全ては此処から始まった~本当の罪は何だ~
「し、しかし、曹操軍は――」
「半兵衛を捕まえるために豊臣と手を組んでいる曹操が捕まえようとするのか? 竹中重治(半兵衛)は豊臣の家臣だぞ」
「そ、それはわかっておるが……」
「豊臣と曹操は対等。それを豊臣秀吉が許す訳がない」
なら、法正はどう考える。そう問おうとしたところ、彼は音を言葉に乗せた。
「――嵌められたんじゃないのか」
意味がわからなかった。理解が出来ずガラシャは首を傾げる。
「まず、真田の忍――千代女だったか。そいつがあんた達を襲ったところから疑問が残る」
佐助が真田の忍に襲われた事は聞いていた。裏切りではないかと、真田の裏切りだとあの時は吠えたが、法正は引っかかりを感じているようだ。
「まず、真田は蜀と同盟を結んでいるが、曹操や孫権とは結んでいない。その上で、蜀の食客でもある佐助を襲ったのは、無謀過ぎる。宣戦布告しているようなものだ」
そこから嵌められていたんじゃないのかと法正は問う。未だに、彼の言う事がよくわからず首を傾げるしかなかった。まるで推理漫画でも読んでいる気分だ。頭の中に散らばったピースは繋がらない。
「なら何故、佐助を襲ったのか。それはきっかけ――いや、当てつけだな」
その直後に竹中半兵衛が、創世の魔導師が来ただろう。まるで見ていたように当てる法正に再び恐ろしさ――いや、昂ぶりを感じた。血が巡るのを感じた。まるで、彼は何でも知っている神のようだった。
「半兵衛は“世界”によって狙われている。神を愛する存在からもな。ならば、奴もそれ相応に逃げる手段を用いなければならない」
創世の魔導師である半兵衛は、世界のように筋書きを書き換えたり、神器のように無から有を生み出したり、神のように世界を作る事は不可能だ。しかし、小さな物事を積み重ねていけば、世界を変える事だって、可能である。
「――半兵衛は、史実に導くために千代女の、いや、真田の意思を書き換えたんだよ」
そんな事が出来るのは、決められている。法正はそれが正しいとでも言うように言い切った。疑問でも持つのが当たり前だろう。だが、そんなもの持てなかった。それが正しいと、当たり前だと、思ってしまったからだ。法正の言葉はガラシャを納得させるだけの強さがあった。その強さは、何なのかガラシャにはわからないが。
しかし、もし、そうであれば――ガラシャ達は最初から仕組まれたレールの上を、歩いていただけに過ぎないのではないか? 全て半兵衛の思い通りで――。
「まさか……!」
「全部最初から思い通りって訳だ。そりゃ、人を使う方が楽だからな。世界を出し抜こうとしたんだろうよ」
だが、そのお陰で神を愛する存在達は半兵衛への怒りをより一層高まらせただろうな。人間を使い、彼らを味方として、世界達の敵に回させたんだから。法正は手元の竹簡を開き、視線を左右へと動かす。
「ま、ご愁傷様って事だ」
これから狙われるぞ。せいぜい半兵衛にでも助けてもらえよ。法正はそれ以上言わなかったが、ガラシャは彼の言葉を止める。