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佐助の来世事情  作者: 名倉なのい
第一章 流るる前世
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全ては此処から始まった~来世事情から北伐政策へ~

「実は僕は人間じゃないってのは普通の人間じゃないって意味ね。人間の枠組みには入ってるから人間なんだよ。でも、僕はただの人間じゃない。竹中重治の顔は人間としての顔、僕の本当の姿は――創世の魔導師さ」

 目を伏せてそう告げた半兵衛は、右に手を軽く伸ばし何もないところから大量の桜吹雪を出現させた。桜吹雪は佐助達を取り巻き、人型に変化すれば、人型はガラシャの手を取り踊り出す。

「な、なな、何じゃ!」

「これで、僕が魔導師という事は理解出来たかな?」

 最早疑う必要もない。桜の人形と踊るガラシャを見つつ、佐助は首を縦に振って頷いた。それは良かった、と半兵衛は桜人形を消し、ガラシャはその場に体勢を崩し尻餅をつく。

「僕は世界が、世界を作る頃からずっと世界を見て来ている。世界は嫌った、あのお方が死ぬ事を。世界はどうしてもハッピーエンドが見たかったんだ。あのお方が生きて、臣下や子供、民衆に看取られ、幸せに死んでいくのを」

 その世界という存在が半兵衛の敵なのだろう。半兵衛はゆっくりと歩きながら、言葉を述べていく。

「だからこそ、世界はあのお方が死ぬ度に何度も何度も新たな世界を作り出した。世界にとって世界を作る事なんて造作も無い事だからね」

 信じられない事ばかりだ。その世界は、半兵衛は嫌いなのだろう。だが彼の口から語られる世界は、あのお方とやらを愛している事がわかる。それはきっと、尊きものだ。

「だから僕は世界に反旗を翻した。世界の嫌がる事、神獣達の嫌いな事をたくさん行ったらさ、世界から恨まれてしまったんだよね」

「嫌がる事……? 何なのじゃ?」

「皆の大切な人を消したんだよ。世界は全ての世界を統べている。干渉は無理でも、筋書きを書き換える事くらいは可能だからね」

 僕は史実へ戻すために書き換えた。その結果悲劇が起こった。まあ、それも必要な犠牲だから仕方ないとは思うけどね。半兵衛はその悲劇の内容を語らなかった。だが、何が起こったのか、どんなことを起こしたのか――わからなくはなかった。彼の言動や、飄々とした態度から大方想像が出来る。きっと彼は、殺しを行ったのだろう。

「そうして世界は僕を恨み、あのお方が死ぬ度に何度も何度も何度も――やり直した。その結果、どうなったと思う?」

 何億、何万、何兆――何度も気が遠くなるほどやり直して、気が遠くなるほど人々の魂を閉じ込めた。それは許されざる事だと半兵衛は静かな怒りの業火を燃やしていた。

「……人は、その輪廻に閉じ込められたのじゃな」

「その通り。誰もが世界に繋がれ、この世界に囚われた。死ぬ事また必然。それが世界にはわからないんだ。死ぬという事はダメな事、そう思っている。老けて死ぬ事、病で死ぬ事――だから、この世界の人々は老ける事を知らない」

 漢中に来る道中、ガラシャが教えてくれた。この世界の人々が老けない事を。確かに、劉備や諸葛亮、法正は若かった。劉備なんて十代の少女に見えたくらいだ。世界は、全てを、根幹からねじ曲げてしまったのだ。

「……つまり、半兵衛、おぬしは世界を止めたいのじゃな」

「いや、そんな事出来る訳ないよ。僕、ただの魔導師だしね。ちょーっと世界を痛めつけて、立ち上がれないくらいにしたいって感じ」

 僕は別に聖人君子じゃないし、万民愛してますっていう神様じゃない。嫌な事は嫌だし、神様みたいに全てを救う力もない。ちっぽけな創世の魔導師さ。半兵衛は自虐的に呟きつつ、俯きそして顔を上げる。その瞳には炎が宿っていた。

「でもね、人が昆虫を見るように、愛らしい小動物を愛でるような愛しさはあるんだ。だから、僕はこの世界を史実へ導きたいと思うよ」

 それは、喜んでいいのだろうか。いや、この半兵衛、恐らく――とんでもないろくでなしだ。人のため、誰かのために、救おうとしているのではない。ただ、その目的は一つ。

 己のため――史実へ戻したいがためだ。

「一つ聞きたい。何故史実へ戻したいの?」

 疑問だった。ただ、人は挫折を繰り返すから強くなる――そんなものを尊重したいだけではないはず。世界に対抗したいだけではないはずだ。半兵衛は、一度目を伏せ、そして口を開いた。

「この、物語を終わらせるためさ」

 淡々と、半兵衛は意味のわからない言葉を吐いた。

「来世事情から永遠と続く世界を終わらせる。北伐政策なんて物語も、復興再戦も何もかも全て終わらせるために」

 そのためなら僕は悪鬼にでもなろう。そう宣言する半兵衛は覚悟の出来ている瞳を見せていた。その覚悟は、彼の身体に染みついている。

「じゃ、とりあえず、西へ向かおうか」

 ここまで話してくれたんだ、協力してくれるよね。

 そう、圧をかけられ、佐助とガラシャは「仕方なく」協力する事となった。不本意ではあるがこの男をこのまま放置する訳にはいかない。それに、まだまだ聞いていない事もある。

一先ず曹操軍を止める――。そのために佐助達は西へ向かう。そんな三人を見る影が一つ、森の中に存在していた。

「邪魔はさせない。あのお方のために」


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