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贄の王座と侍るもの  作者: 伊空 路地
第四章 砂漠に在りし忘られの想い
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102 閉門式


 それから、およそ半月が経過した。


 “神託者”がパトソマイアを発ったとされる日から考えて、タッセスメイアに到着が疑われる時期である。


 “神託者”がタッセスメイアに到着したならば、必ず大関門を通る。“神託者”捕捉のまたとない絶好の機会。絶対に逃がす訳にはいかない。


 しかしサンは一人であり、睡眠なども考えれば四六時中大関門を見張っている訳にもいかない。そこで一つ策を考えた。


 それは“従者”による大関門の封鎖である。


 大関門には閉まりっぱなしの大扉と、それを挟む常時開放されている二つの小扉がある。これを魔法でもって封鎖する。その際、それが“従者”による仕業であると喧伝するのだ。


 “神託者”は必ずここを通る。必ず、“従者”による封鎖を解こうとする筈だ。


 向こうの顔が分からないなら、向こうから会いに来てもらえばいい。それがサンの策である。






 フードで顔を隠し、真昼の大関門の前に立つ。


何気なく見上げてみれば、変わらぬ威容がそこにある。分厚く、巨大な関。中央の大扉は言うまでも無く、左右の小扉すら単体で見れば全く小さくなどない。

これを少しだけ、自分のために利用させてもらおう。


 “動作”の魔法を両手で使用。二つの小扉を同時に動かし、閉ざす。更に権能を使い、“闇”を操って小扉を覆い隠す。この”闇“はただのハリボテでその辺りの影と変わらないような物だが、放っておいても消えない。光に属する生物は本能的におぞましいと感じる”闇“だけに、触れたがる者も居ないだろう。必要十分というやつである。


 ざわめく人々を無視し、権能による”闇“の魔法”飛翔“を使用し自らの身体を宙に浮かび上がらせる。


 無意味に自らの身体から”闇“を漂わせて恐怖感を煽りつつ、サンは人々の目線が自らに向くのを待ってから声を張り上げる。この時の為に、わざわざガリアの言葉で台詞を作ってきたのだ。


「聞きなさい!私こそは“従者”と呼ばれる者!

この門は私が閉ざしました。開けてほしければ、今より7日後!生贄として一人の人間を差し出しなさい!今より7日後、再びここを訪れましょう!ゆめゆめ忘れることの無きよう。7日後です!」




 それから“転移”で姿を消して、フードを取ってから普通の旅人として大関門を訪れてみる。


 意外と人々は静かで、がやがや相談らしきものをしながら大関門を離れて見ていた。


 まさに今きたところです、という風を装いながらその辺の人にラツアの言葉で話しかけてみる。元々ガリアにはラツアの言葉を話せる人間が多いそうだし、一人くらいはここにもいるだろうと思ってのことだ。


 適当に話しかけた6人目、これも外れと振り返ったところで逆に話しかけられる。


 それは深いしわを顔に刻んだ老婆で、ラツアの言葉なら自分が分かると言ってきた。サンが周囲の人間に話しかける様子を見ていたらしい。


「これは一体何があったのですか?」


「ついさっき、怪しい魔法使いが扉を閉めたって言ってきてね。開けてほしければ7日後に生贄なんて馬鹿なことを言い出したのさ。とんでもない話だよ。」


「生贄……。穏やかではない話ですね。」


「全くだよ。ああでも、なんて恐ろしい。あの扉を覆う真っ黒いのが見えるかい。絶対にまともな魔法使いじゃあない。私のみたとこ、あれは呪いの者だよ。」


「呪いの者?」


「そうだよ。世の中にはね、普通の魔法じゃ飽き足らなくて、下法や呪術の類に手を出す奴らがいるのさ。」


「下法や呪術……。」


「本当におぞましい話だよ。あの真っ黒い暗闇なんて、まさに下法じゃないか。恐ろしい、恐ろしい。」


 老婆の言う呪いの者とはほとんど眉唾の話だったが、普通の魔法で無いことは確かなのである意味的を射ている。


 「では、今は向こう側へは行けないのですか……?」


「行けないね。大関門を避ける道なんて無いからね。

あんた、旅人だろ?大人しく7日後とやらを待つのがいいよ。どうなるか、分かったもんじゃないけどね。あぁ、恐ろしい……。」


「生贄……差し出すのですか……?」


「さぁね。あたしの知った話じゃないよ。そんなのは考えたいやつらに考えさせりゃいいのさ。」


「はぁ……。」


「今の時期、外国人なんてうっかりしてたらそれこそ生贄にされちまうよ。あんたは若くて美人だから、大丈夫だろうけど。」


「あ、ありがとうございます……?」


「あたしも若い頃はそれなりだったけど、歳には勝てないね。人生、今のうちにたっぷり楽しんどきな。」


「え、えぇ……。」


「この歳になるとね。いろーんな事がどうでもよくなってきて――。」


「あの、ごめんなさい。私そろそろ行きますから……。」


「おやそうかい。引き止めちまったね。ほら、さっさと行くのがいいよ。そうしないと、あたしみたいにあっという間に婆になっちまうからね。」


「えと、それでは……。」


 そそくさと老婆から逃げ出しつつ、策の滑り出しは上々のようだと満足する。血の気の多い男が石やらを投げて、小扉を覆う”闇“にぶつけているが、残念ながら実体は無いので向こうの扉に当たっているだけである。


 流石に得体の知れない”闇“に触れる者は居ないようなので、7日くらいならハリボテが繋いでくれるだろう。時折様子を見には来るが、次は7日後に再びここへ来て、”神託者“が居ないか確認するだけである。


 居ればそれでいいし、居なければ適当に時間を延ばせばいい。敬虔な信徒であろう“神託者”のことだし、“従者”を無視は出来ないと予測している。


 ともあれ、次は7日後を待つばかりである。







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