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贄の王座と侍るもの  作者: 伊空 路地
第二章 敵の名は宿命
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31 過保護


 ――迂闊に外にも出るな。


 贄の王はそうサンに言ったが、そういう訳にもいかない。


 単純に人の街へ買い出しに行けなければサンは飢えてしまう。それに、ただ神託者に怯えてこの魔境にやってくるのを待つばかりでは宿命を変えることは出来ない。


 そう聞けば、贄の王は自分一人で動くと言い出す。買い出しも神託者の捜索も一人でやると。サンは次に、それこそが一番危険だと説得するのに努力を費やすことになった。


 長らくの話し合いの結果、以前と同じようにサンが一人で外に出ることになった。従者として買い出しごときを主にさせる訳にはいかない。個人的な買い物もあるためサンが行く必要がある。


 よって、買い出しには神託者がまず居ないと思われる場所を使う。


 神託者の捜索だが、不意の遭遇によって危険なのは贄の王の方なのだ。


 贄の王の権能は贄の王座から離れるほどに弱くなる。【贄の王】と【神託者】が遭遇すれば戦いは必然だが、魔境から遠く弱まった権能で不利な戦いに臨むことになってしまうからだ。


 その点、サンと神託者が遭遇したとして即戦いには発展しづらい。その魂は深い闇に侵されていたとしても、サンの見た目はただの人の少女だ。あるいは魂の闇が見通されたとして、街中でいきなり斬り捨てられることは無いはずだ。


 問題があるとすれば、リーフェンの時のように事故や災害に巻き込まれるなど、常識的な力しか持たないサンでは自分の身を守ることに限界があるという点だが、それすら問題とするのであればサンはもうどこにもいけない。


 つまり大変ありがたいが贄の王の心配は過ぎたものだ、と説得するのが最も大変であった。


 贄の王がいくつもサンに護身のアイテムを持たせようとした結果最終的に重騎士なみの装備を施されそうになり、丁重に遠慮したところ贄の王が目立たない護身のアイテムをわざわざ作り出すことになる。






 その完成を待つこと数日。サンに渡されたアイテムはなんと8つ。


 連絡用の指輪。魔力を込めることで音と視界が贄の王に伝わる。


 【強化】を付与した服一式。着ているだけで低級の【強化】が使用された状態になる。


 “炎”を付与した手袋。手で使う”炎“の魔法が少し強化される。


 “土”を付与した靴。足元に使う”土“の魔法が少し強化される。


 ”風“を付与したコート。寒暖に強くなり、外部からの攻撃に反応して衝撃を緩和する。


 “水”を付与したペンダント。僅かな魔力で多量の”水“を生み出せる。


 ”雷“を付与した拳銃二丁。それ自体高い性能を持つほか、弾丸はサンの魔法を引き寄せる。


 それから、”闇“を付与した剣。黒い刃を持つそれはサンに扱いやすいよう調整されており、更に所持している間全ての傷病をごく緩やかに治療する。






 いずれも人類文明が辿り着いた境地を越えるものである。


 どうやら贄の王は魔道の最新技術『魔術陣』を習得しているらしく、そこに権能を重ねることで本来は不可能なレベルまで能力を引き上げている。


 ”闇“の剣などは完全に人類に不可能な技術である。


 ”闇”を魔法のように扱えるのは贄の王のみだからだ。これは主なりに神託の剣を模してみようとした作品らしい。本家の性能には遠く及ばないまでも、【治癒】とでも言うべき未踏の魔法が付与されている。


 はっきり言って全てを預かったサンは呆れた。――ここまでするか、と。気持ちはありがたい。主人にここまで大切に思われているのかと光栄の限りである。


 しかしやりすぎではないだろうか。


 どれ一つ取っても人類では模倣出来ない品であり、いわばおとぎ話や神話の世界に足を踏み込んでいる。


 衣装や装飾品はともかく、拳銃など明らかにオーバーテクノロジーの類である。回転式弾倉というエルメアの最新技術を使用しており、何と6発まで連続して撃てる。それは凄いのだが、使ったとして明らかに目立つ。


 エルメアでも実用化にこぎつけたばかりの銃を持つ謎の少女だ。どう言い訳しよう。ちなみに弾薬の作り方は習ったのだが難しくてまだサンでは作れない。


 剣だってエルメアのような先進国では持ち歩けないと言えば、ここから神託者の旅路は文明や法の後進の国々を辿るばかりなので問題無い、らしい。


 ちなみに衣装はエルメアのファッションを流用したらしくカッコイイ。主の服のセンスは良いという無駄な事実の判明である。






 これらの装備の使い方を習得するのにもまた数日。


 手袋や靴で魔法が強化されるというのは良いのだが、逆に加減を間違えかねないので練習が必要だ。拳銃などは撃ち方を覚えるところからだし、剣は少しでも手に馴染ませておきたい。いざという時、身体に馴染んでいない装備はかえって危険になる。


 こんなに時間をかけてしまって、神託者を見失わないかと贄の王に問うと、答えは明瞭な問題無し、であった。


「なぜならば、神託者が次に訪れる場所は分かっている。ファーテルから魔境への直線は北土山脈で遮られているため迂回しなければならないからだ。ファーテルからは一度魔境から離れるように移動する必要がある」


「では、神託者が次に目指すのは……ここ、でしょうか」


 そう言ってサンが指さしたのは、地図の上の一つの国。内海の島々を制し、外海の航路が発達するまでは海の覇者として繁栄を謳歌した国。


 今は、過去の栄華の残り香を僅かに漂わせつつ、内海に面する国々の交通を仕切っている。


 そして――。


「そこで間違い無い。陸路でも海路でも、必ずラツアを通ることになる」


「ラツア。主様の、故郷……ですね」


 今代の【贄の王】の生まれ故郷ラツア。かつての名は、ラヴェイラ。






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