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贄の王座と侍るもの  作者: 伊空 路地
第七章 欲しかったものは過ぎ去りて
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207 『王子』に会いに

書き溜めが尽きてしまったので更新速度落とすかもです…

ごめーんね☆(申し訳ありません本当にごめんなさい調子に乗ってしまいました許して下さい)


 【転移】による移動を活かして、方々の連絡を取り持つのが、ラヴェイラ派におけるサンの主な役割だ。


 それ以外にも、魔法や権能が必要とされる場面で実働部隊になったり、指示を下す上位者が欠けている場所で即席の指揮を執ったりと、悪く言えば雑用、良く言えば臨機応変に活躍している。


 今はベルナンデの街で王政派と中立派の抗争を煽るのが主な仕事だが、それだけに集中とはいかないのが辛いところである。






 【転移】でとある街のとあるアジトを訪れた。ヴァーナ地方最大の街であり、王政派が力を持っている街だ。


 アジト内に直接現れたサンを見て、待機していた男たちが挨拶してくる。


「姫!お疲れ様です!」


「お疲れ様です!」


「お疲れ様です、姫」


 サンはじとっと彼らを見回す。


「お疲れ様です……。だから、『姫』は止めて下さいってば……」


 彼らもまた、サンを『姫』と呼ぶ一派だ。


「はっはっは。ま、いいじゃないか。『お姫様』」


 そんな声と共に、一派の親玉が現れる。


 サンはそちらにもじとっと目を向けると、親玉にも挨拶をする。


「お疲れ様です、フランコ。……貴方のせいで定着してますからね」


「ふっふっふ。それは良かった。ぼくも満足だねぇ」


 サンの視線を受けても全く動じず、いつも通りの柔和な表情を浮かべた男。元は密輸の元締めだったが、ラツア裏社会の王ドン・バッティーノ亡き後の混乱に乗じ、ラヴェイラ派を取り纏める地位を確立した。


 ラヴェイラ派が勝利すれば、次なるドン・バッティーノになるのがこのフランコであろう。


 ついでに、サンが【従者】だと広めたくないと『姫』呼びを始めた男でもある。


「満足、では無いですよ。覚えておいて下さい」


「おぉ、怖い怖い。『王子』に止めてもらわなきゃねぇ」


 フランコは大げさに肩を震わせると、あからさまにからかってくる。


「フランコ!」


「ふふふ。……はいはい、ごめんよ。それで、ベルナンデの首尾はどうだい?」


「もう……。王政派と中立派は衝突しました。カンパーナ卿もこれを察知。あとは適度に加熱してあげれば、目論見は果たされるでしょう」


「うんうん。流石だねぇ。面倒な仕事をありがとう」


「いいえ、お気になさらず。……それで、中立派に少しお金と物資を流します。王政派をもう少しベルナンデに流すと良いかな、と思います」


「ふぅむ。分かった、適当にやってみよう」


 現状、ラツア全体で最も力がある派閥はラヴェイラ派。次が王政派で、最も小さいのが中立派。折角ベルナンデの街で王政派と中立派を争わせるなら、両勢力を集めて消耗させられないかと提言したのだ。


 これでヴァーナ地方の両勢力は力を削がれるだろう。衝突の火さえつけてしまえば、後はフランコが上手く調整してくれると思う。






「あぁそうだ。お姫様、『王子』に届け物を頼めないかな?」


「お姫様ではありませんが、構いませんよ」


 【転移】は強力な力だ。情報の速度という意味において、他者の追随を許さない。この力で敵勢力の裏をかいた事も一度や二度では無い。今回の届け物もそういう類だろう。


「二つあるんだ。これと、これ」


 フランコは予め準備していたらしい、封筒の束と、小さな革鞄を渡してくる。


「渡せば分かる筈だ。お願いするねぇ」


「えぇ、承りました」


「『王子』の居場所は知ってるかい?」


「フィンの街でしょう。前に姉さまから聞きました」


「そうそう。ところで、フィンの街と言えば娼婦が――」


「それも聞きましたっ」


「……ちぇ。ロッソにネタを取られたなぁ」


「姉さまといい、貴方といい……」


「いやぁ、からかうと面白いからついねぇ」


「もう。私、行きますからね」


「はいはい。じゃ、またねぇ」


「えぇ、また」


 サンはその場で【転移】を発動。フランコのアジトを去って行くのだった。






















 フィンの街。この街のアジトを訪れるのは初めてだ。


 というよりも、この街にはアジトらしいアジトは無かったのである。今サンが歩き向かっているのは、最近ロッソが買収したホテル。『王子』がこの街で活動するために用意した拠点だ。


 サンはホテルに到着すると、適当なホテルマンを捕まえて支配人を呼んでくれるよう頼む。ホテルマンは当初懐疑的な視線を向けてきたが、ロッソの名前を出すと明らかに顔色を変えてどこかへ駆けこんでいった。分かりやすい事である。


 直ちにやってきた支配人はサンの顔を知っていたらしく、こちらを見るなり、目玉が落ちるんじゃないかと言わんばかりに目を見開いた。


「こ、これは、サン様……! 当ホテルまでようこそお越しくださいました。ささ、こちらにどうぞ。僅かばかりではございますが、おもてなしをさせて頂きたく思いますので……!」


 おもてなしは別に要らないのだが、あまり表で話したい事でも無いのは事実だ。大人しく案内されておこう。






 通された部屋は意外に質素な応接間だった。高級ホテルにもなるとこういう場所が必要なのだろうか。それともロッソの要求で急遽用意されたのだろうか。サンにはよく分からなかったが、ソファの座り心地は一級品だな、と思った。


 ホテルマンがお酒が良いか、それともお茶が良いか、と聞いてきたので、ジュースがあればそれがいいと答えておいた。あまり長居するつもりは無いからだ。


 サンは向かいのソファに腰を下ろした支配人に、『王子』に会いに来たのだと早速告げる。支配人は納得したらしく、大仰に何度も頷いて見せる。


「左様でございましたか。確かに、ロッソ様のお達しにより、当ホテルのラグジュアリ・スイートはかのお方に滞在頂いております。お部屋へご案内する、という形でよろしいでしょうか?」


「えぇ、そうして頂けると助かります」


 そこでサンの為に誂えられたと思しき豪勢なオレンジジュースが運ばれて来た。生のカットオレンジが飾られ、透き通るような氷で冷やされた物である。輝くようなグラスは良く磨かれ、明かりを受けて煌めいている。


 こういったもてなしを受けると、ありがたいと同時に少し申し訳なくなるのは何故だろうか。サンの心根が小市民だからだろうか。そんな事を思いつつ口に運んだオレンジジュースはとても美味しかった。


 だが残念ながらここでゆったりともてなされている訳にはいかない。サンがここに来たのは『王子』に会うため。余計な時間は使いたくない。


 二口程度ジュースを飲むと、支配人に早速向かいたいと告げる。


「畏まりました。それでは、早速ご案内致します。さ、どうぞこちらへ……」


 何と支配人自ら案内してくれるらしい。そこまでする必要は本当に無いのだが、断るのも何だか具合が良くない。恐縮しきりで大人しく案内されておく事にした。


 そうしてやってきたのはホテルの最上階。ラグジュアリ・スイートとは最上階がまるまる部屋になっているらしい。エレベーターを降りた先には扉一つしか無かった。


 サンはここまでで良い、と支配人を下がらせた。部外者が近づく可能性は無くしておきたいからだ。


 それからようやく、ラグジュアリ・スイートとやらの扉に向き直る。ドアノッカーがついていたので、それを鳴らそうと――。


 がちゃり。内側から扉が開いた。


「――それでは、王子様。本当に素敵でございました。失礼致します。……また、機会がありましたら是非」


 扉から出てきたのは、一人の女。その美貌と洗練された仕草、色艶のある話し方から分かった。高級娼婦だ。


「――えっ」


「あら? お客様かしら。失礼致しましたわ。わたくしはもう行きますので、お目汚しをお許し下さいませ」


 高級娼婦は嫌味無く丁寧にあいさつすると、エレベーターに乗り込んで消えていった。


「……えっ」


 高級娼婦が開けておいてくれたので、扉は開いたままだ。


 サンは恐る恐る、部屋の中に入る。直感に従って歩けば、リビングルームのソファに黒い後頭部がある。


「あ、主様……」


「――ん? ……サンか。どうした」


 振り返ってそう言うのは、サンの主にして『王子』、贄の王である。


「い、今……。女の人が……」


「あぁ。仕事を頼んでいたのだ。もう少し早く来ていれば、お前も交えていたのだが」


「えっ」


 ――『仕事』。来ていたのは高級娼婦。


 ――そして『お前も交えて』?






「……」


「あの女、中々に優秀だった。お前も気に入ったかもしれんな」


「……」


「……サン? どうしたんだ」


「あ……」


「うん?」


「主様の……」


「は?」






「主様のへんたいぃーーーーっ!!!」


 ――サンの絶叫が、部屋中に響き渡るのだった。





















「――もうしわけありませんでした……」


「いや、まぁ、構わんが……」


 当然と言うべきか、贄の王が高級娼婦を呼んでナニカをしていた、というのは誤解であった。


 『仕事』というのは高級娼婦の伝手を活かした真面目なものだったし、『お前も交えて』という言葉に妙な意図は無かった。


 敬愛する主を疑ったばかりか罵倒までしてしまった。衝撃、後悔、反省、羞恥もろもろが合わさって、サンはいっそ消えたいような心境だった。


 贄の王もサンの胸中を察しているのか、微妙に気まずそうにしている。


「いや、サン。それどころではない。あの娼婦がラツア教会の上層部から無視出来ない情報を掴んだのだ」






「――近く、教会が全面的にラツア王支持を表明。我々ラヴェイラ派を異端と断じるつもりだ。」







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