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メリッサ、愛の果てに1

ヘンリーたちはニナとルーパスの情報を求めて

ルーパス仕えているレスターの古い友人、メリッサを招く。

だがルーパスについての会話の中で

メリッサは魔女に使える眷属となったその正体を現す。

メリッサ、愛の果てに1


ぼくたちが屋敷に帰ってしばらくして、あたりが夕闇に

包まれ出した頃、ルーパスさんの屋敷からレスターさんの

古い仲間であるメイド頭のメリッサさんがやってきた。


「おおメリッサ、久しぶりだね。」

レスターさんは玄関で笑顔でメリッサさんを出迎えると

軽くハグをした。


「お久しぶりね、レスター。何年ぶりかしら。」

メリッサさんは優しいおばあさんといった雰囲気の人だった。


「メリッサ、こちらがアン様のご子息のヘンリー様だよ。」

「まあ、アンお嬢様のお子様ですか!お嬢様、

いえお母様はお元気ですか?」


メリッサさんはとても驚いたようで、

でも本当に嬉しそうだった。


「あの、初めまして、ヘンリーです、メリッサさん。

ママも元気です。」

「そうですか、それはよろしゅうございました。

イギリスへは、ヘンリー様お一人で来られたのですか?」


「はい、まあ一人です。」なぜだかとっさに

ノーラの事は言えなかった。

「そんな、まだ小さいのに一人で何て、

大変だったでしょう。お可哀想に。」

メリッサさんはぼくを上から下までじっくりと見ながら、

小さな声で呟いた。

「この子には何の罪もないのに。本当に可哀想。」


「え、何かおっしゃいました?」

「いえ、何でもございません。」

「立ち話もなんですから、中に入りましょう。」


レスターさんがメリッサさんを中へ招き入れ、

ぼくの前を横切るとき、なぜだか

ほんの一瞬だけど空気がヒンヤリとした気がした。


「ニナ様について、ですか。」

ぼくたちーぼくとアーサーさん、それにレスターさん。

ノーラはどこかへ出かけたまま、まだ帰ってこないーは

、応接間でテーブルを囲んで座った。

メイドさんが紅茶を運んできてくれて、

セッティングしてくれた。


「そうなんだ、メリッサ。彼女とルーパス様について、

一番詳しいのは長年ルーパス様のお付きのメイドである

君だと思ってね。知っている事を教えてほしいんだよ。」


メリッサさんに接するとき、レスターさんがいつもの冷静で

無表情な執事ではなく、とても人間的な事に気づいた。

それは多分、自分が若い頃から苦労を共にしてきた古い友人

に対する友情なのか、それとも別の感情なのか、

ぼくには解らなかった。


「ニナ様とルーパス様が出会ってから、

確かに様々な事がありました。」

レスターさんの質問にメリッサさんは、

ぽつり、ぽつりと語りだした。

「屋敷の人間がずいぶんと辞めてしまったと言うのは

本当なのかい?」


昨晩のレスターさんの話では、向こうの屋敷から

沢山の使用人が辞めたという噂は聞くが、不思議な事に

こちらへ戻ってきた人間や、他の屋敷に奉公に行った者は

いないらしい。


「ええ、もともと冗談が好きでいつもおどけてばかりの

優しい方だったのが、あの方が一緒に暮らすようになって

からは、些細な事で怒りっぽく、ひどく攻撃的になる事が

ありました。

私たちメイドに辛くあたる事もたびたび。

多くの者が去ってしまいました。」


「君にもかい、メリッサ?」

レスターさんが心配そうに聞く。

「いいえ、私にはほとんどありませんでした。

まあ、見ての通りの年寄りですしね。」

メリッサさんは自嘲っぽく笑った。

「そんなことを言うもんじゃないよ、メリッサ。

君は昔と少しも変わらない。」

レウターさんの声に、少し熱が入るのを感じる。


「ありがとう、レスター。」

メリッサさんが少し微笑んだ。

アーサーさんが場の空気を変えるように質問する。

「ルーパスさんの回りで、何か不可解な現象は起こっていませんか?」

「いえ、特にこれといっては。ただー」


「ただ、何ですか?」

「屋敷の回りにいつもいた鳥や鹿、リスなど動物の気配が

なくなり、まるで巨大な蛇かなにかが通ったような跡が

庭に残されていました。」


ぼくとアーサーさんは目を合わせた。ぼくたちを襲ってきたアレだ。


アーサーさんが質問を続ける、

「ルーパスさんを訪ねて、それまでは訪れた事のない人間―

例えば、外国人が訪れた事はありませんでしたか?」


「外国の方ですか、いえ、それは無かったのですが、

こんなことを言うと笑われるかもしれませんが、

人であって人でないものーまるで生気を感じさせない

ような者達が訪ねてくる事が何度かありました。」


「ルーパスさんは、この一年の間にドイツなど海外へ

出かけられた事は?」

「いえ、ニナ様を連れて南フランスから戻られてからは、

どこへもお出かけにはなられていないはずです」


「外国からの手紙や郵便物が届けられた事は?」

「いえ、とくにはございません。」


何だからちがあかない。ぼくは思い切って聞いてみた。

「メリッサさん。ルーパスさんと直接会ってお話しする事ってできないですか?」

「おい、ヘンリー君。」

アーサーさんがたしなめるように言う。でも、かまわない。

「ぼく、ルーパスさんに直接会って話してみたいんです。」


「話す?あなたがルーパス様に?いったい何を?

あなたのような子供が、ウォルズリー家の次期当主である

ルーパス様に何のお話があるというのですか?」

メリッサさんの口調がちょっと変わった。


「いや、あの、ぼく、会って話せば解ってもらえるんじゃないかとー」

「話せば解る?

なにか、勘違いされていらっしゃいませんか?」


メリッサさんの語気がだんだんと強くなって、

心なしか表情が険しくなってきた。


ぼくは勢いにのまれ、何も言えなくなってしまった。


「メリッサ、ヘンリー様は悪気があって

言った訳じゃない。落ち着いてくれないか。」

レスターさんが間に入って鎮めようとしてくれたけど、

メリッサさんは止まらない。


「みなさん、解ってらっしゃらないようですが、

あの方、ルーパス様はハワード様さえいなければ

このウォルズリー家の当主だったはずの御方ですよ?

不幸な事に他のご兄弟や親族の方からは不当に

評価されていらっしゃいますが、あなた方が気軽に

考えてよい方ではありません!」


「メリッサさん、ぼくそんなつもりじゃあ。」


「あなたたちは何を根拠にルーパス様をまるで犯人か

何かのように扱われるのですか?

あなたたちもルーパス様を傷つけ、笑い者にしようと

言うのですか!」


「メリッサ、落ち着くんだ!」

レスターさんの声が応接室に空しく響くが、もう彼女には届いていない。


その時ぼくは、メリッサさんの異変に気づいた。

取り巻く空気がすこしずつゆらいで、シルエットが

ぼやけて行く。テーブルの上に置いた手の爪は内へ、

外へと長く伸びていく。一つに束ねられていた

白髪まじりの髪がほどけて根元からうねうねと動き出した。


そして、またあの目だ。光が届かないほど、

黒く塗りつぶされた漆黒の目だ。


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