第1話
このナザレの地は岩砂漠が過半を占める殺風景な土地で、たまにある建造物も石でできていて灰色と茶色の風景が続く。そんな街で俺、ヨシュアは14年を生きてきてそのうちの2年は21世紀の人間の意識を持って過ごしてきた。
毎日やることといったら、とーちゃんの手伝いで、大工仕事をしたり畑仕事をしたりといったあんばいだ。今もとーちゃんの手伝いで人んちの寝台を作っている。14歳の俺としては退屈でたまらないよ。あ、とーちゃんといったが、実は本当のとーちゃんではない。前世のとーちゃんと違う、という意味ではなく、こっちの世界でも血がつながっていない親子関係だからだ。
「おい、なにをまたぼーっとしている。手伝うならちゃんとしろ」と、振り向いて俺にいうとーちゃん。最近はめっきり老け込んだ。ナザレは道も石だらけだが、とーちゃんは最近よくけつまずくようになった。それもそうだ。もう70過ぎだからな。平均寿命が短い中、長老といってもいいかもしれない。俺の年にしてはとーちゃんの年齢が高いのにはわけがある。
かーちゃんはシングルマザーとしてとーちゃんに嫁いだ。しかも親と子ほど離れた歳で。とーちゃんといっているが実際は俺にとってじーちゃんのようなもので、かーちゃんと俺の保護者といってもいいかもしれない。14で俺を産んだかーちゃんはまだ28歳で、見た目は10代。気持ちも幼く、まるでおれのねーちゃんみたい。そんなわけでとーちゃんはかーちゃんを娘のように扱っている。この時代子持ちのシングルマザーでは嫁ぎ先がないこともあり、とーちゃんはかわいそうに思って引き取ってくれたのだろう。ロリコンのけはなだそうだし。現代日本語で考えるのは色々説明が楽だな。
「さて、寝台も出来上がったことだし帰るが、わしはちょっと寄っていくところがあるのでお前は先に帰れ」とのことで、俺は一人で帰途についた。
人気のない道のりを、日本のことを考えながら歩いていると、
「げふっ」いきなり背中に衝撃が走り、前のめりに倒れて岩に頭を激突させそうになるが、なんとかとどまり衝撃を受けたほうに目をやる。
「いまかえりなの?」と、黒髪の澄んだ目の少女。どうやらこいつが俺の背中にけりを入れたらしい。
「お前の挨拶はいつも手荒すぎるぞっ。お前との長年の付き合いで反射神経が鍛えられてなかったら、頭が割れて死んでいたぞっ!!」思わす叫んだが、この時代には反射神経という言葉がなく、そこだけ日本語になってしまった。
「ハンシャシンケーって何? ヨシュアは時々わけのわからないことをいうね」というこいつはカンナといって、俺の幼馴染で俺んちのお隣さんだ。性格は穏やかだが、自覚のない暴力がひどい。俺はこいつに鍛えられ上げてきた。この異郷の地でしぶとく生き延びてこられたのもカンナの暴力のお陰かもしれない。
「それより、早く帰らないともう日が沈むぞ。最近噂になっている悪魔憑きが現れるかもしれないからな」。悪魔憑。普通の人間が突然何かにとりつかれたように人が変わり、人を襲うようになる事件が頻発しているが、それは悪魔のせいだといわれている。ナザレでも数人がそうなったという。人里離れたところにいるようだが、たまに街にきては暴れている。今は警察もなく始末に負えないようだ。
俺はカンナを連れながら、家に向かうと、岩陰から人影が。様子がおかしい。それ見たことか――悪魔憑きじゃないのか。カンナは俺より強いくせに俺にしがみつく。