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佐助の来世事情  作者: 名倉なのい
第一章 流るる前世
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全ては此処から始まった~真田の忍~

 目の前に現れたのは、この大陸では珍しくもない茶髪の髪を持つ女だ。頭頂部で丸めては二又に髪を垂らしている。服装も随分軽装で、黒い布で胸を隠し膝丈までの忍袴を穿いていた。女にしては強い力――佐助は女の足を右足で払っては転ばせる。

「へえ、そう。悪いけど、俺も殺されるつもりはないから」

 適度に負かせばいいだろう。殺しなんて出来ないし。佐助はそう思い女の首へ刃を――振るったはずだったが、刃は弾かれ体勢を僅かに崩しその場に叩きつけられる。首に刃が突きつけられ、佐助は女を見据えた。

「何、君、それでも忍? 殺気も警戒心も何もない。そんな覚悟で戦場に立ってやっていけると思ってるの?」

「は、あんた風情は俺程度で十分って事だよ。――あんたも同じだろ」

 女は僅かに眉をひそめた。意外なところで引っ掛かってくれたものだ。佐助はふっと口角を上げては、女の腹を蹴り飛ばし起き上がっては、刃を構える。

「あんたも、俺を殺すつもりなんてない。そんななまくらで、俺を殺せると思ってんの?」

「子供に言われたくないわね」

 こっちは酸いも甘いも噛み分ける事の出来る三十代のリーマンなんだけど。だがそれは今口には出さず「そうかい」とだけ返しておいた。さて、この女、一蹴しないといけないだろう。

「あたしは真田家に仕える忍――甲州の千代女」

 名乗りを上げた。これは警戒必須だな。佐助は戦うために僅かに一歩退く。忍が名乗る事――それは「お前を殺す」という意味になる。ならばこちらも名乗らなければならない。

「俺は蜀の食客――佐助。フリーで忍やってる。んで、甲賀の忍」

 悪いけど、ここらで倒させてもらう。名乗りを終え、そして、一瞬で千代女と激突する。ぶつかり合う刃からは火花が散る。何度も、何度も、何度も、お互いの刃と刃を混ざり合わせる。忍という事を今は忘れ、ただ相手を倒す事のみに目を向ける。

 重い一撃を放ち、千代女の体勢を崩させる。隙が生まれた彼女を右肩から脇腹まで斜めに斬り裂いた。彼女は崩れるように倒れ伏す。

「っ、くそ――……ってあれ?」

 思ったより血は出ていない。いや、血なんて出ていない。何故なら佐助が狙ったのは彼女の胸を隠している布だ。斬るつもりはない。

「……舐めてんの? 殺さないなんて――」

「殺すつもりはないよ。あんた殺したって意味ねえし」

 佐助は籠手を装着している腕を振って刃を収納しては背を向けた。

「俺が見ていないうちに行けば。あんたも負けたなんて事あったら、真田の殿様に何言われるかわからないんじゃない?」

 佐助は己の帯を僅かに緩めれば、着用していた上衣を千代女の肩からかけてやる。千代女はそれを握り締めつつ、俯けば「次は覚えていなさいよ」とだけ言い残しその場を去った。

 しかし、疑問が残る。何故真田の千代女が襲ってきたのか。真田が魏と組んでいるとはいえ、いきなり襲って来るなど常識知らずだ。蜀を刺激して戦となれば、魏とてただじゃすまない。何かがおかしい、そう思った。


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