪物の方に差し出した。


鋭い光の矢が何十本と箱からあふれ出し、降り注ぐ。

「ウォオオオオオ」

怪物がうめき声をあげ、後ずさりする。

効いてる、いける、いけるぞ!そのまま怪物との距離を詰めて魔法を続ける。


「ヘンリーくん、そこだ、行け!」

アーサーさんが銃を構えながら叫ぶ。

まだだ、まだ、もう少し!光の矢が怪物を削り続ける。


「オオオオオオオオ、あああ、苦しい、苦しい。」

怪物の顔が、だんだんとメリッサさんに戻っていく。

さらに、若返っていき十代後半を思わせる

少女の顔へと変わっていく。


「メリッサ!」

切なそうに呼びかけるレスターさんを、

アーサーさんが制している。


「ああ、レスター、苦しい、苦しいの、助けて。」

まだあどけなさが残るメリッサさんの顔が、

苦痛に歪んでいる。


「誰か、誰か助けて、大旦那様、ルーパス様、誰か」

その悲壮な叫びに、ぼくは魔法を打ち続けるべきかどうか、悩んだ。


「手を休めるな!一気に止めをさすんだ!」

アーサーさんが叫び続ける。

「ああ、痛い、苦しい誰かお願い、助けてください」

怪物の体がどんどん小さくなっていき、

裸の若い女性の姿へと変化していく。


メリッサさんは大粒の涙を流し続け、痛みを堪えるように這いつくばっている。

震えながら差し出す手は、元どおり人間の手に戻っている。


「メリッサさん、ぼくの事がわかりますか?」

ぼくは魔法を少し緩めながらたずねた。

「ヘンリーくん、まだだ、止めちゃあダメだ、続けるんだ!」

アーサーさんが必死に叫ぶ。


「メリッサさん!もう悪いことはしませんか?」

「あああ、もちろんです、約束します。

助けて、助けてください、お願いします」


「約束ですよ、話し合いましょう。ぼく、あなたとも、

ルーパスさんとも、ドイツの魔女の人とも

ちゃんと話し合いたいんです。」


ぼくは魔法を使うのをやめた。部屋に静けさが戻り、

メリッサさんも動かなくなった。

そっとメリッサさんに近づいてみる。


「下がれ!うかつに近づいちゃダメだ。」

アーサーさんが叫んだ、その瞬間だった。

倒れて動かなかったメリッサさんの体が、

ものすごい勢いで跳ね起きてきた。


さっきまでの肉体を、ずるりと抜け殻のように

床に落としたと思うと、骸骨だけの身体となって

襲いかかってきた。

「ヘンリー様!」


ぼくをかばったレスターさんの背中を

かぎ爪が切り裂き、床に叩き付けた。

「父さん!」

アーサーさんは銃を撃ちながらレスターさんに

駆け寄ろうとするが、長い腕のひと振りで

壁際まで吹き飛ばされた。


「あ、あああ。」

骸骨だけになった怪物は、恐怖で硬直するぼくに

のしかかってくると、長く伸びた四本の腕のうち、

二本でぼくの体を押さえつけ、後の二本のうち一本は

喉元を押さえ、最後の一本は指先を揃えて

まるでナイフのように、ぼくの目の前に突きつけてきた。


「ルーパスサマノ、ジャマハサセナイ」

骸骨の口がパクパクパクと開き、すえた空気とともに

呪うような声が聞こえる。


もうダメだ、恐怖で目を閉じようとしたその時、


「簡単にあきらめてんじゃないわよ!」

叫び声とともに、ノーラが窓から飛び込んできた。

そしてその勢いのまま、巨大なトラに変身して。骸骨を体当たりで吹っ飛ばした。

「しっかりしなさい、ヘンリー!」


ノーラは怪物を睨みつけると、まるで咆哮のように呪文の詠唱を始めた。

「闇の者によって生み出されし哀れな者よ。

この世ならざる者よ。呪われし運命の者よ。

精霊の名において汝に命じる。

闇は闇へ、塵は塵へと帰れ!」


みるまに骸骨は青い炎に包まれ燃え上がり出した。

声にならない悲鳴を上げながら仰向けにゆっくりと倒れこむと、

骸骨の腕がまるで愛しい人を抱きしめるかのように虚空に向かって伸びていく。


『ル ー パ ス サ マ』

燃え尽きる最後の瞬間、誰かの名を呼んだように口元が動いた。


「父さん、返事してくれ、父さん!誰か、医者を呼んでくれ!」

静かになった部屋の中で、アーサーさんが叫び続けている。

「どきなさい、アーサー。治癒魔法を使うわ。」

白猫に戻ったノーラが、横たわったレスターに向けて魔法の詠唱を始める。


引き裂かれた背中の傷がふさがり、顔に血色が戻ってきた。

「う、ううっ。これは、いったい。」

レスターさんの意識が戻った。


「これで、後は安静にしていれば大丈夫よ。」

ノーラは体力を消耗したようで、肩で大きく息をしている。

「ありがとう、ノーラ。父さん、頼むから無茶しないでくれよ。」

「あ、あのう、ごめんなさい、ノーラ。」

いつものようにビンタされるかと思ったけど、それはなかった。

その代わりにノーラはぼくの目をじっと見つめ、静かに語り出した。


「ヘンリー。あんた、自分のやったことがわかってる?

あんたが中途半端に情けをかけたことで、

みんな死ぬところだったのよ?それだけじゃない。

メリッサは人間として死ぬ事もできず、結局怪物として

滅んでしまった。二度と救われない魂となってしまった。」


何も言えなかった。どうしたらよかったんだろう。

ただ、みんなが憎しみあうんじゃなく、

争わなくていい方法を考えたかったのに。

ぼくのやった事は間違っていたんだろうか。


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