◆リメイク版の章末付録集
第八章はプロットを練り直したいので申し訳無いですが少々お時間をください……!
代わりと言っては何ですが、「ノベルアップ+」様で投稿しているリメイク版の章末付録を載せておきます。それぞれの章の最後に載せている物です。
そもそもなろう版とは章構成から違うので、意味があるかと言われると、うん……。
第一章「世界の敵たる孤独な主従」
章付録「『生贄の悪魔の伝説』」
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『それはむかしの話であった。
大いなる父のお作りになられた大地の上で、我らヒトは幸せに暮らしていた。
ヒトはみな、最も高きお方を信じ、その慈悲と恩寵に恵まれていた。
しかし、ある時、大地の北から恐ろしい悪魔が現れた。
悪魔はヒトの幸せな暮らしぶりを妬み、憎むと、その忌まわしい吐息を大地に吹きかけた。すると、悪魔の息に吹かれた大地からは途端に光が失われた。
太陽が遠くなり、大地は薄暗くなった。
緑豊かだった森は腐って、木々は倒れ、ひどい悪臭を放った。
透き通っていた海は黄色に染まって、塩の代わりに膿を吐き出した。
ふくよかだった土はぼろぼろと乾き、麦を抱えていられなくなった。
ヒトは苦しみ、ばたばたと死んでいった。無限の愛を恵まれる方に縋ろうとしたが、真っ黒な霧が辺りを包んで、尊い光を隠してしまうので、ヒトは段々と信仰を失った。
そんなヒトを見て、悪魔は愉快そうにげらげらと笑った。
その笑い声を聞いて、ヒトは悪魔を見つけると、その足下に跪いて、つま先に接吻をして、乞い願った。
「おぉ恐ろしき方。我らの肉を食べ、我らの血を飲み、我らの魂をすりつぶす方。どうかお願いです。我らを助けて下さい」
すると、悪魔はにんまりと笑ってヒトに言った。
「おぉ小さきものたち。お前たちは本当に小さくて、一息吹くだけで死んでしまうのだな。とても小さいものだから、おれはお前たちをかわいそうに思ったぞ。どうだ、おれに生贄を捧げろ。そうすれば、お前たちを助けてやる」
ヒトはその恐ろしい言葉に震えあがった。
「おぉ恐ろしき方。我らから、生贄を取って食べようと言うのですか。なんと、恐ろしい」
悪魔は言った。
「おぉ小さきものたち。そうだ、生贄を取って食べてしまうぞ。生きたまま、頭からばりばりと食べてやるぞ。でも、そうしたら、お前たちはまたパンを食べて生きられるぞ」
すると、ヒトのうち、肉体の倒れる時の近い男が、立ち上がって言った。
「わたしは長く生きました。もうじき天の方のもとに行くはずでしたが、そういうことならば、わたしが生贄になりましょう」
だが、悪魔は首をふって言った。
「だめだ、だめだ。お前の肉はかたくてまずい。血は乾いてかさかさで、どろどろだ。おれはお前など食べたくない」
次に、赤んぼうを抱えた女が立ち上がって言った。
「わたしは子どもを産みました。この子はきっと大きくなって、たいそう立派な大人になるでしょう。でも、そういうことならば、この子を生贄に差し上げましょう」
だが、悪魔は首をふって言った。
「だめだ、だめだ。赤んぼうの肉は柔らかすぎる。それに食べるところが少ない。おれは赤んぼうなど食べたくない」
次に、もう立派な大人ではあるけれど、まだ長くは生きておらず、どちらかと言えば子どもに近いくらいの、女が言った。
「わたしの肉はかたくありませんし、でも柔らかすぎもしません。それに体はすっかり大きいから、食べるところもたくさんあります。そういうことならば、わたしが生贄になりましょう」
ようやく、悪魔は頷いて言った。
「いいぞ、いいぞ。お前の肉はちょうどよく、血もたいそう良い。おれはお前を食べてしまおう」
悪魔は、立ち上がった女を捕まえると、頭から食べてしまった。
それから、生贄の女を食らった悪魔は、一度大地に吹きかけた息を吸い込んだ。すると、大地は元通りになって、光が満ちた。
ヒトは再び、大地の上で幸せに生き始めた。
しかし、月日が経つと、悪魔はまたヒトの暮らしぶりを妬み、憎み始めた。
そこで、再び大地に息を吹きかけた。大地は再び薄暗くなり、ヒトは苦しんだ。
悪魔はヒトの下を訪れると、言った。
「おぉ小さきものたち。苦しいだろう、悲しいだろう。どうだ、おれに生贄を捧げれば、また元通りにしてやるぞ」
しかし、ヒトは前に生贄を捧げたのに、約束を破って、また大地に息を吹きかけた悪魔を信じられなかった。
ヒトは長い間、そうして悩んでいたが、どうする事も出来なかった。
その時、ずっと空の上から見ていた、この世で一番に尊い力を持ったお方が、ヒトを憐れんで下さった。
そのお方はヒトの中で、一番力が強くて、一番心が強い、若者を一人呼びつけると、こう仰った。
「おぉ可哀そうなものよ。お前を憐れんだ。お前に力を与えよう」
すると若者は、よりいっそう力が強くなり、足が速くなり、心が強くなった。
そして悪魔のところまで一息に走っていくと、手に持った剣を抜いて、悪魔を真っ二つに切り殺した。
悪魔が死んだので、大地は元通りに光が満ちた。
ヒトは今度こそ心から喜び、再び天のお方への信仰を取り戻した。
若者は英雄となり、神から使命を託されたものとして、神聖に扱われた。
大地は再び無限の平穏と幸福を手にした筈だった。
だが、悪魔は死なない生き物だった。長い眠りの後に起き上がると、自分を殺したヒトに怒った。
それから、また、大地に息を吹きかけた。
だが、今度もまた、悪魔は英雄に切り殺された。
すると、悪魔は非常に頭が良かったので、ヒトの英雄が死んでしまうまで待った。そうして英雄が死んでしまうと、大地に息を吹きかけた。
ヒトがまた生贄を捧げると、悪魔は大地の息を取り除いた。
すると、大地を創りたもうたお方が、またヒトを憐れんで、英雄を遣わした。英雄は一息に悪魔まで走っていくと、また切り殺した。
悪魔はやはり死なない生き物だったので、長い眠りの後にまた起き上がった。
そしてまた、大地に息を吹きかける。
悪魔と、生贄と、英雄と、大地の上で、何度も何度も繰り返された。
ずっと、ずっと、繰り返していった。』
『生贄の悪魔の伝説』(提供:ターレル教会)より抜粋。
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第二章「血で満たされた左皿」
章付録「『神なる天秤の導き』」
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『神なる天秤、常にあれかし。
神は天と地と、空と海と、人と獣を創りたもうた時、天秤を高いところに置かれし。
神の天秤は常に我らを見通して、常に我らを計りたもう。
左の皿には罪と献身とが乗せられたもう、右の皿には罰と救いとが乗せられたもう。
左の皿には苦難と飢えとが乗せられたもう、右の皿には果実とパンとが乗せられたもう。
神なる天秤、常にあれかし。
神は我らを愛し、我らを憐れみ、我らを慈しんで下さる。
しかして、神は天秤を創られたもうた。その意味するところ、明白である。
神は我らを愛したもう。しかして我らを戒めたもう。
神は我らを慰めたもう、しかして我らを罰したもう。
神なる天秤、常にあれかし。
我ら左の皿に我と我が身を乗せるべし。
我ら右の皿に愛と幸福を乗せらるるべし。
我ら信仰と共に歩むべし。尊き天秤、我らのおそれとならざりし、我らのしるべとなるべきなり。
神なる天秤、常にあれかし。
父たる神は、常にあれかし。』
聖アルテ『神なる天秤の導き』全文 (現代語に翻訳したもの)。
最も有名な聖詩の一つであり、天秤を聖なるシンボルとする根拠の一つである。
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第三章「敵の名は宿命」
章付録「『秘匿書籍欄より』」
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『天にまします、我らの神よ。
大いなるかな、我らの神よ。
愛したまえ、憐れみたまえ。
導きたまえ、導きたまえ。
今よりはるか昔、太古の時にて、おぞましく醜くも、まこと力強き悪魔現れり。
悪魔、神の愛せし大地に恐るるべき呪いをかけ、暮らす人、獣、草木の根に至るまで、その命の熱を喰らいて、奪えり。
まこと恐ろしきこと、人は神に縋り、祈りて、救いを求めるが、能わずに命を数多落としけり。
やがて神、おぉ我らのいと高き導きのお方よ、人に一振りの白き剣を与えたもうた。
剣はその握る者を自ら選びて、ただ一人その者のみに力を与えん。
いみじくも人、選ばれし剣振るう者支え、剣振るう者ついに悪魔を打倒せり。人、喜びに沸き立ち、13日の間を舞い、神に祈り捧げしなり。
剣振るう者は神への感謝奉り、神聖なる祭壇造りて、ここに剣を納めし。また、これ何人たりとも触れる事能わず。
祭壇に至る鍵、剣振るう者のともがらに預けられ、いつかまた悪魔の蘇らん日に備えんとす。
おぉ、我らの神よ、いと高きお方。
我らを愛し、我ら愛すべき、慈悲深きお方。
我、ここに誓わん。
永劫の時、剣を守りて、相応しき者に託し続ける使命を引き継がせん。
いつか悪魔、必ずや蘇らん。
我ら人、使命を後に託したり。
おぉ、我らの神よ、いと高きお方。
見守りたまえ、導きたまえ。
我らの行く末、照らしたまえ。』
シシリーア城枢機卿座専用第ニ図書室秘匿書籍欄、某書物より抜粋。
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それと、表紙のようなものと世界地図を描きました。
ただし、素人の私がちゃちゃっと描いたものなのでクオリティとか整合性とか気にしてはいけないのだ……!




