全ては此処から始まった~神器~
□□□□
佐助はガラシャ、半兵衛と共に西へ向かう。半兵衛が示す通りに馬を走らせていた。彼を信じていいのかは不明だが、彼に頼る他ない。それに、彼の情報は信用出来る。彼自身を信用は出来ないが。
そんな佐助達は現在、漢中の西を走っていた。曹操軍が異民族と連携する。その情報を半兵衛から聞き止めるためである。血を流さずに止めてみせるという半兵衛に、佐助達は任せる事にした。これでもし、裏切るのならば殺す――そうガラシャと共に決めて。
「この時間軸で曹操軍が異民族と手を組むなんて、無いからね。僕達で止めなくちゃ」
「なら、他の誤差は許したんだね、あんた」
「いや、許すつもりはなかった。世界に邪魔されただけさ。きっと、世界はこれから邪魔してくるだろう。あのお方を守るために」
世界、あのお方――先刻から出ている言葉だ。それが何なのか佐助達は理解していない。だが半兵衛の敵だという事は理解している。
「半兵衛、世界とあのお方というのは一体何なのじゃ」
流石に疑問を持ったままだと気持ち悪かったのか、ガラシャは隣を走る半兵衛に問いかける。半兵衛は手綱を握りつつ「僕の敵だよ」と模範解答を告げた。
「僕の最大の敵。森羅万象、全てを識り尽くしているのが世界だ。元々世界というのはただの物質だった。それこそ意志も何も持たない、ただの、ね。けれど器を手に入れてから変わった。……そこに答えがあるのかもしれないと僕は思うんだ」
「じゃあ、それを解き明かせば世界は元に戻るのじゃな」
「いんや、そういう訳にはいかないだろうね」
器と世界は結びついている。解き明かしても、きっとまた新たな世界を作られるだけだ。解き明かす手立てなんてないよ――と半兵衛は呆れ混じりの声を吐き出した。
「じゃあ、どうするつもりなのじゃ」
「流れを修正していれば世界に近い人物が出てくる。そいつらを倒しつつ、誘き出す。世界に近しい、人物をね」
佐助とガラシャは首を傾げる。半兵衛は僅かに口角を上げて告げる。
「神の使い――神器さ」
聞いた事のない言葉に首を傾げるばかりだ。半兵衛もそれを承知で喋っている。半兵衛曰く、その神器とやらは神に仕える存在であり、神の僕だそうだ。神を殺した半兵衛を神器達は恨んでいる。故に誘き出す事は簡単だ、と半兵衛は言う。
「だからと言って舐めて掛かったら普通に死ねるけどね。そのために、こうやって策を展開するのさ。神器という奴は神に近い力を持つからね」