魔王「なぁ、勇者。我の娘の護衛してくんない?」勇者「だから、俺は魔王の部下には…………今なんて?」
魔王「ん? 聞こえなかったか? 別に我の部下になれとは言わんから我の娘の護衛をやって欲しいんだけど」
勇者「…………いや、それはダメでしょ」
魔王「……? どうして? 人間を殺せという話ではないんだぞ? ただほんの少し手を貸して欲しいだけだ。ずっと牢屋の中に居ては気も滅入るだろうし……」
勇者「俺、勇者ですよ?」
魔王「うん。知ってる」
勇者「勇者の役割は魔族、ひいてはその長である魔王を殺すことです」
魔王「うん。知ってる」
勇者「知ってるじゃねーよ。敵だぞ敵。護衛どころか娘の命持って行きかねんだろ」
魔王「あははっ。だいじょーぶだいじょーぶ!」
勇者「大丈夫じゃねーよ。主にお前の頭が」
魔王「いや、だって。お前、義理堅いから。散々お前を忌み子と蔑んで利用しておきながらいらなくなったら捨てた人間共ですら裏切らんのだ。お前を生き返らせた我を裏切るような真似はせんだろ?」
勇者「だとしても、もっと疑え」
魔王「仲間を信じた結果殺されたお前が言うと説得力凄いな」
勇者「うるさい」
魔王「そう拗ねるな。我はお前のそういうところも気に入っているのだからな。それで我の娘の話なんだけどね」
勇者「俺はやるなんて一言も言ってないんですが?」
魔王「だいじょーぶだいじょーぶ。話聞いたら絶対お前の性格上放っておけないから!」
勇者「何も大丈夫じゃねーよ」
魔王「勇者、お前【魅了】って知ってるよね」
勇者「ん、まぁ、それくらいなら。サキュバスとかが得意な精神に干渉する魔法ですよね?」
魔王「そうそう。対象を虜とすることで自分に従順な僕にしてしまう強力な魔法だ。で、この魔法の特徴として容姿が優れていれば優れているほどに利きやすくなる。見た目が好みであればあるほどと言い換えてもいい」
勇者「はぁ……。それで? 何が言いたいんですか?」
魔王「うぬ。我の娘さ、凄い可愛いんだよね」
勇者「急に自慢が始まった」
魔王「可愛いうえに凄い【魅了】の適正があるんだよね。でも、全く制御できてないんだよね」
勇者「……あぁ、大体状況は分かりました」
魔王「うん。お前の魔眼ならあの子の【魅了】も弾けるだろうし。適任かなって」
勇者「や、でも、それなら同性の護衛でもつけたらよかったんじゃ? あの魔法って特性上異性にしか効かないですし」
魔王「我もそう思ってかなりの腕利きをつけたんだけどねー。普通に魅了されちゃって、しかもあの子ちゃんと制御できないから暴走させて襲われちゃったんだよね」
勇者「異性にすら効くとか……で、大丈夫だったんですか? 結構な腕利きって話でしたよね?」
魔王「うん。うちの子強いから。一撃で地面の染みになったよ」
勇者「それもう護衛いらんでしょ」
魔王「いやー、でも、親としては心配なのよ。可愛い一人娘だし。それにあの子、その特性のせいで一人で過ごす時間も多かったからさ。誰かに側に居てほしいんだよね。我は魔王だからあの子だけのことを見ているわけにもいかないし」
勇者「……」
魔王「ま、そういうわけだからさ。頼むよ。お前にしか頼めないことなんだ」
勇者「………………まぁ、そういうことなら。仕方ないですね」
魔王「おー、ありがと。お前ってほんとちょろいよねー」
勇者「やっぱやめてもいいですか?」
◇◆◇◆◇
魔王「というわけでこの子が我の大事な一人娘のアイリス。普段は厄介事起こさないようにずっとこの部屋に閉じこもってるから勇者もこの部屋で待機ね」
アイリス「……お父様。もう護衛はいらないってボク言ったよね? それに勇者って……その目つきの悪いのが?」
魔王「うむ。目つきと運は悪いが性根は良い奴だぞ!」
勇者「ねぇ、あんたら親子の問答で俺を傷つけるのやめません?」
アイリス「とにかく、ボクに護衛は必要ないよ。なんならそこの勇者でそれを証明してあげてもいい」
勇者「話聞いてました? 俺を傷つけないで。泣いちゃうよ?」
魔王「まぁ待て、アイリス。そもそもアイリスじゃ勇者には勝てん」
アイリス「……へぇ」
勇者「おーい。火に油注ぐのやめろー」
魔王「あと、勇者ならアイリスの魅了を弾くことができる」
アイリス「……え? ……ほんと?」
勇者「や、たぶんだけど。俺、生まれた時から魔眼を持っててさ。一応これまで無効化できなかった魔法はないから大丈夫だとは思う」
魔王「そういうわけだ。これならアイリスの護衛としてピッタリだろ? 実際、同じ空間に居ても我みたいな耐性があるわけでもないのに全く魅了されてないし」
アイリス「…………ちょっと、かけてみてもいいかな?」
勇者「ん、別にいいけど」
アイリス「……【魅了】」
勇者「……」
アイリス「……どう?」
勇者「や、なんとも。可愛い白髪の女の子がいるなぁくらいにしか思わないけど」
魔王「うむ。相変わらず見事だな。これなら安心して任せられる……けど」
勇者「……?」
魔王「いや、うちの子可愛いから勇者が万が一にでも欲情抱いたりしたら困るなぁって」
勇者「万が一にもないんで安心してください」
魔王「うちの子が可愛くないって言うんか!?」
勇者「なんだこいつ」
元々、連載にしようと思っていたのですが力尽きてとりあえず短編で投稿してみることにしました。
気が向いたら連載にしたりするかもです。
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最後に、読んでくれてありがとうございました。