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贄の王座と侍るもの  作者: 伊空 路地
第四章 砂漠に在りし忘られの想い
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87 マーレイスなる者


 「――マーレイスさん。あなたの大望、感服致しました。つきましては、我が主人とあなた方、双方にとって良き協力関係を築ければと思います――。」


 マーレイスは金髪の少女がそう語るのを聞いて、“手応えアリ”だと心中で呟いていた。


 マーレイスは自分の才能を自覚していた。自分には扇動の才能がある。言葉で、手ぶりで、瞳で、他者の心を己の望むままに塗り替える。その能力を把握していた。


 「――次の機会には主様も同席の場を用意致しましょう。あなたの才能、主様にお示しになられると良いでしょう――。」


 外国人にガリアの誇りを問うたのは失敗と言うべきかもしれないが、一方この少女の心を塗りつぶす事はいずれにせよ出来なかっただろう。ならば、こういう話の進み方は上々と言うべきだ。


 少女の傍に控える護衛らしきガリア人は仮面で顔が見えないが、“飲み込む”ことに成功したはず。

この少女は自分の“同胞”にするのではなく、外部の協力者という立ち位置に置いておく方が良い。


 「――それでは、マーレイスさん。またお会いしましょう。」


 少女の言葉に反応して礼を返す。それから、部屋を出た。




 マーレイスは叡智の園まで真っすぐに歩く。


 仲間から“美少女外国人が訪ねて来た”などと聞いたときは下らない話としか思わなかったが、案外チャンスという物はこんな形で転がり込んでくる物なのかもしれない。


 あの少女には力がある。何か、魔性の如き力を確かに感じた。

ならばその主人もただ者では絶対に無い。資金による支援と言っていたが、協力者の立場になれれば金などよりも遥かに素晴らしい力が手に入ると見ていい。


 つまり、この次が最も大事な場面となる。

少女の言う主様とやらに己の才能を示す。そして、協力を引き出すのだ。しかしてあくまで主導権は自分が握らなければならない。ガリアを変えるうねりはガリアから生まれねばならない。




 マーレイスという男の根本は純粋な愛国心であった。

彼はただガリアを愛しており、ガリアの現状を憂う若者であった。


 彼には才能があった。

いかなる敵対者にも決して怯まない無限の闘争心。

愛国という根本を見失わない純粋さ。

清濁を併せのむ為政者としての器。

そして民人を操り動かす扇動の力。


 ガリアを作り替えるという大望に目覚めたとき、これは天啓だと思った。自らが大地に生を受けたのはこの使命を全うするためであると確信した。


 行動は速かった。ひたすら必要な知識をかき集め、手足となる同胞を集め、自らの才能に磨きをかけ続けた。

そして機を窺った。自らの使命のため、それを全うする最大の機を待った。


 それはきっと、今である。

決して、このチャンスを逃しはしない。






 「マーレイス!どうだった?」


「あの女の子、かわいかったろ?」


拠点としている叡智の園の一室に入るなり、仲間たちが声をかけてきた。彼らは意志を共にする仲間ではあるが、才気には足りぬ凡人たちである。


「いい話が出来た。次は彼女の主人に会わせてくれるそうだ。」


「やったじゃないか!協力ってのがどんなものか分からないが、俺たちの活動にもきっと良い影響があるぞ!」


「あぁ。間違い無い。彼女も彼女の主人も、絶対にただ者じゃないな。――それから、確かに美人だった。ガリアに金髪は居ないしな。」


「だろ!?いいよなぁ。俺、北土地方の恋人が欲しいなぁ。」


「まぁともかく、話した感じ良い協力関係が築けそうだ。活動は進む。ガリアの目覚めは近づいているぞ。」


 友人としても同胞としても物足りないが、数は力である。活動を続けていれば、自分に見合う友人にも出会えると期待していることにしよう。


 マーレイスは今の結社にまるで満足などしていない。このままどんどんと規模を大きくし、いずれガリアをまるごと飲み込むのだ。


 「さて、今日は諸君に話があるんだ。聞いてくれるか?」


「もちろんだ。」


「聞くとも、マーレイス。」


「ありがとう諸君。

――話と言うのは、今日から結社を形にする。名前をつけ、旗を作ろう。結社を示すシンボルと、結社の一員であることを示すアイテムも用意しよう。

 ……つまり、今この瞬間なのだ。

今この瞬間。我ら結社は正式に産声を上げ、ガリアを正す最初の一歩を歩む。……諸君。今、だ。今なのだ。今こそ、我ら結社が誕生する時!

 今この瞬間、歴史が動き始める。我らの愛するガリアが大地にある限り、永遠の栄光に輝くが、それは今始まるのだ。覚悟せよ諸君!最早遊びは終わった。ここよりは真の闘いの時間だ!

 目を開け、耳を立てろ。心に刻みたまえ。

――私は、今ここに!政治結社“パラスキニア”の誕生を宣言する!!」


 歓声があがる。彼らも待ちわびていただろう。


「結構!

さぁ、立てよガリアのともがらよ!祖国を思う戦士たちよ!パラスキニアの同胞よ!!

今こそガリアを変えるとき!革命は今ここより始まるのだ!!

祖国ガリアに、栄光あれかし!!!」


「「栄光あれかし!!!」」


 今マーレイスの魂は熱き炎と冷たい氷を宿している。

同胞たちと共にガリアの目覚めへと歩みだす熱意。

単純で愚かな同胞たちを煽ってほくそ笑む冷徹さ。


 矛盾した両極端を常に抱え得るのがマーレイスという男だった。

彼は同胞を愛すると同時に嫌悪しているのだ。




 そして事実、後にガリア全体へと広がるうねりは今ここから始まった。

後にガリア内乱、そして内海戦争へと発展していく熱量は、今一人の人間から始まったのだ。







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