38 全自動サイコロ回転機
1512年6月10日
「自動サイコロ回転機です」
「さすがに100個同時に回す必要はないと思いますけど」
平凡な一日が、今日も始まる。
さて、今日は本棟30階、第二遊戯室に来ている。ここでは、すごろく等のボードゲームを集めた部屋である。今日はここで、何の気なしに出目当てをやっていたら、女中隊神楽木さんが自動サイコロ回転機なるものを持ってきた。
自動サイコロ回転機には10*10、100個のマス目があり、マス目一つ一つの中に1個づつサイコロが入っている。どうやらこれらが回転されるらしい。
100個同時に振った場合、最小値100、最大値600が得られるが、そんな出目、まず使わないだろう。仮に全ての出目が1だったとしても、大半のすごろくは2、3回も振ればゴールしてしまうだろう。人生をなぞるゲームなら生き急ぎも良い所だ。
「必要なところにだけサイコロを入れれば良いんです。例えばここにだけ入れれば…」
そういって神楽木さんはサイコロを99個、手早く取り出した。こうすることで、自動サイコロ回転機にはサイコロが1個、中央に残るのみとなった。そして神楽木さんがスイッチを入れる。すると、サイコロは猛スピードで回転し、すぐ動きをとめた。出た目は…3か。
「こんな容量で、スピーディーにサイコロを振る事が出来ます。サイコロが2個、3個必要な時には、その都度入れていただければ良いのです。これにより、ゲームプレイの高速化が実現できます」
そういって神楽木さんはレバーをいじると、少し面白そうに連続で、高速回転させては止め、させては止めを繰り返した。
どうやらこのサイコロ回転機は、自動でサイコロが止まってくれる自動モードと、自分で止める瞬間を制御できる手動モードがあるらしい。そして、その止まった時の目を王さんが記録していた。こんな事も記録対象なんですね。
「このサイコロ回転機、まず1/6づつの蓋然性で各出目が出ると考えていただいて大丈夫です」と、大塚さんが、王さんが高速で筆記した目を眺めながら言った。
それなら信用して大丈夫だろう。混ざりが悪いと完全なランダムにはならないしね。
「確かにこれならスピーディーにゲームを進められそうですね」
「ええ。それだけでなく、不正の防止にも役立ちます」と、これは神楽木さん。不正の防止、か。確かに 不正の防止には役立つだろう。世の中には、サイコロ二個で必ず7を出すことが出来る技を持っている人がいる。1個は普通に投げて、2個目で合計が7になるように調整する、という代物だ。この全自動サイコロ回転機を使えば、そうした不正の余地をなくし、快適に、完全にランダムなサイコロ二個の目の和を出すことが出来るわけだ。
「なるほど、確かに便利そうな気がします」
「でも、少し大きいですよね。持ち運びには、アイボを使わないと厳しい気もします。後はやっぱり100個もサイコロは使いません」と、田名川さんが苦言を呈した。
確かに、ホットプレートよりもずっと大きく、しかも電源に接続しているこの全自動サイコロ回転機はかなり持ち運び辛い。彼女の言うことももっともだ。
「そうおっしゃるかと思いまして、こんな物もご用意いたしました」
そういって神楽木さん取り出したのは、これよりも小型な…ラジオくらいの箱だった。これの中にもサイコロが入っているので、これも全自動サイコロ回転機なのだろうが、いかんせん数がかなり違っていた。
「これは最高で3個しか入らないみたいですね」
そう。このサイコロ回転機、信号機のように回転機構が横に3つ並んでいた。そしてその全自動サイコロ回転機を神楽木さんが机の上に置き、ボタンを押すと、そのまま高速回転しだした。
「これは、電源を引くこと無く、乾電池で動かすことが出来ます。なので、出先でも簡単にサイコロで遊ぶことが出来ます」と、神楽木さんが相も変わらず高速回転させながら言った。
そうか、この小型全自動サイコロ回転機は電源をコンセントに頼ること無く確保することが出来るのか。これは楽で良い。
まあサイコロ遊びって多くの場合室内で行われるので、この屋敷ではその機能は不必要かもしれないが、他の、電気がいまだ引かれていない大橋市中とかで使われるようになるかもしれない。
「いいですね、これ。乾電池も普及させる準備は着々と整ってきていますし、鉄火場とかで使えるんじゃないですかね」
「そうですね。鉄火場、とおっしゃいましたが、大橋にも少ないながら鉄火場は確かに存在します。賭け事に人生すらも賭ける男女が、今日も熾烈な勝負を行っています。その中では当たり前のようにイカサマが横行しており、この、特に親側の仕掛けるイカサマの割合に関して言えば鉄火場によってバラバラで、その辺りは親の腕の見せどころのようです」
そうか。イカサマが完全に使えない、というのは問題か。実際問題、イカサマが完全に排除されると胴元の利益がなくなってしまう鉄火場もあるだろう。鉄火場側のイカサマで、利益量をコントロールしているという面は確かにあったはずだ。
「イカサマが使えないのであれば、もしかしたら鉄火場では普及し辛いですかね」
「そうとも限りません。確かに、振り方によるイカサマは排除する事が出来ますが、その他のイカサマ、特にサイコロの重心を変えるタイプのイカサマには無力です。どんなに回転機構が優秀でも、ダルマのようなサイコロの前では、物理法則に従うしかありません」と、神楽木さんが少しだけ困ったように言った。
なるほど、サイコロ側のイカサマか。
例えば、サイコロの重心を少し1側においてやることで、1が底面になる事が多くなり、結果的に6が出やすくなるだろう。あるいは、他の所にも少しずつ重心を与えてやることで、自然なサイコロの挙動を再現しつつ特定の目を出しやすく、または出しづらくする事が可能だろう。
「という事は、イカサマが蔓延する鉄火場でも、この自動サイコロ回転機は歓迎をもって迎え入れられるわけですね」
「そういう事になりますね。むしろ、これによって子側のイカサマが大きく制限されるので、鉄火場にとっては好都合なのではないでしょうか」
「特に鉄火場での使用だと、3個以上で使うことってあまり無いですし。チンチロリンも3個で事足りたはずです」
大塚さんが、神楽木さんの発言に呼応した。その発言に神楽木さんは満足気に頷いた。
「そういう事で、全自動サイコロ回転機、鉄火場におひとつ、というのはいかがでしょうか」と、神楽木さんがここで話を一旦切った。
ここまでの話を聞いている限りだと、そんなに悪い話ではないような気がする。むしろ、積極的に仕掛けていっても問題ないような…とりあえず、ecでこの全自動サイコロ回転機を再現する事にしてみる。
[全自動サイコロ回転機 Lv1 1個 5600億ec
全自動でサイコロを振ってくれる機械。省電力、省騒音が持ち味。正確性にも優れ、狂いのないサイコロを使った場合、その出目の確率は完全に1/6づつとなる。]
こんな物か。中々優秀な機械である。要求ec量も高いし、使わなくても量産しても良い気がする。
「ところで、これってどうやって作成したんですか?配布しているecもそんなに多くはないはずですけど…」
少なくとも、5600億ecものecを配布した覚えはない。となると…
「もしかしてそれは貴方が組み上げ…」
「この全自動サイコロ回転機は、毎号届くパーツを組み上げる事で完成するタイプの機械です」
「…スティーニ?」
予想の斜め上をいく返答だった。そんなシステム、初耳である。
「…それって、外箱まだ残ってますか?」
「使用人棟の収納割り当て量がそんなに多くないので、外箱はもうとってないと思います。…いや、もしかしたら間仕切り用にとっているかもしれないので、少しついてきて頂けますか?」
「まあ、構いませんが」
こうして、神楽木さんの部屋まで行くことになった。
使用人棟という建物がある。下1/4はもっぱら工業設備を設置するためのスペースとなっているが、残りのスペース、すなわち上3/4は使用人の皆さんの寝床となっている。
広さは約0.4ha。屋敷にある建物の中では比較的広めの建物であるが、いかんせん使用人の数が多いので、寝床のスペースはとても狭い。
どれくらい狭いかというと、4.5畳の部屋の中に、箪笥が一個と三段ベッドが3台設置されている。つまり、4畳半の部屋で9人が寝ている計算だ。実際にはこれが3000階層に渡って続くのでこれほど詰め込みにする必要性は全く持ってないのだが、将来使用人を増やす時に配慮してあるらしい。
…もしかして使用人の皆さんが中々寝ないのって、そういう寝室の環境の悪さが起因しているのでは。
そして、問題の神楽木さんの部屋は2080階にあった。エレベーターが急上昇していく。途中何度か停車がありながら、ベルが鳴り、2080階に到着した。そこから狭い廊下を通り、神楽木さんが生活する部屋のドアの前にまできた。
「ここが私が寝起きしている部屋です。まあ厳密な意味での寝起きはあまりしていないのですが」
そういって神楽木さんがノックをして開けた。開けた先には確かに、三段ベッドが三台配置されていた。どのように配置しているか。それを考えるには、まず、この4畳半間を9等分して欲しい。
左からA、B、C。そして奥から1,2,3。そして、B3にドアを一つ用意して欲しい。ここから廊下にアクセスされる。室内での自由に動き回れるスペースはB2とB3のみ。9人が使うための箪笥はA3に配置し、3段ベッドはそれぞれA1A2、B1C1、C2C3といった要領で配置してある。
そして、B2のところにはしごがあり、これで3台分のはしごの処理をしているのだ。うん、文字化するとややこしいけど、その実態は驚くほど単純なので、図面でも書いてやればよろしい。そして、神楽木さんのベッドは、B1C1のベッドの、最下段だった。
「こちらになります」
そう言って神楽木さんは、自分のベッドの中にある本を入れるような棚の中から、箱を取り出した。その箱の中には、整然と物が収納されていた。そして外身には、『日刊 全自動サイコロ回転機』とあった。
こんな雑誌を、日本でもよく見た気もするが、それは多分気のせいだろう。そして奥付を確認してみる。どうやらこれは、女中隊1120班によって製作されたものらしい。凄い技術力、という言い方が一番しっくりくるだろう。
「マスター、女中隊1120班は自由班です」
「なるほど、仕事が欲しい自由班の人が、こうした製品を自主的に製作しているんですね。でも、これだけ技術力があれば工業班でも十分戦力になりそうなものですが」
工業班だって、人数が余っている、という訳ではなかろう。もちろん、急激に人数を増やすことによって技術が目覚ましく発展し、結果として工業班の仕事が減る可能性こそあれ、特に人数が増えて問題、という事もないだろうに。
「残念ながら、これくらいの技術力では、工業班で働くには不十分という事なのでしょう。勿論優れた技術であることに間違いはありませんし、実際問題それを認めて私は購入しているわけですが、手工業と機械工業では、勝手がまた違うという事です」
なるほど、自由班の職業取得への道は厳しい。これだけの技術力を持っていながら、工業班としての定職を得られない自由班の面々に、少しばかりの同情を挟むしかなかった。
「ちなみに、このシリーズって他にもあったりするんですか?」
気になったので質問する事とする。平成日本にあった雑誌は多くの種類を取り揃えていたが、果たしてこの屋敷内ではどうなのだろうか。
「ええ。『中島の城』とか、『中島の名刀』、『人形浄瑠璃』に『紅茶大辞典』と、かなり多彩なラインナップとなっています。勿論、全て購入するにはスペースも資金も足りないので、趣味に合わせて、無理のない範囲で購入しています」
なるほど。そのあたりの勝手も、某雑誌と似た所があるようだ。そんな事を考えつつ、また神楽木さんからサイコロ回転の手法に関する講義を受けていたら、いつの間にか日が沈んでしまっていた。
ところで。
今回は、サイコロを作った。サイコロといっても、普通の6面さいではない。一つは、12面さい。そして20面さい。さらに極めつけは10面さいである。
[10面さいころ Lv3
緑色の10面さい。乱数をいつでもどこでも出すことが出来る。必ず10%の確率で各出目が出るように、重心は調整済み。]
さて、12面さいと20面さいの作り方は割合簡単である。それぞれ、正十二面体と正二十面体を作って、それに一つづつ番号を割り振って行けばよい。しかし、10進数の世の中で最も乱数生成に役立つのは、10面さいである。
この10面さい、構造としては、五角柱を角度をずらして2つ底面から貼り合わせたような形となっている。まあ20面さいに数字を二つづつ振っておけば良いだけの話なので、ロマン以上の意味はない、と言われればそれまでなのだが、あえてメリットを上げるとするならば、10面さいの方が一つ一つの面が大きく、結果として数字を大きく表示させる事が出来る所だろうか。特に100個とかを回す時は、数字は見やすい方が良い。
いつもお読み頂き有難うございます。




