3 100万人の神造人間
1512年2月13日(新暦)
朝6時半。気持ちのよい鳥の囀りとともに起きた。どうやら暦は太陽暦のようで、ここの緯度はどうやら東京と同じかその少し北位らしい。ここは玄関から見て右手奥にある和室だ。目を覚ました布団は元から置いてあった。書物机や箪笥は赤川さんに作って貰った。
「さすがに神造人間が3人だけだと足りないですよね…とりあえず100万人ほどガーッと錬成してしまいましょう。」
100万人程錬成。すると、たくさんの、顔立ちの整った中高生が現れた。
神造人間であることに間違いはないが、それにしても多い。敷地を大きくはみ出して、道路の方まで出ているようだ。
「これは…想像以上に呼び出しすぎてしまったようです」
「まあ、色々仕事を任せたり、迷宮でec稼ぎしてもらうようになれば、それくらいはすぐ足りなくなってしまいますけど…それにしても多いですね」
赤川さんがそう返す。これでも足りなくなってしまうのか。
こういう時こそ落ち着くのが大事だ。とりあえずecの最大保有量を確認する。どうやら先ほどの錬成過程でまたもやec最大保有量が増加したらしい。ので、神造人間を改良する。といっても、基本的に万能なので、改良要素といえば、エネルギー増強効率くらいであろう。つまり、一回の食事で変換できるエネルギーをどんと増やしてしまおう、ということだ。改良。
改良の結果、エネルギー増強率は、100万倍程になった。
で、この神造人間、もとより名字が付いているらしい。ただそうは言っても、100万人もの人を、ただ名字だけで呼び分けると呼びにくいったらありゃしないので、まず、女中隊、公務隊、迷宮隊に分ける。
個人的なイメージから、迷宮隊と公務隊は男女混合に、女中隊は女性形に統一してある。
その後、それぞれ100人単位で、1班、2班…としていき、そのなかに5人単位で1係、2係…とする。
その時、必要に応じて班に名前をつける。例えば調理班とか事務班とかだ。
その時、同じ係には同じ名字の人は入れないようにする。これで呼びやすくなっただろう。
ただし、まだ必要な係が十分には分かっていないので、番号は結構ぐちゃぐちゃになっている。同じような働きをしている班の番号が、派手に離れていたり。こういった事態、後で直しておかないといけないだろうが、今はとりあえず保留。
「では、迷宮隊は島を南下して、迷宮を発見して下さい。女中隊と公務隊で建物の建設をお願いします。」
「はい、了解しました。」
因みにこの中島皇国、開発されている面積もそこそこ広いが、本当はこんなものではない。ゆくゆくは皇国の果ての迷宮を独占管理することも可能だろう。そんな期待をこめて迷宮隊を南下させる。こうして半分ほどの神造人間が南に向かっていった。
そんな事を思いつつ、着々と建設は進んでいた。非常に高くなりそうな予感。建材はこれできちんと足りるだろう。足りてくれると良いなあ。
「建材は足りそうですか?」
「ええ。ぴったりですよ。」
と言う事は、考えなしに錬成した建材が全てなくなる、という事だ。そこはかとなくノートを錬成するための紙は…ああ、普通に錬成してある。というよりは障子紙を作るときに錬成してましたね。
【紙 A4 1枚 1ec】
【紙 Lv2 A4 1枚 7ec】
【紙 Lv3 A4 1枚 58ec】
【紙 Lv4 A4 1枚 300ec】
【紙 Lv5 A4 1枚 2000ec】
【紙 Lv6 A4 1枚 1.2万ec】
【紙 Lv7 A4 1枚 9万ec】
【紙 Lv8 A4 1枚 56万ec】
【紙 Lv9 A4 1枚 400万ec】
【紙 Lv10 A4 1枚 2700万ec】
[紙
普通の紙。というよりか和紙。書き心地は普通。心なしか墨汁のノリは良い。障子紙にも適する。]
[紙 Lv2
ちょっと良い紙。書き心地は良い。洋紙の良い所を取り入れているため、鉛筆のノリも良くなった。]
[紙 Lv6
かなり良い紙。書き心地はかなり良い。もう洋紙とか和紙とか、そういう概念を超え、それぞれの良いところを取り入れている。]
[紙 Lv9
非常に良い紙。書き心地はもう神がかっている。アナログ媒体として文字を印刷するだけでなく、特殊な技術を使用することによって音声を入れることも出来る(機械音、単音)。]
[紙 Lv10
非常に良い紙。書き心地はもう神がかっている。アナログ媒体として文字を印刷するだけでなく、特殊な技術を使用することによって音声を入れることも出来る(機械音、3和音)。]
紙をひととおり錬成。それぞれ10000枚ずつで良いですね。それで、ノートが開放される。早速ノートを錬成。とりあえず10000冊ほど作ってしまいましょう。
【ノート Lv5 1冊 200,000ec
[ノート Lv5
書き心地抜群の紙で作られた、普通の大学ノート。記録に適する。]
そして、今ある物品を、錬成しつつ書き留める。紙、石油、食塩、クロロエチレンに砂糖、苺、ペクチン、ジャムに小麦、麹、卵、牛乳に食パン。砂糖は100g作ってある。苺は13個。ジャムは10kg位つくって、なくなってしまった。あと、麹は10g、小麦は1kg。卵は3個使いきって、牛乳は1L。食パンは確か5枚あった。…良し、書き終えた。
書き終えたら、女中隊第2班1係、野蔵さんが遅めの朝食を携えてやって来た。朝食は、普通に和食らしい。ん?
「この食材って、何処から持ってきました?」
「尾親の商店で買ってきました。」
「なるほど。」
そろそろ女中長を決めて、食材を一元管理してもらおう。
「串岡さん」
「およびでしょうか、マスター」
「ええ。貴方を女中長に任命します。」
「分かりました。女中を纏め、必ずやきちっと運営します。」と、串岡さんが少し顔を引き締めて答えた。恐らくこれからの事を考えているのだろう。
「よろしくお願いします。女中長として食材を管理して貰ってよいですか?」
その依頼に、串岡さんは何の躊躇もなく首を縦に振る。
「はい。では、コンテナに指定した物品を入れて頂いて構いませんか?」
「では、女中を呼んで入れてもらう形で。」
「それで構いません。」
「あと、当面の食料はこの金で工面して下さい。」
銀も効率が悪かったが、金はもっと効率が悪い。なにせ50mg100ecだ。普通の迷宮探索者であれば、絶対に錬成しない、と思う。その金を、10kg少々串岡さんに持たせる。金の売価は、小判にのっとれば10g1両。おおよそ1000両分くらいですか。意外と少ないが、まあ当面の食材費を工面するのには十分だろう。
「了解しました。」
そんなこんなで朝食を改めて食べる。うん。やはり魚が美味しい。ある程度内陸なこの旗ヶ野も、中島皇国レベルで言えば十分海沿いだ。実際海沿いの中都市で、これらの食材を調達してきた尾親から10km少々しか離れていない。
恐らく公務隊ないし女中隊が、尾親港で朝水揚げされた魚を買い取ったのだろう。
朝食が終われば、本(中身が全く無いので、本というよりは体裁のしっかりした自由帳に近い)を大量に作り、コンテナに入れる。その白紙の本に、数Ⅰ、数Aの問題をそこはかとなく書いていき、それを解く。
実は僕の通っていた中学校では、近隣の高校と連携して、数学や英語など、一部の教科で先行して高校の内容を教えていたのだ。数学はその中でも僕の苦手教科で、こうして演習しないと授業についていけない。
授業はないのでやる必要性は特に無い、と言われれば確かにそうなのだが、それこそ経済学とかをやろうとしたら、微分くらいは出来ておいたほうが良いですしね。
自分が解いた問題を見ると、やはり平方完成がネックとなっている。神造人間ならフェルマーの最終定理とかも余裕で証明出来そうですけど。しかもスーパーコンピューターにも遜色ない速度で。
午前中一杯やった後は、昼食を挟み、読書。ちなみに現在、公務隊の中に書籍執筆班を設けて、各地を飛び回らせて本を執筆させている。彼等文才もあるんだよなあ。羨ましい。その中から、今日は『海崎心中』を読むことにする。
…うん。そう悪くは無かったが、どうにも展開がいわゆる心中ものと共通している。まあ、偉い人も「視聴者というものは、違う話を求めているのではなく、違うエピソードを求めているだけなのだ」と言った。まあ、いわゆる様式美のようなものか。そんなことを考えつつ、他の心中ものも読んでいたら、すっかり日が暮れてしまった。
晴耕雨読という言葉はあるが、雨も降っていないのにこれほどまでに読書(と勉強)だけで時間を潰すのも久しぶりだ。
学校に普段行っていると、中々こういう事は出来ない。
その後、夕食を頂きつつ(当然のことながら美味)外をそれとなく見ようとすると、公務隊の鵜飼さんが来た。
「建物が完成しました。」
想像していたよりずっと早く、建物が完成した。早く出来てくれて良かった。そうでないと、神造人間の彼等が屋根のない所で過ごさなければならないですし。
「すいませんが、眠いので明日で良いですか?」
「構いませんよ。ではおやすみなさい。」
「お休みなさい。」
新たな建物への期待を込めながら、和室で眠りにつく。
お読み頂き有難うございます。
わりと山も谷もない作品になる予定です。
今後超不定期投稿になることが予想されますが、どうぞ宜しくお願いします。。