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贄の王座と侍るもの  作者: 伊空 路地
第一章 世界の敵たる孤独な主従
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20 神の天秤の左皿


 シックは徒歩にて崩壊したリーフェンにたどり着いた。


 というのも、数日前に魔物の襲撃でリーフェンの駅が崩壊したため、大陸鉄道がその前駅までしか動けないためだ。正確にはリーフェン近郊までは来られるのだが、リーフェン復興のために一般の旅客は乗せられなかった。


 伝統的には街に沿う広大な河川で生きてきた街だった。駅も川からそう遠くない場所にあり、駅崩壊時の鉄の津波が川港も使用不可能にしてしまっていたのだ。リーフェンはその半分以上が瓦礫と化してしまい、無事な建物と人々はほんの僅かだった。


 主な交通の二つを失ってしまったため、周辺に展開していた大勢の軍隊と生き残った民たちは飢えに苦しむことになった。幸い途中までは生きていた大陸鉄道から馬や人の手で食料が届けられ、大量の餓死者まで出すことは防げた。






 ――なんて、酷い……。


 シックは惨劇の後を見てそう思わずにはいられない。


 数日の後でも街だった瓦礫の山は何も変わらず、防疫の為に亡くなった人々の遺体だけでも運び出そうとはされたのだが、瓦礫に埋められた人々はどうしようもなく、未だその下に放置されたままなのだ。――恐らくは、まだ生きている人々も。


 何か出来ることは無いのか、と思ってもシックは無力だった。所詮一人の少年であり、特別なことは何も出来ない。


 シックは素朴な信仰者だった。言い方を変えれば世の中についてあまりに無知であり、神と信仰のほかを知らないがゆえの盲信でもあっただろう。


 だから神を嫌うサンのような少女を見ても、不幸な人としか思わなかったし、あるいは自分が信仰の道に救ってあげられないかなどと素直に考えられたのだ。


 だがそんなシックの心にも、リーフェンの惨劇は”何か“を残したに違いない。なぜなら、家と家族を失い嘆く人々に向かって、『あなたの街と家族は天秤の左皿に乗せられたのです。右の皿に幸福を乗せるために――』などと、言えなかったからだ。


 彼らが信仰を捨てて神を呪うさまを、愚かなどと言えなかったのだ。






 結局、シックは自分の無力さを呪いながら、失意のままにリーフェンを去らざるを得なかった。彼には使命があったし、居なくても何も変わらないことが分かったからだ。元々はリーフェンから船で川を上る予定だったが、こうなっては仕方ないと徒歩にて川沿いを歩き去っていく。


 シックの慰めになることを言うならば、リーフェンの復興はその後、被害の規模から言えば驚くほど迅速に進んだ。


 大陸鉄道は国家間の利権や安全保障が複雑に絡みながらその線路が引かれたため、簡単に違う駅を作るというわけにはいかなかったという事と、カネに敏いエルメアの議会が“復興は金になる”と気づいた事のおかげだった。


 ――その結果、十数年の未来には過去以上の発展をリーフェンは遂げる事になるのだが、それが『神の天秤の右皿』とも言えたのは皮肉なのだろう。






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