全ては此処から始まった~法孝直~
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蜀漢の首都・成都。
ついこの間までは別の人間が治めていた。しかし、劉備が蜀へ攻め込み、奪い取ったがためにその者は成都を追われる事となった。そんな成都であるが、未だ現在、安定はしていない。そのため劉備も、誰もが走り回っている次第である。劉備も、座している訳にはいかなかった。
「で、何だ。情報も持ち帰らずのこのこ帰って来て。佐助はどうした」
「い、いや、その……じゃな」
法正の鋭利な瞳に貫かれガラシャは一歩後退する。あれから数日後、蜀へ戻ったのはいいものの自分の任務を思い出しガラシャは焦りを覚えた。成都へ戻り、さて、情報収集を開始するために成都の中心地へ向かっていたところ、成都城から兵士がやって来ては「孝直殿が呼んでいる」として成都城へ召喚され、現在法正の部屋で縮こまっては視線を流していた。
「言ったはずだ。劉備殿に危害を加えるようなら殺す。迷惑を掛けても殺す。劉備殿の道を遮るのなら、俺も、諸葛亮も容赦はしない。勿論、他の誰も――」
「わ、わかっておる! 劉備殿を裏切るつもりも、危害を加えるつもりもない!」
「魏の姜維と関わっていると斥候が見たようだが」
見られていた。ヤバイ。というかいつ斥候を放っていたのだ。ガラシャは「し、知らぬな」と視線を右へ流す。だが法正には通用しなかった。法正はガラシャを睨み付けてくる。まるで肉食動物に睨まれている蛇のようだ。ガラシャは心中で溜め息を吐いた。
「……わらわ達も困っているのじゃ。言えるのかわからぬ。それに言ったところで信じて貰えるかもわからぬ」
「劉備殿は広大な心をお持ちだ。人を見る目もある。お前達に行かせたのは、お前達を信じたからだ。……言っておくが、あの人はただの仁徳者じゃないぞ」
汚い事も何でもやってきたし、苦汁を舐めてきた。失って、失って、そして手に入れたのがこの国だ。あの人はあの人なりに全てを見ている。もちろん、道を間違える時は俺達が止めるがな――と法正は淡々と告げた。
法正はいつも何処か違う。他の誰とも違っていた。諸葛亮とも、その妻月英とも、他の将兵達とも何処か違っていた。
「――……竹中半兵衛を知っておるか、孝直殿は」
まずはそこから話さなければならない。そう思い口に出した。曹操軍の事だけを告げても良かったが、曹操軍がどうして竹中半兵衛を狙っているのか――と疑問が出てくるに違いない。故の、確認だった。
「創世の魔導師か」
「っ、半兵衛を知っておるのじゃな!?」
「当たり前だ。あの男は、劉備殿の邪魔を何度もしてきた。知らない訳がない」
なら話は早い――。実は、曹操が狙っている、西に曹操達が居るのも半兵衛を捕らえるためだと言おうとしたが、法正はガラシャが言う前に全てを告げた。まるで最初から知っていたように。そして。
「……奇妙な事でも起こったか」