全ては此処から始まった~利害関係~
つまり、元に戻る方法は見つかっていない――。そもそも、現実で死んだのだ。元に戻れるのか微妙なところではあるが。そんな考えを見通したのか、ガラシャは憂い顔を見せた。だがすぐに表情を微笑みに戻す。
「確証はないのに、よく探す気になるな」
「全ては現実に戻りたいがゆえ。このままじゃ死んでも死にきれぬ。佐助は、そうではないのか?」
「俺は自分で死を選んだ。後悔はしていない」
そういう事なら納得がいった。此処は現実ではないが、もう一つの現実でもある。ならば今更急いで戻る事もない。気が向いたら、気になったら、戻る方法でも探ればいい。
それに、置いてきた子供が気にならない訳じゃないのだ。一応二人の子供の事は気にしている。だから、傷が癒えた頃に様子見くらいは出来れば、と思う。
「何故じゃ?」
「――色々あるんだよ、俺にもな。だから俺は戻りたいとは思わない。あんたは戻りたいと思うんでしょ」
無論じゃ、とガラシャは首を縦に振って頷いた。佐助は饅頭を食べ終えると、頬杖をついて足を組み替える。
「じゃあ手伝ってあげる。仲間は多い方がいいだろ? 俺は戻りたい訳じゃないけど、情報は欲しいからね」
おお、それは助かるぞ。そうガラシャは手を差し出す。
「わらわの名は、月見里唯宗。――この世界では明智光秀の娘のガラシャじゃ。ガラシャと呼ぶがよい」
「俺は小鳥遊三十郎。佐助でいい」
お互い、利害は一致している。ガラシャは元の世界へ戻るため、己は情報を集めるため――協力関係を結ぶ。差し出された手を、己――佐助は握り締めた。
「しばしの協力とゆこうぞ」
「ああ、まあ、よろしく」
それは誓いに似た契りだ。呪いや、縁と言い換えてもいいかもしれない。だからこそ、佐助は知らなかった。この縁が――いずれ強大な妄執を引きつけるという事に。
「では、話そうか。わらわが知っている事全てを」
ガラシャは小さな口を開けて話し出す。この国の事、この世界の事、前世返りというものの事を。そして彼女は驚くべき事を口に出した。
「わかっている事は一つ。前世返りは少しずつ記憶を失っていくという事じゃ」
長時間居続ける事は出来ぬ。前世返りだったという事を忘れていくからじゃ。前の世界の事、大切だったもの全て忘れていくのじゃ。故にわらわ達に遺された時間は、半年もない。覚えている間に帰らなくてはならぬ、とガラシャは強張った表情で頷いた。
「記憶を失えば、帰る事も出来なくなる。記憶が道しるべとなっているからじゃ」