mom
目につかないような小道を抜けて、雰囲気が一気に暗くなる場所。
みんなが何かを考えながら生きていく街に、ひっそりと建つ、小ぶりな洋館。
街の人々はその洋館を『死生館』と呼ぶ。
女性「ここかしら…。」
彼女は俺の言葉を頼りにここに来ている。居なくなってしまった我が娘を探しに来たのだ。
女性「ふぅ…。」
呼び鈴もないこの館にどう接していいのか分からないのだった。俺の言うことを信じられないほどの、陰湿で、また、重みのあるこの館に。
彼女は勇気を振り絞り、その扉の取手を握って、それから音がなるべく鳴らないように静かに引いた。ギィ…と、鳴る。
女性「ごめんください!」
彼女は半身を館に入れ、まだ足は外のまま。警戒しているのだろう。
主人「いらっしゃい。」
彼女の目にライトアップされたエントランスに立つ、主人が映し出された。
女性「あ、あぁ!よかった!一つお尋ねしたいことがあるのですが…。」
主人「はい。私がお答えできることであれば。」
女性「こ…ここに…高校生ほどの女の子は訪れませんでしたか?」
主人「はい。訪れましたよ。」
女性「え?!本当ですか?!!」
彼女の中で確信に変わった。彼女が失踪した理由がここにあることを。
女性「し、知ってるんですよ?!ここに来た人は突然『消える』ことがあるって!!」
主人「んー…。」
主人はフードを深くかぶっているのでよく顔は見えない。そのため表情を読むことはできないが、彼は大した気にした様子はない。
主人「そうなんですか?」
女性「?!」
驚いている。いや、わかっていたつもりだった。認めることはないと。
女性「…いや、いいんです。これはあくまで噂だと…
主人「いや、噂…というか、私は本人の意思に従っていると申しますか…私は、その…。」
どうも歯切れが悪い。
女性「…説明を求めても…?」
主人「いや…大丈夫ですよ。では客間へ。」
と、主人はすっ…と光が届かない場所へ消えた。
女性「あ、待って!」
と言ったところで、彼は止まりはしないだろう。
女性「はぁはぁ。」
走った。
なんと無くの気配を追って、『そこ』であろう場所へ走った。彼女の年齢からすると、少しきついようだ。
見えない。彼の姿が見えない。
女性「はぁ…どこなの…?」
立ち止まった。紅茶の匂いがしたのか。
女性「…何かの匂い…どこから…?」
それでも辺りは真っ暗だった。
…おかしい…こんなに暗かっただろうか。
私が記憶しているのは、彼が認識できない程度の暗さだった。もうすでに、どこに進んでいいかわからない程の暗さだった。
『まいったなぁ…』
というのが本音だ。
もし、私が彼女に暴力を振るい、それでここに匿われていると知られては問題だ。
女性「見つけなければ。」
自分でも驚くほど冷たく、また落ち着いた声だったが、それはこだました。
ここはかなり広いな。
主人「おや?道に迷いましたか?」
女性「?!」
後ろから聞こえる声。
女性「どこ…?!」
振り返る。
主人「あなたの目の前…かと。」
…暗い。見えない。
あの主人の姿は見えない。
彼女はどこに消えたのか…また、なぜこんなにも暗闇にいるのか、私にはわかることはなかった。
女性「どこなの…?!返して!私の娘を返して!!」
主人「不思議な人だ。」
女性「なにが…?」
と言いつつ、私は彼女の言う事の意味を半分は分かった。と言うより恐れた。
主人「彼女は来ましたよ。」
女性「…。」
主人「彼女はある女の子を助けるためにここに来ましたよ。」
女性「そう…ですか。」
主人「…ここから出たいですか?」
女性「え?」
主人「…聞いただけです。」
私の中の何かが弾けた。
女性「…あの子を返しなさい…!あの子は私のなの!彼女は優しくて、強くて、繊細で、弱くて…守ってあげなきゃならないの!!私から奪わないで…!どうか…じゃないと…私は…。」
主人「…彼女の意思を尊重しなさい。」
女性「…そんな……。」
涙が出た。もう動く気にもなれなかった。最後に彼女の顔が見たい…愛してやまない彼女の顔を…私は多分間違えたのだろう…神様もう一度だけ…そう願うと
目の前の主人が仮面を外した。