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ec経済観察雑記  作者:
30/66

23 大橋鋳造所

1512年4月21日


「お久しぶりです、有木さん」

「本当お久しぶり、暖ちゃん」

 平凡な一日が始まる。


 さて、僕は今大橋城北門のそばにある、大橋鋳造所に来ている。ここ大橋鋳造所では、大橋中の貨幣を生産している。

 ここで大橋領…というより中島皇国の貨幣システムについて、もう一度おさらいしておこう。


 まず、この国で一番大きい通貨は「両」。小判1枚で1両、大判1枚で10両。となると、大判が通貨単位として一番粗いような気がするが、大判はどうやら儀礼用としてのみ使われており、実際の貨幣として最も粗いのは小判らしい。そんな粗い単位、そりゃ猫に小判なんて持たせちゃダメだよね。

 そしてその下に、「分」という単位が来る。これは四分で一両とするシステムであり、二分金、一分金、一分銀というような貨幣が用意されている。因みに一分金と一分銀は勿論同じ価値である。

 そして、馴染みは薄いがその下に「朱」という単位も来る。これは一分で四朱である。これに関しても2朱と1朱にそれぞれ金貨と銀貨が用意されている。

 そしてみんな大好き、「文」だ。基本的には一文銭一枚で一文。当たり前に思うかもしれないが、実はそうならない例外が存在している。

 それは、一文銭の真ん中の穴に紐を通し、まとめて銭さしとする場合だ。銭差しとする時に限り、一文銭96枚をもって100文と計算することが認められた。これはどうしてなのだろうか?


 他にも、予戸の方で未だに使われ続けている銀貨。江戸時代の大坂でもそうだったが、この銀貨、定型化定量化がなされていない。

 ではどうするかと言うと、その都度重さを計り、それで価値を決めるのだ。つまり、通貨単位は重さの単位でも有る「匁」となる。これらの銀貨は両替商に持っていくことで金との交換もできるが、その比率は常に変動している。確か公務隊作成レポートによれば、50匁が一両とかそのあたりだったはずだ。


 現在中島皇国で流通している通貨はそれくらいだろう。

「で、相談がある、との事だったけど」

「そうなんです。実は…」

 こうして給料不足に喘いでいる事を話し、そのために私費で貨幣鋳造をお願いしたい、という話をした。その話を有木さんは興味深そうに聞き、少し考えた後口を開いた。


「なるほど。つまり、旗ヶ野領内で流通させるために、貨幣を鋳造して欲しい、と」

「そういう事です。そのための原材料はこちらで持ちますので」

 現金を単純に増やすだけなら簡単だが、皇国の経済にあまり影響を与えたくない。多量に物品を輸出出来ないとなれば、必然的に貨幣流通量は減ってしまう。

「うーん、それは良いんだけど…。少なくとも銅貨は鋳造する。でも、大きい単位の通貨なら、紙幣の方が便利じゃない?旗ヶ野領内だけで流通させるなら、独自通貨、独自紙幣でなんの問題も無いわけだよね?」と、有木さんが提案した。


「いえ、それでは少々問題があるんです。独自通貨を旗ヶ野領内で導入すると、神造人間の皆さんは貰った給料を、両替しないと屋敷外で使うことが出来ません。

 その両替にしても、まず普通の銀行や商人は実績のない、不安定な旗ヶ野領内でのみ流通する通貨を引き取ってなんてくれないでしょうから、自然と僕が両替することになると思うのですが…そうなると、独自通貨を発行する意味を失ってしまいます。かといって両替を停止すると、今度は大橋領内の景気回復が狙えなくなってしまいます」


「うーん…じゃあ、仕方ないか。よく考えたら、暖ちゃんところの使用人の皆さんはみんな力持ちで、アイボをそれぞれ持ってるんだよね。それなら、わざわざ紙幣にする意味もないね。分かった。すぐ鋳造する。金属は今ある?」と、有木さんが聞いてきた。


「ええ、こちらに。作れるだけ作ってください」

 その言葉に応じて、氷川さんが目録を取り出した。

 因みに今回の金属は皆、Lv1にしてある。いわゆる自然の状態だ。金が金であることを求められるような状況では、いたずらに改良するよりは、このままの方が信用されやすい。そんな目録を受け取った有木さんは金属の一覧に目を通すと、十露盤を弾き出した。そして、計算が一段落すると、こちらっへ向き直った。


「作れるだけ作って、か。分かった。鋳造所の貨幣のラインは幸い手が空いているし、じゃあこれらは貨幣に加工させて貰うね。加工料は1000両で。悪いけど、金属を倉庫まで持って来てもらえる?」

「分かりました」

 こうして佐間さんが倉庫の方に向かっていった。


30分後。


「いや、結構な量だね。倉庫を万が一に備えて広くしておいて本当に良かった。じゃあ、夜までに作れるだけ作るように手配しておいたので、それまでゆっくりしてってね」

 有木さんが戻ってきた。後ろには佐間さんも、清々しそうな表情で戻ってきた。ふと有木さん達がやってきた方向を見やると、もう既に操業音がしてきた。鋳造の出来に期待しよう。


「ところで、最近お仕事はいかがですか?」

 そう有木さんに聞いた。彼女も、事務方として、鋳造所だけでなく色々な所の事務管理をしているはずだ。

「そりゃあもう激務といって良いね。なまじ交渉能力が与えられているから色々な外交交渉も回ってくるから、中々大変。まあ、不老不死の作用が働いているのか、かなり日本にいた時よおり疲れにくく、眠くなりにくくなっているから、それだけが救いかな。後は週休も2日出てるから、その日はもう城の庭で散歩出来るから、そこら辺の息抜きでなんとか、って感じ」と、有木さんが少し顔を歪めて笑った。

 その表情だけでどれくらい激務なのかが、なんとなく伝わってくる。


「それは大変そうですね。ところで、最近の大橋領周辺はどんな感じですか?」

 大橋領内はなんとなく改善につながっているような気がしなくもないが、ここは戦国時代。対外情勢を把握していないと、いつの間にか城主が変わっていた、なんて事にもなりかねない。ある程度公務隊からのレポートで把握はしているが、

「まあ良好とは言えないね。東の蜷井にない領しかり、北西の西鋸にしのこ領、それから南西の横川よこかわ領、南の刺木さしき領といった近隣の大名とは、どこともそんなに折り合いが良いとはいえないね。でも、南にある、西中に領地を構える小領主、前野まえの氏が、大橋側に入ろうとしている、という動きは入ってきているね」

「西中領がですか。そういえば大予街道は、西中を経由していましたね。この調子で刺木まで何とかする事が出来れば、流通、輸送に貢献する事間違いなしですね。どうにかして抱きかかえたい所です」


「ところが、そこに少し問題があってね」

 問題ですか。何か裏で企みとか、はたまた苛政を敷いているとか、そんな所だろうか。問題、というからには何らかの不安定要因であることには間違いないんだろうけど。

「あんまり領主が良くないんですか?道楽癖があるとか」

 恵まれた立地に有る領主というのは、それだけで慢心しやすいものだ。女遊びとかにうつつを抜かしている可能性も考えられるし、どこかの近世ヨーロッパ領主のように城作りマニアだったりして、領民を苦しめている可能性もある。一体どんなタイプの領主なのだろうか。


「いや、領主自体は善政とは言いきれないけど普通の政治をしているし、頭も良いので、そこは特に心配していないんだけどね。問題は、その息子」

 ああ、領主の方ではなく、その息子か。この世界、封建制度下の色々なしがらみは結構強く、やはり血縁はかなり重視されている。

 戦国時代だからある程度下克上はし易くなっているとはいえ、それでもそうした反乱が起こらない限りは、領主もおそらく自分の息子に継がせるだろう。農民も、領主が普通の政治を行っている以上、下手に反乱も起こせまい。それを考えれば、将来そのバカ息子が良くない影響を及ぼすのは必至といえるだろう。


「息子ですか。どうにかしてこちら側に息子も抱き込めばこっちの物なんでしょうけど」

「そうも言ってられないんだよね。あの息子、かなり双田領に危機感を抱いている。このまま刺木周辺で強硬派を下手にまとめたり、もしくはそれより南の大名と結託したら面倒極まりない。あいにく、そのシナリオが読めてきちゃうんだけど」と、有木さんが目の前にシャボン玉があればどこまでも飛んでいくであろうため息をついた。

 その顔は、これから起こりうる最悪のシナリオをシミュレーションしているようにも見える。

 外交、交渉上手の有木さんでこうなのだから、きっとどうにもならないのだろう。案外、神造人間による内部工作で簡単に寝返りそうな気もするが、そこまでするつもりは無い。

「なるほど、それは大変ですね」

 その後も、外交関係についての情報が収集、交換されていった。




 そして、そんな情報収集に夢中になっていたら、すっかり夜になってしまった。途中、女中隊調理班の人が、大橋城の厨房を使って料理をする一幕がありながらも、概ね何事もなく終了した。


 そして、帰る頃にはもう10万両近い小判と、それと額面上同じくらいの銀貨と一文銭が既に出来上がっていた。

「速いですね」

「途中から暖ちゃんところの皆さんも手伝ってくれたからね。というか、今も現在進行中で手伝ってもらってるけど、返さなくて大丈夫?本人たちは大丈夫だと言っているけど」

 返さなくて大丈夫か、一瞬迷う。多分返さないほうが早く貨幣は鋳造出来るが、彼女達の事も心配だし…どうしようかな。


「では、そのまま鋳造をさせてください。一定のメドが立ったら戻ってきてください、とお伝え願います。一定のメドが立たなくても、代わりの人員はたてますので」

悩んだ末に出した結論がこれだ。


 あまりぶっ通しで同じ仕事というのも疲れてくるだろう。本人たちはあまり感じないのだろうが、それでも長期間労働で仕事の能率や、注意力が低下するようなら、積極的に交代させなければならない。


「分かった。じゃあ、これを持って帰ってね」と、有木さんが足元を指差した。指さされた貨幣達は、使用人によって素早く回収されていき、そして大橋鋳造所を去った。

平凡な一日が、今日も終わる。

いつもお読み頂き有難うございます。

次回更新は5/24を予定しています。

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