全ては此処から始まった~妄執の悪魔~
姜維の北伐政策の何十年も昔の話になります。
前編に位置する話
これ単体でも読めます
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色々ぐだってます
戦国×三国志
どんよりとした空、鈍色の空、今にも雨が降り出しそうだった。まるで世界を嘆いているような空だ。涙が流れてきそうな空を誰も一瞥する事はしない。この天候は数日前から続いている。辺りは戦の傷跡が痛々しく残っていた。死体、死体、死体――双方とも被害は少なくはない。その原因は、妄執の悪魔だ。
少年は、妄執の悪魔を探した。たった一人、友を亡くしても前へ進み、たった一人の主君のために忠義を尽くした男を。見つかれば殺されるだろう、相当恨まれているのを知っている。腹を裂かれ、屈辱を受け、最低の行為をさせられる。わかっているからこそ、少年は誰にも言わず探した。
「……みっともない姿。何やってんだよ」
瓦礫の上、数多の戦いを乗り越えた場所に男は倒れていた。凜々しく光に照らされていた茶の髪には赤黒い液体がこびりついている。つけていたはずの甲冑はそこに無く、武官の証である衣服が朱く染め上げられていた。全身紅色の彼の手には、妙な日本刀が握られていた。
「何故、こいつが……」
ああ、そうか、あの女か。目尻に赤を持った少年は気付いた。日本刀は黒い光に包まれるとすぐに一本の槍へ戻った。男がずっと武器にしている槍である。少年は、彼の傍へ立ち、腰に手を添えて呆れた息を吐き出した。
「本当、バッカじゃねえの。何やってんだよ、お前。鼎立を崩して、魏に戦を仕掛けてさ。確かに勝てたかもしれない、だけどな、劉禅はそれを望んでいなかった。それをお前はわかろうとしなかった――。本当、馬鹿だよ、あんた」
男は小さく呼吸を繰り返し、少年へ目を向ける。幼さ残る男の顔に血がこびりついている。どれほど戦ったのか、尋ねなくてもわかった。
「――……でもさ、俺も劉備様も、皆わかってる。あんたが、忠義を尽くして、劉禅の支えになろうとした事くらい。あんたは……本当、昔から変わらない」
全てを失っても、何も変わらない。俺もあんたも、昔から変わらない。いつだって一生懸命、前に進む事しか考えていない。少年は小さく笑みを見せ、そして男の傍に膝をついた。
「――俺達は前世に蝕まれ、今世に殺された。だからこそ、諦めなかったんだろうね」
そう、この男は諦める事を知らない。だからこそ、前世この男は死んだのだ。けれど、男にとってこの結果は、悔いの残らないものだっただろう。自分のやりたい事を果たせたのだから。友を失い、人々を失い、一人、四面楚歌になろうとも悔い無く果たしたのだから。
一欠片の悔いも見えぬ。
そう告げた男を覚えている。だからこそ、少年もまた、彼と出会った日の事を思い出した。
「あの時も、俺達は戦っていたっけ。――ねえ、姜維」