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エピソード27 確かな一歩

穏やかな風が吹く中、授与式は始まる。

最初はエレクさんが審査員長として長々と今回の試験について話していたけど、アンティさんに代わったことにより試合に勝った者たちは身を引き締めた。


しかし反対に試合に負けた者らは落胆し、悔しがって涙を零す。

そんな彼らに対して無関心なように勝利者の名前を呼び、結果に見合った位を与える。

その光景を見ていた僕にも遂にお呼びが掛かった。


ゆっくり一歩を踏みしめてアンティさんの所へ行く。今から位を貰えるという嬉しさと負けた者への申し訳なさがアンティさんの話を聞いていると自然とこみ上げて来る。

目の前で気難しい顔をしていたからか、持ち前のアイドルの笑顔で励ましてくれる僕のお姉ちゃん。


・・・・・・・少しぼっーとしていたところに覗き込むように顔を近づけて来たのでときめいてしまった。




それから位の授与にはずだったのだが、何故かその件については預かりとなった。

他の勝者は例外なく「剣豪」や「騎士」の位を与えられていたので今は不愉快な気分だ。

そんなことを考えて学校に帰るための馬車に乗る。

馬車は六人乗りが四台あったのだが、僕とセーレインは審査員の馬車に乗せられた。


山道が厳しくてまるでジェットコースターみたいな感じでとてつもなく酔う。それでも「ここで吐いてはいけない」と自己暗示を掛けているとアンティさん、いやお姉ちゃんが太ももを叩いた。

僕はその行動の意味が分からなかったが、隣に座っているセーレは分かったらしく負けじと彼女も同じことをする。

最初、からかってそんなふざけたことをするのかと思ったけど強引にセーレは僕の頭を自分の太ももに載せたことでようやく何がしたかったのか分かった。

周りの視線が痛いのですぐに起き上がろうとしたのだが、そうした場合今の女神の姿のイメージが「ガクン」と落ちそうだし、お姉ちゃんに公衆の面前で同じことをされると後で前世で言うところの「シスコン」ともさげすまれてしまう恐れがある。

だから、学校に到着するまでセーレの太ももの上で横たわっていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・そんなこんなで馬車は学校へ着き、解散式を終え、各々自宅へ帰ったのだった。




お姉ちゃんに案内されるがまま僕たちは新居に向かう。

今現在、女神の姿であるからか道中「美少女姉妹」なんて言われた。

これに対して心の中でもやもやするけど半分は事実なので何とも言えない。



「ここが今日から私たちが住む家だよ」


学校から10分も掛からず新居へ到着した。

新居は本物のシンデレラ城のようにとても高く、自然豊かな庭が広がっている。



驚く前に僕は昔の事を思い出していた。それは短い間だがお母さんとお父さんたちと一緒に暮らしたリーグレット王宮のこと。

でも、思い出せば出すほどあの夜の出来事が嘘のように思えてくる。


・・・・・・何も出来ず、何も気づかなかった。

最初に視界に入った光景は友人が血まみれで倒れている姿。


そんなことが一気にフラッシュバックしてきて泣きたくなる。実際、涙腺崩壊しそうなくらい泣きたい。


「ユリア、あなたには家族がいるんです。一人で何もかも抱え込まないでいいんだよ。」


そう言ってお姉ちゃんは優しく両手いっぱいに僕を包み込む。

抱きしめられて「この距離じゃ心臓の鼓動が伝わってしまうくらい」近くにいる。



「うん、泣きたい時は思いっ切り泣こう。どんな完璧な人だって辛い事があったら泣いてしまうんだから」


その言葉に自分と似た感情がこもっている感じがした。

まるで、自分もそのような悲劇があったのかのように・・・・・・・・・・・・・・・・・・




落ち着こうとして泣き声を止めようと頑張る。息が続かず、気持ちが収まらない中、落ち着こうとしてもやはり無理があった。

それでも、それでも、一度無理やりにでも僕は「泣いてちゃダメだ」と思い目を開ける。


目を見開くと涙でぼやけてるようにしか見えない。だけどしっかり伝わってくる。



・・・・・・・・・・・・・「お姉ちゃんの声が」



その声はとても震えていて、今にでも壊れてしまいそうな感じだった。


この時僕は悟った。彼女も僕と同じで大切な何かを失ったんだと・・・・・・・・・・。

我慢していた涙がまた溢れ出て止まらない。

「泣いちゃダメだ」ってさっき決心したのに、とても辛い経験をして、まだ心の整理がついていない状態で誰かにそんな優しい言葉を掛けれる人なんだと思うといやでも涙がこみ上げて来る。


その涙は「絶望」、「後悔」、「悲しみ」などの気持ちが混ざり合ってる。

どんなことをしても多分、この涙は自分一人では完全には拭えないだろう。


僕は前を向く。するとお姉ちゃんは立ち上がって僕の手を引っ張る。

桜が舞い散る学校の入学式で起こるワンシーンのようにその姿は現実的だけど何処か幻想的に見えた。


「この人と一緒に悲しみも何もかも乗り越えよう」と初めて思えた瞬間で今度は感動して涙が出てきたけど、一歩、また一歩と歩いて上を向いた。



今回もこの物語を読んで下さりありがとうございます。

次回はいよいよ新しい学園編に突入しますので是非読んでいただけると幸いです。

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