全ては此処から始まった~始まりの合図~
攻撃した時点で答えはわかってしまったようなものだ。神器でもないなら、存在は一つだけ。神のために、世界と協力した存在――それだけである。
そして半兵衛を憎み、彼の情報を欲する存在だ。その存在が何なのかはわからないが、誘き出すくらい可能である。このまま放置していれば、双方の国も、双方が愛する存在も何もかもが消え尽くす事くらいわかっていた。
「姜維、提案があるんだけど」
「奇遇だな、私もだ」
佐助と姜維は顔を見合わせ、同時に告げた。
共闘と行こうじゃないか、と。
それは佐助も考えていた事だった。今此処で争う事は、下策でしかない。
「敵はいずれ、国を飲み込む。そうなればお互い困るだろう。ならば此処は共闘し、お互い敵を倒そう。私は力がある、空中戦が得意だ。私とあなた達が合わされば、倒せるだろう」
差し出された右手、佐助はガラシャと視線を合わせ頷いてからその手を握り、ガラシャは佐助達の手を両手で包み込んだ。
「では、わらわ達は仲間じゃな。まずは誘き出すために囮に――」
「ああ、ガラシャ、あんたは蜀へ戻って貰いたいんだけど」
「な、何故じゃ!」
わらわとて役に立てるぞ、戦いでは役に立たぬが。ガラシャは申し訳なさそうに呟く。何か勘違いしているような彼女に、佐助は「何勘違いしてんの」と呆れ混じりに返答した。
「蜀で情報を収集して欲しいんだっての。主に世界と“あの方”の事だけど」
蜀で見つかるかわからないが、もしかしたら、劉備なら何か知っているかもしれない。それをガラシャに調べて欲しいのだ。
「そういう事なら、請け負うぞ!」
「どーも。んで、姜維あんたは、この近くにある魏の陣地で調べて貰いたいんだけど」
「了解した」
嫌な風の音が耳を突き抜ける。当初の目的を忘れそうになるが、当初の目的はガラシャが求める前世――つまり、元の世界に戻る方法を見つけ出す事だ。そのために佐助達は、前世返りを探している。うっかり忘れそうになっていたが、最終着地点はそこである。これは、そのための、通過点だ。
各々の役目を決めればガラシャと姜維は去って行く。佐助もまた、己の役目のためにその場へ立つ。佐助の役目はただ一つ――半兵衛に言われていた事だ。
「さて、敵をおびき寄せるかね」
三十路の元サラリーマンだけど三国時代に転移してしまった理由とかそんなタイトルで、ライトノベルを出せば売れそうな気もする。多分。まあ、現実な訳で、ライトノベルのようには上手くいかないが、出来るだけやってみようか。
佐助は忍び寄る足音、気配に気付けば刃を構える。忍び足で背後からやって来る敵目掛けてその刃を振った――。