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ニナ、黒い森から来た女2

黒い森から来た魔女・ニナによって明かされる

屈辱と悲しみに満ちたルーパスの過去。

名門の一族の中で、忌み嫌われ、嘲られて来た

憎しみが黒い炎となってルーパスを燃え上がらせる。

二階の部屋に入ると、ルーパスは女を強引に

抱きしめようとする。


「ふふ、侯爵さま、慌てないでくださいな。」

女はルーパスの胸に両手を当てて、逃れようとする。

「待て待て、逃さぬぞ!」

女を軽く抱きあげると、ベッドの上にふわりと投げ出した。

「わしはな、自分の欲しいものはどんなことをしても

手に入れると決めておるのだ。」


女に馬乗りになり、極めて威厳を込めた口調で話すと、

女が急に笑い出した。

「何だ、なにがおかしい?」

訝しげにたずねるルーパスに女はさらに笑い続ける。


「ふふ、ふふふ。ふふふふふふ。ふふふふふふふふ。」

「なにを笑っておると言っているのだ!」


ルーパスの声に怒りが込められてくる。

女は下からじっとルーパスの目を見つめ、

髪にその手を絡ませながら話し続ける。


「あなたの様な臆病な人がそんなことをおっしゃるから、

おかしくて。ふふふふ。」

「何だと?」


ルーパスの心の中に、小さなさざ波が立った。

女はさらに右手を首へ、左手を背中へ回し下から

抱きつきながら囁いてきた。


『ルーパス兄様、そんなことでは貴族と呼べませんよ?』

『ルーパス兄様は、何をやってもダメですねえ』

『ルーパス、あなたにはプライドがないのですか!』

『ルーパスよ、おまえにはもうなにも期待はせぬ。

一族の邪魔だけはするな。』

『ルーパス坊ちゃんだけがご当主さまの悩みのタネだな』

それぞれが父母や兄弟、使用人の声で聞こえてくる。


「何だこれは!貴様、やめんか!」


「ふふふふふふ、一族のお荷物と呼ばれ、邪魔者扱い

されて泣きじゃくっていたあなたが凄んだところで、

滑稽なだけじゃございません?ふふふふふふ。」


『あのおっさん、自分のことを庶民とも付き合う

懐深い人間だと思ってるぜ!』

『惨めなもんだな!誰にも相手にされないから、

俺たちが遊んでやってるのに!』

さらに階下のお伴の小馬鹿にした会話までが

聞こえてくる。


「貴様、わしを、わしをバカにしおって!

心のさざ波が大きくなり、どす黒く広がって体全体、

隅々まで満たしていく。


ルーパスは女の首に両手をかけると強く締め上げた。

「ふふふふふふふふ。」

首を絞められながら、女は笑い続けていたがやがてこと

切れた。


「し、しまった。こんな。」

我に帰り狼狽していると、生き絶えたはずの女の両目が

カッと開いた。ただし、両の目は真っ黒で、

笑った口元から黒い何かが這い出してきている。


「な、何だこれは!」

女の体の周りから黒い影のようなものが伸びてきて

ルーパスの体を包み込む。助けを呼ぼうとしたが、

口の中、そして目や鼻からも影が入り込んでくる。

「!!!!」


「さあ、ルーパス。あなたの闇をじっくりと見せて

ちょうだい。」


女の創り出した黒い影に包まれ、

ルーパスは子供時代の夢を見ていた。

『ルーパス兄様、遅いですよ、さあ、早く早く!』

『ぼ、ぼくは、う、馬は苦手なんだよ、エドワード。』


渋るルーパスを乗馬へと連れ出した弟のエドワードが、

なんとか馬にしがみつくルーパスと並走しながら

からかう様に声をかける。


『兄様、乗馬の一つもこなせないようでは貴族として

笑われてしまいますよ!』

『そんなに怯えているから馬に舐められてしまうんですよ。

ほら!』


ピシッ!突然、ルーパスの馬の尻にきつい鞭を入れると、

馬は火がついたように走り出す。


『うわ、あ、ああ、止めて、止めてくれえ!』

ルーパスの悲鳴を聞いてエドワードは笑いながら

『ぼくは先に戻りますので、ごゆっくり!』と

屋敷に帰って行ってしまった。


馬はしばらく走り続け、急に激しく暴れると

ルーパスを振り落とし走り去ってしまった。

したたかに地面に打ち付けられ、

ルーパスはうめき声をあげていた。


『ルーパス兄様、大丈夫ですか?』

声をかけて来たのはすぐ下の弟のリチャードだった。


『エドワードのやつ、ひどいなあ。立てますか?

ほら、手を貸しますよ。』

『あ、ああ、ご、ごめんよ、リチャード。』


差し伸べられた手をつかもうとすると突然、

何十匹ものヘビに変わり、ルーパスの手に巻きついて来た。

『ぎゃあああああ』


驚いてひっくり返る様を見て、

リチャードは腹を抱えて笑う。

『兄様、こんなことで驚いてどうするんですか!

初歩の初歩の魔法じゃないですか。』

腰が抜けたように四つん這いの背中に向けて、

指先から小さな火球をいくつも飛ばす。


『あ、あ、熱い、熱い、や、やめて!』

這いつくばって逃げるルーパスを嘲るように笑う。


『兄様は本当に何をやらせてもダメですねえ。

まあ、我が家に関してはハワード兄様と

 我々でやって行きますので、田舎で隠居生活でも

送ってくだされば結構ですよ。』


『う、うううううううう。』

ルーパスは声を殺して泣いていた。


「ルーパス。おまえまた弟たちにからかわれて

泣いているのか。」

泣きじゃくるルーパスを見下ろす様に

長男のハワードが話しかける。


「ハ、ハワード兄様、ぼ、ぼ、ぼくは、ぼくは、な、

何もしていないのに。」

「言い訳はよせ、ルーパス。」

ハワードは断言した。


「おまえもウォルズリー家の人間なら、誇りを持て。

誰よりも強くなれ。今のままだと、おまえはおまえの中の

臆病者の手にかかって死ぬことになるぞ。』


空がにわかにかき曇り、大粒の雨がルーパス少年の体を

打ち付けていく。


『う、う、うおおおおおう』

その叫びは激しい雨音でかき消されていく。


ルーパスの不幸は、生まれた時から

始まっていたと言える。

四兄弟の中で、ルーパスのみ母親が違う。


長男ハワードが誕生した後、

十年以上子宝に恵まれなかった父親は、

愛人が産んだ男の子を保険がわりに引き取ったのだが、

皮肉なことにその後立て続けに二人の男の子が生まれたこと、


しかもその二人がウォルズリー家らしい優れた容貌と才能を

持っていたこともあり、疎まれる存在になってしまったのだ。


長男ハワードはウォルズリー家の伝統である

プラチナブロンド、幼い頃から頭脳明晰で、

次期当主らしい威厳に溢れており、

両親はもちろん一族全員が認める特別な存在だ。


三男リチャードは小さい頃から口うるさい年寄り連中も

認める高い魔法力を持ち、四男エドワードはスポーツ万能で、

社交的で明るい性格の人気者として愛されている、


そして、リチャード、エドワード共に兄ハワードほどでは

ないが、見事なブロンドだ。


翻ってルーパスはと言うと、親族の中で唯一の黒髪。

体格だけは兄弟の中でハワードに次いで大柄だが、

性格的にもシャイで、緊張するとうまく喋れない上に

運動も学問も魔力もすべて並以下。

両親も諦めて、ほとんど他の兄弟としか

会話を交わさない様になっていた。


一族の者も、誰もその姿が見えていないかのように振る舞う。

誰にも愛されず必要とされず、お情けでただ生かされている

惨めな、あまりにも惨めな存在となった。


その扱いは成長してからも続き、

パブリックスクールを卒業し、寄宿舎を出ると

限られた使用人とともにヨークにある別邸に住む事を

命じられ、ウォルズリー家とは距離を置いて

生きて行く事を強要されるようになって行った。


ルーパスに許されたのは、一族の誇りも責任も何も感じない、

のんきな穀潰しとして遊び歩く道化のような人生だけだった。

少年時代から現在に至るまでの屈辱が再びルーパスの心を

埋め尽くし、怒りと悲しみがすべてを黒く塗りつぶして行く。


to be continued

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