表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
贄の王座と侍るもの  作者: 伊空 路地
第四章 砂漠に在りし忘られの想い
76/292

76 アイハーンの足元で


 「――さぁ、主様。次は主様の番です。」


「む。いや、私は――。」


「いいえ、主様。その衣装も素敵ですが、ガリアでは目立ちます。よりこの地に相応しいご衣装をお召しになるべきかと。」


「いや、しかし――。」


「大丈夫。大丈夫です主様。全て私にお任せ下さい。主様にピッタリの素敵な衣装をそろえて見せます。」


「サン、何か調子が――。」


「さァ行きましょう。男性用の服はあちらのようです。」


「お、おい。引っ張る――。」


「やっぱりあちらのガリアの伝統的な衣装でしょうか。それともこちらの現代的な――。」


「あの――。」






 苦節、数時間。

疲労を覚えないはずの贄の王は完全にぐったりと疲れ切り、着せ替え人形の役を終えた。極度の恥ずかしさを味合わされた反動か完全に理性を飛ばしたサンは服選びの獣と化し、ほとんど店中の服をひっくり返しては贄の王に着せた。


 結果、贄の王に見繕われたのは数着のガリア衣装である。

ガリアは古来肌を出すのに寛容な土地であり、特に男性は上衣を着ない事も少なくない。エヘンメイア周辺は広大なガリア砂漠でも比較的日光の穏やかなオアシス地帯であることも影響している。これ以上砂漠を南に下ると、肌を出していては火傷するからだ。


そんな訳で贄の王に選ばれた数着のには肌の出ない物から上衣の無い物まであったが、獣と化したサンには問題にならなかったようである。普段であれば顔を真っ赤にして直視出来ないところだっただろうに、喜々として、むしろ肌の出るものを容赦なく着せてきた。






 「も、申し訳ありません主様……。その、どうかしていました……。」


「い、いや……。まぁ、構わん……。」


「しかし、とんだ無礼を……。」


「構わんと言っている。気にするな。ある意味、貴重な経験だった。」


贄の王はそう言いながらサンの頭をぽふぽふと撫でる。最近、贄の王はこうして度々サンの頭を撫でてくる。サンとしては少し恥ずかしいので人前では許して欲しい。




 普段通りの衣装に戻った二人は次に砂漠の案内人を探す。砂漠と言うのは方向や距離を見失いやすく、砂嵐や熱射病の対策の為にも慣れた人間は必須である。

とは言え、二人は別に正直に砂漠をずっと行く必要は無い。転移で街から街へ直接向かえるためだ。“神託者”が近づき、転移に制限がかかるまではわざわざ砂漠を歩く必要など無い。


 それでも案内人を求めたのは、捜索について一つの方針が定まっているからだ。つまり、ラツアで人海戦術に頼ろうとしたのと同様、現地の人間を使うという方針である。その先駆けとして、現地の情勢に詳しい人間を欲したのだ。


 さらに二人が求める人材には“秘密を守れる”という絶対の条件が加わるのが問題だった。転移をはじめとする超常の力、”贄の王“という存在そのもの、”従者“の正体がサンであることなど、二人には隠さなければならないことが多すぎる。


 「しかし、如何致しましょう。お金で秘密は守れませんし……。」


「うむ。奴隷を買う事も考えたが、同じことか……。ラツアの時と同じように、犯罪者の方が使い勝手はいいかもしれんな。」


「このエヘンメイアでも探してみましょうか?」


「まずは、通常の手段で当たってみるとしよう。港の方に戻れば案内を紹介している者もいるかもしれない。」


「わかりました。」




 ところが、砂漠の旅を案内するような商売は特に見つからなかった。

というのも、外国から来た旅人の大多数はわざわざ砂漠など通らないのだそうだ。小規模な商人は全ての品をエヘンメイアで売買して帰ってしまうし、大規模な隊商は船で海岸沿いにガリアの都を目指すのだとか。


 つまり砂漠をわざわざ通るような人間は初めから砂漠に慣れている者ばかりで、外国の旅慣れない人間を連れて歩きたがるような変わり者はなかなか居ないということだ。

どうしてもというのであれば、ガリア内を行き来するキャラバンにくっついて行くぐらいしかないようであるが、身動きが取りづらくなるのでサンと贄の王には少々都合が悪い。




 二人は一度案内人探しを諦め、先にガリア情勢についての情報を集めることにした。


 港傍で適当に賑わっている酒場に入り、空いている席に座る。寄ってきた給仕にワインを二人分注文すると、大きなコップに注がれたワインを持って戻ってくる。それを受け取りながら、贄の王は声をかける。


「ありがとう。――ところで、給仕。最近のガリアはどうだ。」


贄の王の差し出す銀貨を受け取りながら給仕が答える。


「最近は物騒。神官騎士団が槍持って歩いてるし、サーザールの奴らも暴れてるし……。それで衛兵どもも気が立ってる。昨日も商人が一人殺されたってんで、やかましくて仕方ないよ。」


「それは、それは。理由は知っているか。」


「色々さ。神官騎士団は誰かを捜してるらしい。サーザールの奴らはね、あっちもこっちも“生贄”を捧げる頃だから。ただまぁ、大体はサーザールの奴らが悪いよ。迷惑なもんだ。」


「なるほど。もういい、助かった。」


 給仕は二人に背を向けて去る。言葉の分からないサンに贄の王が一通りを通訳した。


「物騒、ですか……。神官騎士団が捜しているというのは、もしや……。」


「我々だな。より正確には、“従者”。つまり、お前のことだ。」


「あまり目立つ行為は避けたいですね。普通にしていれば、いきなりバレる事も無いとは思いますが。」


「当然だな。私がファーテルで顔を晒していたのは失敗だったか。」


「それから、主様。“サーザール”とは何のことでしょう。」


「サーザールとは、独自の信条を掲げ活動する戦士集団だが、やり方が過激でな。ガリア政府や神官騎士団からは見つけ次第抹殺の扱いを受けている。」


「その信条というのは?」


「私も詳しくは知らん。だが、誇りや自由といったものを掲げていたな。彼らには彼らなりの正義があるようで、特に“贄捧げ”に反対しているようだ。基本的には犯罪組織の扱いだがな。」


「少し、興味がありますね。“贄捧げ”に反対などと聞くと、どうも……。」


「お前の場合は、そうかもしれんな。だが、“贄捧げ”をしないということは……。」


「物騒なお話をしておられますな、そこのお二人。」


ラツアの言葉でそう言いながらサンたちのテーブルに座ってきたのは、粗野な身なりをした男だった。髪はぼさぼさ、肌は垢で汚れており、船乗り風の服は酷く黒ずんでいる。


 「いきなり失礼。ちょっと気になるお話が聞こえたもんで。サーザールの奴らですな?」


「あぁ。それでお前は何者だ。」


「俺はただの船乗りですわ。お二人は、エルメアの方から来た商人か何かで?」


「そんなところだ。で、用件は。」


「いやなに、ちょっとお話に混ざりてぇと思っただけですわ。俺もサーザールの奴らにはやられたとこでしてなぁ。雇われてた旦那が殺されちまってね。全く参った参った。ところでこっちのお嬢ちゃんはえらい美人ですなぁ。夫婦か何かで?」


船乗りを名乗る男はサンの方をじろじろと眺めまわしながらそう言ってくる。


「ち、ちが――。」


思わず反応するサンだが、無感情な贄の王のセリフがそれに被る。


「いや、この娘は私に仕えてくれているだけだ。そういう関係は無い。」


事実である。

事実であるが、そうもはっきり断言されると何となく落ち込むサン。


「おや、そうかい。でもこっちのお嬢ちゃんはどうも――。」


「黙ってください。」


「――お、おぅ……。ちょ、ちょっとした冗談だって……。」


男はサンの眼光に怯んで口を噤んだ。


「ま、ともかく。話のサーザールのことだが……実はちょっと面白い話があるんだが……。あー、何だったかなぁ。もう少しで思い出せそうなんだがなぁ。」


男はそう言いながら贄の王の方はちらちらと見る。贄の王は給仕を呼ぶと、男にワインを持ってくるように言った。


「おっ。いいのかい、旦那ぁ。悪いねぇ。へっへ。」


「それで、思い出せたのか。」


「もちろんでさぁ。……実は、今この街にも来てるって話でね。何でも、とある金持ち商人を狙ってるんだとか。」


「ほう。」


給仕が持ってきたワインを豪快に煽りながら男は続ける。


「あぁ、大丈夫。旦那たちのことじゃない。狙われてるのは、タジクっていうターレルから来た奴だ。こいつは奴隷を主に扱ってる商人なんだが、お役人と仲が良いんだ。つまり……。」


「”贄“の仕入れ先ということか。」


「まさにそれだ。そのタジクって奴が消されちまえば、ガリア各地の“贄捧げ”が遅れる。あいつらの目論見はそういうことだなぁ。」


男はがぶがぶとワインを一気に空にしてしまう。すかさずサンは手を上げて給仕を呼び、ワインを指さしてもう一杯持って来させると、男に差し出した。


「おーおー。悪いねぇ嬢ちゃん。ご主人様と二人のところを邪魔しちまって申し訳ねぇ限りだわ。……それで、旦那。もし、サーザールの奴らに興味があるってんなら……。会ってみたくはねぇかい?」


「ほう。会えるのか。」


「会えるとも。なに、お客さんまで見境なしに殺すような奴らじゃない。保証しますわ。」


男はそう言いながら、さり気ない風を装って右の肩を一瞬だけ露出させた。そこには何かしらの入れ墨があり、それを見た贄の王の目が僅かに鋭さを増す。


「で……。どうしますかねぇ?」


「なら、会ってみよう。案内は任せてよいのだな。」


「よしよし。勿論でさ。じゃ、7日後の晩にまたここの酒場でお会いしやしょう。……さて、俺はこのへんで……。」


男はまたも手のワインを一気に飲み干すと、頼りない足取りで立ち上がって店を出て行った。




 「主様、今の男は……?」


「サーザールの一員だな。一体何の狙いがあるのやら。」


「なるほど……。」


「だが好都合だ。サーザールの者たちならガリアの情報にも明るい。友好的関係を築ければ、“神託者”を捜索する上でも役に立ってくれるだろう。」


「罠か何かで無いと良いのですが。」


「罠でも問題はあるまい。私が居る。」


「それはそうですが……。」


「しかし、7日後の晩か。急ぎ衣服に魔術陣を刻まねばな。」


「何か、私にお手伝い出来ることはありますか、主様?」


「難しいな。普段通りにしてくれればいい。いずれは、お前にも魔導を教えてやろうと思うのだが……。」


「分かりました。せめて身の回りの事はお任せください。」


「あぁ。頼む。」








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ