全ては此処から始まった~真実の一欠片~
「知っていなければ、世界達に起こった昔の話を語れる訳もないのじゃ。おぬしは、力を持つ存在か、世界かにその話を聞いた。曹操殿達と」
そうではないのかと質問するガラシャに姜維は深く息を吐き出し、ガラシャを見下ろす。
「そうだ。孟徳様達と、先ほど話した話を聞いた。――神器と名乗る女性からな」
私は神器の力を見た。その女性は死した遺体を動かしたり、痩せた土地に多数の麦を咲かせたのだ。それを、信じない訳にはいかなかった。
「その女性は、王元姫。――神に仕えていた神器だ」
未来と過去が交差する。過去は未来を引き寄せるように先取りをした。その名前は知っていた。三国志の知識で。
未来、晋王朝を築く基盤を作る司馬昭――その妻である。黒幕は彼女かと安易に決めつけそうになったが、すぐに訂正する。
「そして、王元姫が告げた、世界の名は――」
瞬間、身を焦がすほどの熱が取り囲む。装備が、服から焼け焦げるような音がした。佐助はすぐに姜維へ解毒薬の入った小瓶を渡し、姜維はすぐに飲み干すと彼を連れてガラシャと共にその場から退いていく。
まるで邪魔されたようだ。その名を告げるのを遮るように熱はこの身を焦がそうとしていた。熱く、焼ける。隣を走る姜維は自分の帯を緩めると着用していた上衣をガラシャの頭から被せる。「三成殿の奥方に怪我をさせる訳にはいかないからな」と告げた。女を大事にするのは何処の時代も変わっていないらしい。
だが、そんなものでは防ぎきれまい。熱は肌を焦がし、焼いていく。熱い、苦しい、痛い――そんな感情が溢れるようになった頃、熱は一瞬で消え失せた。
「……な、何だ……?」
佐助達は立ち止まり振り返る。焦がすほどの熱は全て消え失せ、この地域での平常の温度に戻った。意味も理解出来ず、佐助達は首を傾げる。
「何じゃ、熱が消え失せたぞ」
「……普通では、考えられないな」
普通じゃない、誰もがそう考えていた。だが、佐助には一つわかった事がある。犯人を特定するような情報ではないが、この熱のあるべき場所が。
これは怒りである。怒りが渦巻いた結果だ。その怒りは、この世界全体を飲み込もうとしていた。もし、この怒りが、この大陸全土に轟けば――たちまちこの世界は焦土と化すだろう。だが、今は己らを救った「何か」に感謝するべきだ。
「まるで何かに読まれているようじゃな」
ガラシャは姜維に衣服を返しながらそう告げた。確かに、タイミングの良さは天下一品。まるで最初から知られているような、もどかしさを感じた。
「邪魔するとしたら、世界の名を知られては困る人物――か?」
「それか、世界に協力する存在だろうな。言っておくが、王元姫でない事は確かだ」
彼女は世界と協力体制にある訳じゃないからな。そうであるなら、最初から孟徳様に半兵衛を捕らえるよう頼んでいる。姜維は腕を組んでは言葉を紡いだ。
「なら、神器――王元姫殿は何故魏に来たのじゃ?」
「神器は気まぐれだそうだ。彼女は変化のある事を求めてやって来たからな」
神に仕えていた神器ではあるが、神を救う気持ちは希薄だ。手は貸したりしているそうだが、協力というよりは、求められたらという程度らしい。それを彼女は「ただの暇潰し」と告げていた。姜維は目を伏せて王元姫の事を語れば、組んでいた腕を下ろす。
「なら、一体誰が……」
疑問を投げつけるガラシャに、姜維は一つずつ言葉を乗せていく。
「……神を愛した存在達が、神を殺した半兵衛を狙った。自分達では倒せず、世界に頼った。そして世界は、神を蘇らせるために筋書きを変えた――ならば、答えは既に出ている」
姜維の言う通りだった。襲って来た存在は、恐らく神を愛する存在の一つだ。世界に恩義があるためそれを遮った。半兵衛と協力体制にある佐助達を狙ったのも、それが理由だろう。
だが、それは少しばかり愚かな選択だったねと佐助は呟く。首を傾げるガラシャに、考えを説明した。
「世界と協力関係にある存在しかいないでしょ。俺も姜維と同じ考えだよ」