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北海の絶壁。夜の蝶あるる。キレる。

作者: withあるる

あるる氏の許可を得て掲載しております。


 なぁ、旦那様よ。


 1つだけ教えてくれないか?


 あの日教会で神に誓った言葉は嘘だったのかい??



 私は今でも思い出せるよ。あの日あの時、私の瞳に向けて放たれたあんたの誓いの言葉を。



12月某日 14:00


 「またダメだったか……」

 

 私はため息と供に今月の『戦利品』から手を放す。『騙された』『悔しい』そんな気持ちは何年も前にタンスの奥深く、取り出し不可能な場所に封印されてしまっている。


 私の名前はあるる。月に1度の小遣いを全てAAカップに捧げる女。今月の『戦利品』は『これであなたもG-cup!! 夢のバストサイズアップマシーン』を謳い文句にした謎の機械だった。1週間試した後にそっと胸を撫でる。


 「まるでまな板みてぇだな……ハハっ笑えてくるぜ」


 でもいいんだ。こんな私でも愛してくれる旦那様がいるから。

 ……嘘だ。私は『戦利品バスとサイズアップマシーン』を床に叩きつける。残された手がないわけではない。そう、豊胸手術だ。だが親から貰った体に傷を付けたくない。そんな思いが持てる心の温かい聖人。それが私だ。

 ……嘘だ。本当はそんなお金がないだけ。私は空しくなって心の中で叫んだ。

 誰か! 誰でもいいからこの静寂に包まれた空気を壊してくれ!! 私は順調に育っていくお腹の子を撫でながら何かに祈った。


 Pipipipipi その時携帯が鳴った。画面を見ると旧友のちぃだった。キャリア15年の現役キャバ嬢である。


 「どしたの?」昔の友人との会話は楽しい。きっとこの憂鬱な気持ちを晴らしてくれるだろう。そう期待を込めて電話に出た。


 「この前、旦那が店に来たよ」


 ちぃの一言目は確かに私の憂鬱な気持ちを吹き飛ばした。違う意味で。




 私の名前はアルル。結婚するまでは北海のアゲハ蝶と呼ばれていた女だ。

 え? 北海のアゲハ蝶ってどんな意味かって?? 知らんよ、そんな事は。呼び始めた人に聞いてくれ。 どうせあれだろ? スタイル良いけど胸に凹凸がないって事だろ?! やかましいわ!!


 こっほん。話がそれた。私の旧友こと昔のキャバ仲間ちぃから旦那の話を聞く。


 「それがさぁ、聞いてよあるる。あるるの旦那がさ~」


 『なぁ、神様は無駄な物を作らないんだよ。手足が2本ずつあるように。目や耳も2つずつある事には必ず意味があるんだ。臓器だってそうさ。呼吸を司る肺にアルコールを分解してくれる肝臓、塩気のものは腎臓っていう風にさ。どの臓器も特別なオンリーワンってわけ。だから、おちんぽにも無駄な構造はないんだよ。妻が妊娠しているときはさ、エッチできないだろ? まぁ現代の知識は発達してるからさ、できない事もないんだけどね。でも、僕は君をみて勃起している。ねぜだかわかるかい? 今新しい命が生まれるために役立たずな期間のはずのおちんぽがだよ……。そう。これは浮気なんかじゃない。神から授けられた使命なんだよ‥‥…。今夜、君と合体しろっていうね』


 「とか新人のサチに言ってんの(笑) マジウケたんだけど。今日サチと同伴するとか言ってたよ」

 「そぉ……。ちぃ、情報ありがとうね。」


 私は怒りに震える手を抑えて電話を切った。あの野郎! 家計費は切羽詰まってるっていうのにキャバクラなんか行きやがって。しかも同伴だと?! お店に行く前に女の子と食事ってどっから金がでてやがんだ!! 私と最後に外食したのなんて3ヶ月以上前だぞ!! そもそも私が前に夜働いてたんだから、どの店にもつながりがあるってわかれよ!! なんでバレないと思ったのか……ホントに馬鹿な男。


 ……この怒り、どうしてくれようか。


12月某日 16:00

 私は怒りに震える心臓の音を車輪に乗せる。旦那の稼ぎは多くない。今日は卵が先着200名様かぎりの1パック68円のタイムセールだ。夕食の支度をする。1玉178円の白菜と1本80円の大根。すき焼き風どんぶりだ。

 え? お肉はないのかって?? 馬鹿を言っちゃいけないよ。ちゃんとあるじゃないか。眼を閉じて白菜をよ~く間で噛んでみなよ。どうだい? 白菜はお肉だろ??


 黙々と夕食の支度を始める。問題ない。私は旦那を信じている。きっと今日は真っすぐに私の元へと帰ってきてくれるはずだ。考えながらも常に手は動いている。私こそが主婦の鏡だぜヒャッハー。よし。下ごしらえは終わった。後は昨日キャバクラで飲み歩いていた旦那を待つばかりだ。

 ピコン!!

 携帯が鳴る。私は即座にアプリを開く。


 「ごめん。今日も残業で遅くなりそぉ。めんごめんご。愛してるよ」


 私は即座に旦那に『お疲れスタンプ』を押すとちぃに電話をかける。

 「ねぇ、今日キャストととして入れる?」

 「そういうと思って体入希望の子がいるって店長に話しといたよ☆」

 「さすがちぃ、あんたは仕事のできる女だね」

 北海のアゲハ蝶、本日夜の世界へと舞い戻ります。



 12月某日 20:00


 キャバクラ嬢は2つのパターンに分かれる。1人の太客ハイプと安い客を数持つタイプ。太客タイプの嬢は孤独だ。だが私のように安い客を数持つタイプは仲間が多くいる。

 何が言いたいかというと、店長との仲も良いから楽勝でシフトに割り込めた。


 着替えて待機室に座ると煙草に火をつける。

 「あれ? あるるちゃん煙草やめたんじゃなかったの?」

 横でちぃが苦笑いをしている。私は大きく息を吸い込み煙を吐くと同時に答えた。

 「なぁ、ちぃ。どうして体に悪いもんは……こんなにもうめぇんだろうな」


 ちぃは再度苦笑いすると『お腹の子に悪いよ』と言いつつ自分も煙草に火をつけていた。


 この場所は腐ってる。薄暗い照明に照らされやかましい音楽が垂れ流しになってる箱(店内)を見渡す。嘘と欲望にまみれた腐った場所だ。だが嫌いじゃねぇ。私は煙草の火を消すとメントスを口に含んだ。


 「あるるさんお願いします」


 ボーイに呼ばれ1人目の客に着く。旦那が来るまで1時間ってとこか。給料分は働くとするか。

 席に着くと客は1人で来ていた。この席に着いた嬢は私で3人目らしい。


 前に着いてた女の子の情報によると無口なうえにドリンクもくれないケチな奴らしい。


 「オッス、オラアルル。よろしくな」


 軽く挨拶して様子を見る。名刺は出さない。客は『ども』と頭を軽く下げ無言。何しに来たんだこいつは。ドリンクが切れかけていたのですぐにお代わりを作りながら探りを入れてみる。


 「若いねー。今日は仕事終わり?」


 若いと言われて喜ぶのは女だけだろう。だが何かの会話のきっかけになれば良い。会話は連打して行けばその内何か見えてくるもんだ。


 「うーんそうかな? いくつに見える?」


 こいつ本当にメンドクセェ奴だな。知らねぇよ。だがここは夢の時間を売る場所だ。ここのキャバクラは1時間制で3回転、嬢1人の持ち時間が25分とすると3人目の私には10分しか時間が残されていない。

 「ちょっと待って。当てるわ。真剣勝負な。当たったらドリンク1杯くれよな」

 ニカッと笑いながら相手の目をじっと見て答える。

 「いいけど? 外れたらどうすんの?」

 「外れたら私の煙草1本やんよ」

 「いやいやそ「待て待て待て、真剣に考えてるから。うーん。20代なのは間違いないと思うんだけど、スーツの具合からそこそこ社会人の経験積んでそうだよね。難しいなぁ。ハンデ!! ハンデちょうだいよ、誤差1歳なら当たったって事で!!」


 会話は連打だ。相手にスキを与えてはいけない。


 「んー。1歳くらいの誤差なら別にいいよ。」

 よし。既にこの男の頭の中はドリンク1杯だと釣り合わないという考えから誤差1歳くらいならいいかという思考に切り替わった。馬鹿が。難しいわけないだろうが。何年やって来たと思ってるんだ。私は口をペラペラと回す。


 「明日は午後から雨降るらしいよ。傘持って行った方がいいよね。洗濯物は干せないよねー。そういえばドラム式洗濯機って知ってる? あれ洗濯から乾燥までボタン一つでやってくれるから1人暮らしにはマジオススメだよ。毎日洗濯機回した後にパンッってして干すのって時間勿体なくない? 私は人生の時間の中で洗濯物を干すって行動にどれだけ無駄に時間を掛けてたのかを悟ったよ。革命だよね。ドラム式洗濯機って。ところで、結構こういう店には来んの?」

 「うーん。あんまり来ないかな」


 なんであんまり来ない場所に1人で来るんだよ。変人なのかおのれは。


 「そうなんだー。いい男だもんね。まだ若いし合コンとか行ってそうだよね。なんか結構遊んでる感じするなー。出てる出てる。遊び人オーラでてるよ」

 「そうかなー。全然遊んでないと思うけど」

 さりげなく視線を手に飛ばす。肌の張り具合からおそらく27前後。さっきスーツの具合からそこそこ社会人経験と言った時『そこそこ』という言葉に若干ムッとしてたからプライドが高く5年以上はサラリーマンやってる感じかな。

 いい男と言ったが、容姿は普通の男だ。なんなら若干ハゲかかってきている。だが私にとって(どうでも)いい男なのは変わりない。本命は旦那だからな。


 「20代後半、20後半なのは間違いないと思うんだけどなー」

 「どうだろうねー」


 ホントどうでもいい奴だな。ちょっとは会話しろやメンドクサイ。だがわかった、今の表情から察するに童顔で20後半ではないらしい。30代だな。


 「31歳?」

 「惜しい。32歳だよ」


 「よっしゃあ!! 誤差の範囲内~ピーチフィズ貰うわ~、1杯1500円GETだわ~」

 勿論高いドリンクは頼まない。「お願いしまーす」紙にオーダーを書いてボーイに渡す。私まだイケてんな。なんだか楽しくなってきたぞ。




side店長


 あるる氏が早くもドリンクオーダーを取って来た。ドリンクを持って行かせて3分後。お客さんに終了時間を告げさせると延長と指名も取って来た。やはり彼女は仕事ができる。可能であれば旦那を説得して週3くらいシフトに入ってくれないだろうか。

 最近の若い子はドリンクのねだり方が上手くない。中には座ってすぐにドリンクをねだる子もいる。簡単な客ならそれでもなんとかなるから余計に質が悪い。その点ベテラン勢は違う。今の様にゲームに見せかけたり、マシンガントークをした後に『喉かわいてきたわ』等様々な引出しでドリンクを引っ張ってくる。これを新人に見せる事で何かの教育になれば儲けものなんだが……。

 この時私はそんな風に呑気に考えていた。12月某日 21:15。アルル氏の旦那が来店するまでは。


 


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[一言] 何が言いたいのか⁉
[良い点] ちょっとした描写が面白い。 ルビの使い方がおしゃれです。 続きが気になります!
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