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ec経済観察雑記  作者:
9/66

6 コメの生産

1512年2月17日


「米を作ったほうが良いですね」

「まあ、道理ですね」

 ここは執務室。執務室の窓からは、上手い具合に日が差している。今日の天気は晴れ。冬の朝はやっぱり晴れると気持ちが良いですね。窓を開けて…うわ、寒い。さすが冬。この旗ヶ野は気候帯でいうとどのあたりなのだろうか。1年を通して観測しないとなんともいえないけど、緯度から考えると東京くらいなのだろうか。そんな中、串岡さんと雑談をしている。


 現在、米の生産に関しては、作ってはいたものの、十分な改良を施しているわけではなかった。その他の生活必需食品も、あだ作っていないものも存在している。それらは可及的速やかに作成すべきだろう。


「とりあえず、この領内で消費するだけの米、小麦、豚肉、鶏肉と鯖、鰯、人参、大根が欲しいところです。あ、あと蜜柑もあると良いですね」

 領内、といったが、実質この領内にはこの邸宅しかない。


 つまり、この家の主人(つまり僕だ)と使用人の分の食糧を確保すれば良い。良いのだが、神造人間は殆ど食品を取る必要はない。エネルギーの変換効率が100%を優に超えているからだ。食べたら食べたで、体内に蓄積していくのでまあ問題は無いのだが。

 神造人間達は協同組合を作ったらしく、曰く

「我々は1000年に一度、持ち回りで食事を取ることにしますので、どうかお気になさらずに」だそうだ。

 そういえば水分補給をしているのも見たこと無い。

 つまり、僕の食糧(+数人分)さえ確保すれば大丈夫と言うことだ。でも、折角腐らないアイボがあることだし、10万年後、20万年後を見据えた貯蓄はしたいものだ。無限供給できるのは最初の10年間だけだ。あとは自給自足する必要がある。1億年、2億年、3億年。それに耐えうるだけの食品を今日作るつもりはないが、今後の課題の一つだろう。

 それはともかくちゃちゃっと作ってしまいましょうか。


「まずは米」

 米は甘みと旨味を徹底的に補正する方向で。

[米 Lv120 1g 3億ec

  甘く、旨いお米。Lv119と比較すると、ちょっとだけ甘い。]


 これを1,000t程製造。因みに、この双田領内では升は「双田升」を採用している。1升が2Lであり、SI値的計量法が染み付いた現代人にとっては非常にわかりやすい。畳の広さも2平米になっているようだ(2m×1m)。なので1000tで5石。石高5石の領主もそうそういまいが、まあ宜しいでしょう。

 続いて小麦も作成しておく。これもLv100程度まで。それを1000t。


 注意しなければならないのは、この小麦、あくまで「小麦」の状態のまま錬成しているので、饂飩やパンを作成するためには粉にひく段階が必要になる、ということだ。

 実際問題、ec加工で小麦粉の段階にまですることは可能だ。しかし、そうすることで小麦粉業界を衰退に追いやる可能性を秘めている。そんな事をいったら鉄の大量供給も製鉄業界を衰退まっしぐらに向かわせているのだが、まあそれはそれとして、小麦粉の扱いはどうしようか本当に悩む。

 …とりあえず大量生産するかどうかは保留。自家消費用に100tだけ錬成しておく。


 豚肉、鶏肉も生産しておく。一応この中島皇国でも肉食禁止令は出ている。

 旧宮ふるのみや時代にはそれが顕著で、古宮(ふるのみやの最近の表記)周辺で豆腐料理やがんもどきといった似非肉食が発達していった。しかし地方を中心に肉食文化(勿論頻度は地球の西洋、或いは中国に比べて非常に少ないが)が残っており、双田領内で肉食禁止令が解かれた事もあり、最近は鳥肉、猪肉、鹿肉などが双田領内で人気という。


 …そう言われれば島木屋にも獣肉はあった。確かに価格帯は高かったが、余程の宗教家出ない限り、多くの人がお金があれば買っていたのではないだろうか。まあ、それはともかく豚肉を鶏肉を30t程錬成。すぐさま外付けアイボにぶちこむ。

 豚肉美味しいんですよね。僕は豚肉大好きです。生姜焼きにするとなおよろし。生姜焼きを作るためには生姜も必要になってきますよね。そんな事で1kg錬成。うん。必要経費。ああ、人参とじゃが芋も、各500t程錬成。それから鯖と鰯はあったほうが良いですね。各100tづつ。他にも魚はいるだろうか。


「田名川さん」

「はい」

「魚だと何がお好きですか?」

田名川さんに希望を聞いてみる。他の人の好みを聞いておけば、メニューにも多様性が出るだろうし。


「そうですね…生で食べるのであれば鮭、焼くなら鰤ですかね」

「ほう」

鯖も鰯も選ばなかったか。でも、その選択は分かる気がする。


「鮭はお刺身にすると美味しいですよね。サーモンといいますか。汚染されていない水で育った海水魚は細菌がいない…はずですが、少し不安はあります。

水揚げされた後はノータイムで運べるのでまあ良いのですが、水揚げ前の品質管理が少し気になるのでうかつに食べられないですし、マスターに食べさせられないですね。鰤は大根と煮込んでも美味しいですがやっぱり鰤焼きが美味しいです」

田名川さんが、鮭や鰤の美味しさを語る。それを聞いていると、なんだか鮭も鰤も食べたくなってくる。


「じゃあ、鮭と鰤も作っておきましょうかね」

「有難うございます。(やった!)」

「何か言いました?」

「いえ?」


 早速鮭と鰤を錬成する事にする。これも各100tづつ。そして、多分また作ると思うけど、秋刀魚。かれは10tあれば良いだろう。

 あ、あと大根、白菜、菠薐草。今回の食材調達は当面のそれとしての一面が強いので、これらに関しては、素のまま、Lv1素材を使用。それから、林檎と蜜柑を100tずつ。まあ、こんな所で良いでしょう。


「そもそも、お米に関するものって、色々ありますよね。マスターはどういったものをお考え何ですか?」

 田名川さんが聞いてくる。よく見ると、他の秘書係の人や串岡さんも興味津々のようだ。

 特に串岡さん。米の加工品に関する知識も多数持っているようで、尻尾があったら振っているのではないかと思うほどに「知識を放出したい」欲が出ている。まあ良いです。知識の補完は必要ですからね。


「そうですね…とりあえず姫飯と強飯、お茶漬け、お餅に米粉、ああ、それから米酢といったところでしょうかね」

「ああ。姫飯というと普通に炊いたご飯のことですよね」

「ええ。そのための調理器具は、確か家事班の方が買ってくださっているはずなので、あまり心配はしていないのですが…余裕があれば、炊飯器も作りたいところですよね」


「でも、私としてはお釜で炊いたご飯も好きですよ?微妙にお焦げの付いているところが何ともいえないんですよね」と、これは秘書係、瀬戸さんの弁。

 なるほど、その利点も捨て難い。良い感じにお焦げのつくような炊飯器も開発したいところ。あるいは発想を逆転させて、とても炊飯しやすい土鍋を生産するか。


「その辺もちょっと検討しておきます」

「わーい」

 瀬戸さんが普通に喜ぶ。棒読みだけど、喜んでいる事は伝わってくる。


「っで、強飯なんですけど…これは普通の粳米うるちごめで作るには厳しいので、別途もち米も導入します」

「ああ、もち米。もち米も銘柄によって好みが分かれますよね」

「ええ。でもまあ、普通に流通している品種を掛けあわせて、良い米を作っていくのが最短ですね。ええと、もち米に関する資料は…」

「こちらです」

 そういって大塚さんがファイリングされた資料をこちらに渡す。さすが仕事が早い。


「有難うございます、大塚さん。ええっと。中島皇国全体でかなり流通しているのは…『高井一号』と『河原三号』ですね。高井一号は上質な粘りが特徴、河原三号は、甘みが特徴ですか。どちらも良い特徴を持っているので、良い所を取り入れてより良い品種を作っていきたいですね」

 ちなみに高井も河原も、それを普及させた地方の者からとって名付けられたらしい。

「全く同感ですね」

「この時代から米の品種に関する資料が揃っていることに驚きですが」

 米の品種の選別なんてこんな時代にちゃんとやっていたのか、という気分だ。これだけデータ化されていると、研究にも商売にも便利なのは、言うまでもないだろう。


「でも、日本にも平安時代にはそのような文献が残っていますし、それ程驚くようなことでもありません。じきに農業試験場がどこかに出来るのも時間の問題ですね」と大塚さんが返した。まあ、その通りかもしれない。

「そうですね」

「姫飯と強飯、それからお餅の見通しは立ちましたけど、米酢はどうしますか?」

「まあ、米酢は第一次産品では無いですが、比較的楽に作成できましょう。一応作り方を学ぶのはアリかもしれないですね」と、これは串岡さんの言葉。


「ええ。確か、米酢は米酒から出来たはずです。で、米酒を作成するためには酵母が必要、ですよね?」

 授業ではそんな感じで扱った記憶がある。

「はい。おおまかにいえばその認識で間違いありません」と、串岡さんが返した。その返しに、少し引っ掛かるものを感じる。

「おおまかに言えば、ですか」

「ええ。その上で、詳説する必要がありますね」

 串岡さんはつらつらと言葉を続ける。



「まず、「酢」の定義から良いですか?」

「酸っぱい調味料ですよね。酢酸も多く含んでる」

 逆にそれ以外に定義があるのだろうか。まあ、この定義だとレモン汁とかも入ってきそうな気もするが。

「ええ。その上で、発酵している、というのも定義にお願いします」

「発酵」

 豆腐や納豆だけでもなく、酢にもこんな概念があるとは。


「これらは酢酸菌が酒のアルコールに作用して出来ます。これは何も米酢の専売特許では無く、麦酒なら麦芽酢が出来ますし、ぶどう酒ならワインビネガーが出来ます」

「ああ、ワインビネガーって聞いたことがあります」

「それで、米酢は、ご飯と麹と水をかめに仕込んで米酒を作り、酢酸菌で発酵させたものです。後は、この時代、あるいはこの時代より少し後には、製法が簡単で廉価な粕酢が作られることになりますね。この粕酢は、酒粕に含まれるアルコールに酢酸菌を作用させて作る酢です」

「なるほど」


 そういえば歴史の教科書に書いてあった。あれは、堺の粕酢工場だったか。粕酢の登場で、握り寿司、いわゆる江戸前寿司の本格的な発達が始まったとかそんな内容だった気がする。

「酒酢は出来上がった日本酒を減量としてそれに酢酸菌を作用させて醸成させた酢です。まあこれを作る機会は無いとは思いますが。…こんな感じでしょうか?」

「有難うございました。勉強になりましたよ」

「いいえ、それほどでも」

 串岡さんの鼻が心なしか少し高い。知識を開放するときって鼻が高いですよね。分かる。


「じゃあ、早速米酢を作成することにしますかね。ええと、米と麹は用意してありますから…酢酸菌と、水ですかね」

 酢酸菌と水を作成する。酢酸菌は作ったらすぐに殺菌処理して、酢酸菌の影響を最小限に留める。食料庫の米が全て酢になっていたら困りますからね。

「で、水は、出来るだけ高レベルのものを…いや、これだと工業用水っぽくなってしまうから、ミネラルを入れつつ、最大限口当たりを良くして…あ、当然使い水とも使えるようにして…」


 各種ミネラルをバランスよく配合するとともに、軟水に口当たりを最大限高める。そうすることで、深みのある、まろやかな水となる。

 これで玉露でも作ればさぞかし美味しかろう。因みにあまりミネラル成分が多いと、生活用水(飲み水に対する使い水)としては不便になってしまう。まあそれはともかく。

「こんな感じですかね」

「ええ、良いですね。何と言っても成分に由来しない『腐らない』という効果が良いですね。しかも任意で腐らせる事も出来るわけです。腐らない水、としては西洋ではワインが挙げられますけど、アルコールや防腐剤に頼らない防腐効果は目を見はるものがあります」


 防腐効果は大事ですからね。常温で放置して、防腐を極力保つのであれば1000年は腐らない。例えば災害時の水の備蓄にも役立つ。

「まあ災害時対策と言っても、災害の時に一々取り出せますし、そもそもアイボがあれば永久保存出来ますからねー」

「この家の中に限っては、使うところはなさそうですね」


 瀬戸さんが返す。あ、そういえばそうだ。外付けアイボが便利すぎる。

 この調子だと、皇国内の保存食品の健全な発展を阻害する可能性がありますね。それは困る。非常に困る。まあ、日本の保存食品と用途は異なる形で登場するかもしれませんね。それなら良し。


「そして、米酢を作成」

 そこそこの酢酸菌と麹、そして良い米と最高の水で作成してある米酢だ。当然美味しい。僕自身酢はあまり好きでは無いのだが、これを使えば問題なく酢の物を賞味できそう。

「うん。普通に美味しいですね。柑橘系の酸っぱさとはまた別のアプローチで旨みを追求している感じが良いです」


 旨味という概念を酢、しかも柑橘酢に使うのもおかしな話だが、しかしそう言うしか無い旨さがあった。誰かが、「旨味とは、第六の味覚のことである」みたいな事を言っていた気もするが、その芳醇な味わいは、酸味や甘味といったものよりも、旨味で表したほうが適切だった。

「じゃあ、アイボから拠出して、日々の料理で活用していきますね」


 このように、静かに夜は更けていった。この後、基本的な食品の自給が出来た旗ヶ野領では、さらなる閉鎖体制を進める…のかな…?

 因みに。今日の昼食、バタートースト(風)とサラダ。夕食は鯵の開き(水揚げ港、芒江すすきえ)に味噌汁(青菜)、それから白米(領内産)、さらに蕪の酢の物。美味しい。

 鯵の開きは、芒江まで調達班農林調達係の石渡さんが出向き一番状態の良いものを仕入れてきたらしい。

 サラダはレタスやトマト、パプリカの洋風サラダで、イタリアンドレッシングでいただく。

 ただ、切ったトマトは苦手なので、瀬戸さんに回す。ちなみにその日不自然なほどに汗をかいている瀬戸さんが使用人棟で目撃されたと言う。

 その他にも沢山の食料品やその他日用品を制作したが、割愛いたすことにする。


いつもお読み頂き有難うございます。

次回の投稿は当月中旬の予定です。

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