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贄の王座と侍るもの  作者: 伊空 路地
第四章 砂漠に在りし忘られの想い
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122 砂に沈みし太古の都


 サンと贄の王はサーザールと別れた際、いくつかの資料を貰った。“贄の王の呪い”や“贄捧げ”、魔物についてサーザールが知り得る事を纏めたものだ。オグネス翁の死の前夜、サンが対話の中で約束してもらった物である。


 その中に、まるで誤って挟んでしまったかのように、一枚の地図が紛れ込んでいた。ガリア全土を描いたそれには特段目を向けるべきところも無く、何かの書き込みも無ければ別の資料の説明用という訳でも無い。


 サンは最初、その地図に注目しなかった。妙なところに挟まっていたな、という程度の感想を抱くだけだった。


 全ての資料に目を通し終え、今後について贄の王と話して、“アーマナ”なる地名が話題に出た時にふと気付く。――自分はアーマナの位置を知らない。


 アーマナとは、オグネス翁が対話の中で口にした「我らの遠い父祖が辿り着いた魔物の謎の答えがある」という場所だ。長老メレイオスを除き、サーザールの戦士たちにすら教えていないとも言っていた。


 そこで“メレイオスが教え忘れた”のでは無く、あの“何の変哲も無い地図”を疑ったのはサンの勘が働いた結果だろうか。


 絶対に何かがある、という目で地図を隅々まで調べた。何かの暗号が隠されていないか、他の地図と見比べて違うところは無いか、紙自体に細工は無いか――。


 果たして、サンの勘は正しかった。


 思いつく限りの手段を試し、本当に何の変哲も無い地図なのか、と思い直し始めた頃。半ば自棄で地図を真っ二つに切ってみたところ、地図の”裏“からもう一枚の紙が現れたのだ。


 一体どうやって仕込んだのか、地図は巧妙に二枚の紙が貼り合わされた物だったのだ。


 こんなの分かる訳が無い、絶対に意地悪だ、とサンは憤慨した。どこの誰が貴重な情報があるかも知れない地図を破ってみるというのか。真っ二つに切った自分の事は敢えて棚に上げた。


 そんな経緯で現れた二枚目の紙には“アーマナ”という言葉とバツ印だけが書かれていて、一枚目の地図と重ね合わせると砂漠の真ん中にアーマナなる土地が示される、という訳だ。






そこは、端的に言って廃墟であった。


 かつてはそれなりの広さを持った都市だったのだろうが、長い長い時の中で砂の中に埋もれていったようで、見えている建物も半ば以上が砂漠の下になってしまっている。当時はあっただろう道も消え果て、“在る”と知っていなければ間違いなく辿り着くことは無いだろう。


 都市の南端には神殿がある。古代ガリアにて古神信仰が栄えていた頃、古神の一柱に捧げられた神殿だ。エヘンメイアの古神像やパトソマイアの太陽神殿に代表される巨大建造物たちと比較すると随分小さく、あるいはみすぼらしく見えるかもしれない。


 だが、遥かな昔この都市に暮らしていた人々はこの神殿をとても大事にしていた。彫り込まれた装飾が少ないならと草花で飾り付け、捧げものが少ないからと掃除を欠かさなかった。大きな都と違い、方々から信徒がやってくるような事は無くても、常に人々の祈りと共にあった。


 無論それらは全て過去のこと。神殿はその大半が砂に沈み、その下で歪んで崩れた。かつて暮らした人々でさえ、今のあり様からは偲ぶことすら難しいだろう。


 都市は人々の記憶から消えてしまった。そこに眠る人々も、民に愛された神殿も、そこに“居た”筈の神の名さえ忘れられ、誰も思い出す事は無い。




 都市の名前は、アーマナ。


 最初の”贄“たちの一人だった”誰か“が、生まれ、育ち、二度と帰れなかった場所。




 悠久の時を経て、”王“がここに訪れる。全てが忘れられ、”誰か“の願いも消え去って、”呪い“だけが続いた果てに。


 ”贄の王“が現れる。一人の少女を伴って。


 ――約束だった、あの場所に。







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