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第6章 始月までの数日間

 ……結局……。

 出て行った後に一体何を話していたのか、そして、戻ってきたときにはなぜ仲直りしていたのか、それはウェルティランにしてもボルデアにしても、ウェイリンには全く、一切話してくれなかった。そして、1夜が明けると、彼らは馬車を連ねて宮城へと出仕してしまった。……昨日の夜はあんなに言い争いをしていたっていうのに……、今日は全く違っているんだから。……男の人っていうのは、どうにもわからないもんだな……、と、2台の馬車を見送りながらウェイリンは思っていた。

 そんなこの日の午前中、家人であるヴィル・アラワナから、

 「お客様がお見えです。」

 と言われたので、早速会うことにした。

 その客が待っていたのは、第7応接間だった。飲み物を持ったまま部屋に入ると、そこには、30代初め、といったくらいの男がいた。ぱっと見たところは、中級官吏、といった感じに見えた。話の相手であるウェイリンが入ってきたのに気がついた訪問客は、さっと立ち上がって振り向くと、優雅に一礼する。

 「……ウェイリン・テネール・ヴィンドリル殿でいらっしゃいますね?」

 と、まず確認するように言った。彼女はうなずく。「……そうですか。……では、ウェイリン殿におかれましては、お初にお目にかかるかと思います。私は、王府省官吏局次長の職を拝命しております、ラヒアン・マルケと申します。」

 ……マルケ家、か……。ウェイリンは、まだまだ貧しい自分の人名録をひもといた。……確か……、男爵家、だったかな、と思った。

 ラヒアン・マルケ男爵、管理局次長は、低く、一定の調子をもって話していった。見た印象では、かなりの仕事をこなしそうに思えた。……でも、そんな官吏局次長なんていう人が、こんなところにまで一体何の用なのだろう……?と、ウェイリンは思っていた。

 ともかく、ウェイリンは、テーブルに飲み物を置くと、マルケ次長の正面の椅子に腰を下ろす。すると、それを待っていたかのように、彼は、出された飲み物を一口飲み、すぐに話し始める。

 「……まず、ウェイリン・テネール・ヴィンドリル嬢、今年度謁見及第、また宮廷謁見及第、誠に、おめでとうございます。」

 「あ、ありがとうござ……」

 「さて、」

 礼を言う時間すら与えやしない。ウェイリンは、中途半端な形で口をぽかんと開けるという、非常に間抜けな顔になってしまっていた。

 「……それであなたは、これからは官僚として、政の世界を歩んで行かれるわけですが、正式任官の前に、見習い期間、というものがあるのです。」

 そして、指を1本立てる。「……まあ、どこにでもあるような、研修期間、とでもお考え下さい。あなたには、正式任官前に、1年間、ここ王府ランゲールにて、いろいろな役所の下級官吏として働いていただきます。……まあ、一時預かりみたいなものですよ。ですから、これまでに2回ほど申し上げておりますが、正式な任官は当然、1年後、ということになります。あなた方新人の官吏には、この1年の間、1ヶ月か2ヶ月ごとに、働く役所を変えていただきます。その中で、できるだけ多くの仕事を理解していただき、その後の正式任官の後でも、それを生かしていただこう、というのが、この見習い期間の意義なのです。……まあ、それぞれの役所の仕事を手っ取り早く覚えるには、下級官吏というものが一番でしてね……。ここまでお話しした中で、何か、ご不明点はございますか?」

 「あの……」

 おずおずと言った。「その……、マルケ次長たちは、こういったことを1人1人に言って回っているのですか?」

 「ええ。」

 官吏局次長は軽くうなずいた。「そうですよ、ウェイリン殿。私たちは毎年、その年の謁見及第者全員に、このことを直接に言いに行くんです。……まあ、これをするのは、王府省官吏局の者だけに限ったことですけどね。……まああとは、武官採用試験及第者の兵士たちに、軍務省兵部の人たちが、訓練期間のことなどについて、同じく1人1人に説明しに行きますがね。……しかし、珍しいものですね、ウェイリン殿。たいていの場合は、給料ですとか、そういったことについてよく聞かれるものなのですがねえ。」

 「も、もちろん給料の方も気にはなっていましたけれど……。でもその前に、そっちの方が気になってしまったもので。」

 官吏局次長は、さして顔色を変えないで、“ははあ”とだけつぶやいてからそれに答える。

 「ああ……そちらの方も気になっていらしたのですね……。もちろん、給料は出ますよ。見習いとはいえ、謁見に及第して、仮とはいっても任官されてきた官吏ですからね。……しかし、あまり多くは期待しないでおいた方がいいでしょう。多分、この4分の1くらいの規模の屋敷でさえも、半月と維持できないくらいの低給料ですからね、官というのは。」

 そう言うと、残った飲み物を飲み干し、立ち上がる。「……では、私はひとまずこれで失礼致します。先ほどにも申し上げたかと思いますが、他にも及第者を何人か回らなくてはいけませんので。今回あなたにお話ししたかったことは以上です。働き始めるのは、来月1日からです。その時に、それぞれ新人官吏の研修先の割り当てが発表されます。この後に何か、ご質問などが浮かびましたら、こちらまでおいでいただくか、あるいは、文をお出しくだされば、お答え致しますので。」

 最後にそう言って、2枚の紙を彼女に手渡す。それぞれ役所の執務室の位置、住所が書かれている。そうして、彼は他に何もないことを確かめると、さっさと屋敷を出て行った。しかし、官吏局次長が言いたいことは分かった。来月1日から少なくとも1年間、ウェイリンは王府にずっといなくてはならない、ということは。


 ウェイリンが、官吏局次長、ラヒアン・マルケ男爵と話していたその時、彼女の父ウェルティランは宮城正殿内にある、謁見の間にいた。彼のいとこのボルデアはというと、教令省での仕事があるために、ここにはいない。

 ウェルティランが姿勢低く跪いている前には、19歳のブルグリット王国国王、ジェイラー3世・レッフワード・シュレヴィレンが、玉座にゆったりと着いている。彼の左右には、王佐や宰相、副宰相、国璽尚書、ウェルティランとは違う、もう1人の国璽尚書副官、元帥、衛華軍大将軍といった、高官重臣たちが控えている。そして、玉座のすぐ左右斜め後ろにはそれぞれ2人ずつ、さらに、謁見の間の壁際にはそれぞれ左右20人ずつ、さらに臣下の出入り口ドア脇には左右1人ずつ、計46人の衛華兵が控えている。玉座の後ろには、ブルグリット王国王家であるシュレヴィレン家の紋章である薔薇が、麗々しくタペストリーにされてつり下げられている。

 ちょうど、ウェルティランが、ヴィンドリル・リンディラン侯爵位及び、侯爵家の当主位を、娘ウェイリンに譲ったこと、そして自分が侯爵名代に任命されたこと、さらには、自分がその任務を十全に行えるようにするために、今まで務めていた国璽尚書副官の職の辞意、中央王府からの引退、それらのことはくれぐれも他言無用にしてもらいたい……、と、そういったことを言い終わったところだった。

 そこにいた全員は、ウェルティランの突然の言葉に驚き、何やたこ声で話し込んでいる、それは、本来であれば、じっと一言も発さずに、空気のように、また、彫像のように控えているべき衛華兵までも同じことだった。国璽尚書副官として、同僚になる、また、上司に当たる2人は、しきりと、問いかけるような視線を送っている。ジェイラーは、それらを制すると、彼に問うた。

 「……うむ、ウェルティランよ、事情は分かった。しかし何も、国璽尚書副官という職、さらには、官吏という身分まで投げ出すことはないのではないか?……たとえ、娘にヴィンドリル・リンディラン侯爵位、そして侯爵家の当主位を譲ったとしても。」

 「ええ、その通りでございます、陛下。確かに、普通に娘に譲っただけでは、このようにしなくてもよいかとは思います。しかし、先ほどにも申し上げましたように、その直後に娘ウェイリンから、侯爵名代に任命されてしまいました。と、いうことになれば、正式任官されました後は、約半年弱は領地にいるようになりますからよろしいかもしれませんが、その前に1年間、この王府ランゲールにて、官吏見習いとして過ごさねばならないわけですね。その時には絶対に、リンディラン州に帰っていられる時間などありません。そんな時には一体誰が、治める者のいないリンディラン州を監督していくのでございましょうか?」

 「……」

 あまりにも最もすぎる問いに、王も高官たちも黙りこんだ。

 「……し、しかしウェルティラン。1年たったら、また戻ってくるのであろうな?……娘のウェイリンが正式に任官された後ならば、互いに半年ずつの王府勤めにさせるからな。……その時にはまた、余の側近になってくれるであろうな?」

 国王ジェイラー3世があまりにも必死な口調で聞いてくるので、前侯爵は、内心で微笑した。

 「陛下……。1年もたってしまえば、恐らく、王府における私の居場所など、とうになくなってしまっていることでございましょう。」

 「なっ、なぜそんなことが今から分かるのだ!」

 ジェイラー3世が、語気を荒げて聞いた。これには、この場にいる高位顕官たちはもちろん、衛華兵たちまでも同調していた。しかし、言われているウェルティランは冷静なものだった。

 「『いつか、余の左右の人となる日を待っている』。」

 「?」

 王や高官たち、衛華兵たちは、そろって怪訝な顔をしていた。ウェルティランは構わず続ける。

 「……宮廷謁見及第者にそれぞれお贈りになられる国王陛下のお言葉のうちでも、最上級の賛辞のお言葉でございますね。このお言葉を賜れましたものは、たいてい末は卿以上の高官に昇る、とも言われておりますな。……娘が朝食時に申しておりました。宮廷謁見終了後、陛下がお帰りになる際にこのお言葉を下さった、と。……まあ、娘本人は、このお言葉が、真に意味しているところは

知りません。ただ単に、社交辞令的なものと、そのように受け取っております。……と、いうことは、恐れながら、国王陛下におかせられましては、我が娘のウェイリンに、何らかのご期待がおありになると、このように拝察致しました。だからこそ、あのお言葉を娘に賜ったのだと。この点については、いかがでございますか?」

 と、最後にウェルティランは聞いた。謁見の間は今や、わずかではないささやきに覆われている。王はそれを片手で制すると、うなずいた。

 「確かにその通りだ、ウェルティラン。そなたの娘の、ウェイリン・テネール・ヴィンドリルには、期待があるのだ。何しろ、余が全く名乗らないうちより、この国の国王であることを見抜いたし、また、そのことを先に承知、指摘しておきながら、そのことに全く憶しもせずに、余に意見を言ってくれたのだ。」

 「意見……、でございますか?」

 前侯爵は、訝しげな顔になって王に聞いた。ジェイラー3世は驚いて、目を丸くする。

 「ん?何だ、余の言葉については聞いていたのに、これについてはウェイリンから聞いておらんのか?」

 「ええ。」

 「そうか……。」

 と、王はつぶやくと、かいつまんで内容を教えた。ウェルティランはさすがに驚いていた。

 「なんと、さようでございましたか……。いや、娘にしたところで、憶せずによく国王陛下に申し上げられたものでございますね。……ううむ、どうして私とアドレアとの間から、あのような娘が生まれてきたのでしょうなあ……。」

 と、その場にいた全員に聞くともなしに言っていた。……そりゃあ、あんたのせいだ、あんたの……、と、この場にいた王以外のほぼ全員が思っていた。

 「ん、まあ、とにかくだな……。その時、余は確信したのだ。ウェイリン・テネール・ヴィンドリルになら、いずれ将来、余の名実ともにある左右の人となれるであろうとな。だから、宮廷謁見の時に、あの言葉を贈ったのだ。」

 「多分、娘になら……。」

 考え込むような顔で、ウェルティランは言った。「……いえ、これは娘に限らず、この宮廷謁見の際に、国王陛下からあの言葉を贈られました者たちは、この私が上がってきたときよりも速いスピードで、今の私の地位と同等なものに昇ることができるでしょう。何しろ、今回の謁見は、当代陛下の御代初の謁見でありますし、第一私は、あのお言葉を贈られてはおりませんからね。それに何より、時代が違います。もう、100年前、そして、6年前といったような、戦乱の世とは違うのです。まず、“大内乱”まで頻繁に攻めてきていた、北方のナルヴェンゲン帝国が攻めてこなくなりました。そして、帝国とは6年前から休戦状態となっています。また、帝国との国境になっている、“諦めの大地”を緩衝地帯として、ある意味での、平和な時代となっています。このような今だからこそ、若く、次代を担うことになるであろう者たちに、学ばせるべきではございませんか。……そのようなときに、私のような者がいてしまっては、きっと、邪魔になりましょう。私よりも後に及第してきた者たちも、中堅どころに上がってきておりますし、潮時でしょう。何よりも、同じ州からの領主貴族直系は2人も、ランゲールの中央官吏にはいらないでしょう。『老兵は死なず、ただ消え去るのみ』……という言葉もございますし。」

 「ウェルティランは、まだ老いてなどいないぞ。」

 と、国王ジェイラーは思わず言った。今度ばかりは彼も微苦笑を隠そうともしなかった。

 「陛下……。これは、ただの言葉の綾でございます。そんな風に、いちいち言葉通りの意味と、お受け取りなさいませんよう。

 それに、侯爵名代として、当代ヴィンドリル・リンディラン侯爵、ウェイリン・テネール・ヴィンドリルの当地不在の折りには、領地経営をきちんと行っていかなければなりませんので、ランゲール中央官吏に籍を置いたままでは、職務遂行が難しくなることでしょうし。」

 前侯爵はここで優雅に跪拝の礼をとる。「それでは、国王陛下、王佐閣下に宰相閣下、副宰相閣下、国璽尚書閣下、エルド・ゲレアスク・ヴェアテル国璽尚書副官には、いたく迷惑をかけてしまってすまないな。元帥閣下、衛華軍大将軍閣下、ご機嫌よろしゅう。……私めはここで、御前失礼させていただきとうございます。……正式な辞職、引退、帰州の発表など諸々については、また改めまして。」

 「ウェルティラン!」

 くるりと背を向けて、謁見の間を出て行こうとしたウェルティランを、王、ジェイラー3世は呼び止めた。ピタリと立ち止まり、振り向くウェルティラン。ひたと自分を見すえる視線に、国王ジェイラー3世はしばらく逡巡していたが、ようやく言葉が見つかった。

 「……その、そなたの気が変わったら、いつでも連絡をくれ。高い官職を空けて待っている。」

 彼は、微笑を浮かべると、うなずいた。

 「は、本当に私の気が変わりましたらば、いずれ。」

 そう答えると、彼は今度こそ出て行った。


 「……ウェルティランは、あのように余には言っていたが、」

 ウェルティラン・テネール・ヴィンドリルが出て行った後の、謁見の間である。そこにいる人々は、出て行ったウェルティラン1人欠けているだけで、全員残っていて、元の位置のままだった。王は続ける。

 「恐らく、どんなに高い官職、それがたとえ、王佐、摂政でも、また、新しく官職を用意したとしても、王府には戻らぬであろうな。」

 「は、御意でございますな。」

 と、2人いる副宰相の1人、グレッフェン3世・トーランディ・クオレッシェア辺境伯が言った。彼は以前にも登場済みであって、例の、謁見の受験希望者を見に来ていたものたちの1人だ。

 「ウェルティラン・テネール・ヴィンドリルという男は、こと自分の進退については、とにかく有言実行の人間ですからな。ああいうふうに言っております以上は、このランゲールにはまあ来はしましても、宮城、さらには中央の官吏などには参上しないでしょうし、また、復帰もしないでしょうな。」

 しみじみとした調子で言った。皆は一様にうなずいていた。


 「ウェルティラン!」

 謁見の間を辞して、宮城の廊下を国璽局へと歩いていたウェルティランは、先ほどの国王と同じ言葉に呼び止められた。

 振り返ると、廊下の隅にずらりと並ぶ、天井を支える太い八角柱の1本によりかかって、彼の親友である、ルーヴァス・アンセッラ・ラフェイス子爵が立っていた。彼は、当代ラフェイス・シャンベリオン辺境伯家当主、ファニング2世・アンセッラ・ラフェイス辺境伯の弟だ。ウェルティランと同い年で、同じ年に謁見に及第してからの仲だ。そして、今は法務卿である。

 「ルーヴァス……。ん?今の時間はお前、法務省で定例会議をしているはずじゃあなかったか?」

 ウェルティランが聞いた。さすがに、国璽尚書副官だっただけあり、いろいろな宮廷官吏の日々の予定が頭に入っているのだ法務卿はうなずいた。

 「ああ、そうなんだが。ウェルティラン、お前が王府勤めの時でもないのに、はるばる自分の領地のリンディランから、このランゲールまで来ている、と聞いたからな。この分だときっと、宮城にも来るだろうと思ってな。ここ2~3日くらいは、暇を見つけてはあたりをぶらついていたのさ。どういう風の吹き回しか聞くためにな。あと、会議の方は、副卿に任せてある。今日はそれほど重要な案件ではなかったしな。……それで、結局お前は、何しにわざわざ王府まで来たんだ?」

 ウェルティランは、さっき謁見の間でしていた話をした。法務卿は、じっとうなずきながら聞いている。彼の話を聞き終えた後、しばらく沈黙が流れていた。やがて1つうなずくと、

 「ふうん、そうか……。お前の娘のウェイリン殿に、ヴィンドリル・リンディラン侯爵位と侯爵家の当主位を譲って、お前は、ウェイリン殿がいない間の職務を代行するために、名代に任命してもらったと。そして、それに専念できるようにするために、さっき、中央官職を辞めてきたのか。」

 と、言った。それから彼を、よく行く場所に誘った。ウェルティランもまたうなずいた。


 ここは、宮城の第12塔。この宮城の中では、最も高い塔である。全体的な造りは、塔というよりもむしろ、“楼”といった方がしっくりくるような印象である。ここから見ると、王府の町並みが一望できる。けれども、この塔の構造があまり防衛向きではない上、その前に建っている第11塔の方が、少し高さでは劣るとはいえ、防御性が高く、代わりになってしまうので、ここにはほとんど人は来ない。

 そんな第12塔で、ウェルティランとルーヴァスとは、よく夜を徹して話し合ったものだった。さらにもう1人、もはや会うこともかなわない友との3人で、話していたのだった。

 「……ここは、前とちっとも変わっていないな。」

 ウェルティランが言った。「今になったから言えることなんだが、若いころは宿直に当たっていた晩なんかは、よくここに来ていたよ。」

 ルーヴァスが笑った。

 「それは、今の俺の立場としては許せない……、と言いたいところだが、実は俺もそうだった。」

 と、返した。そうしてしばらく笑い合ってから、ふと思い出したように、ウェルティランは言う。

 「そういえば、お前は俺に付き合っていていいのか?まだ省での仕事はあるんだろう?」

 「何言ってんだ?もう今日すべき仕事は終えちまったよ。あとは種々雑多な雑務だけだ。」

 ウェルティランは目を丸くする。「それにしても……。いいご身分になったものだよなあ、ウェルティラン……。王府ランゲールでの官吏の仕事や、領主貴族としての煩わしさは全部娘に押しつけて、自分は悠々と楽隠居をすると。」

 彼は今度ばかりは何の反応も示さなかった。ルーヴァスは、それが気分を害したと受け取って、慌てたように続ける。

 「あー……、それにしても、長かったよなあ。お前が侯爵位を継ぐために王府を離れていた時を差し引けば、ざっと18年ってとこか。フフフ……、この間に俺はペーペーから法務卿に、そんでウェルティラン、お前は同じくペーペーから国璽尚書副官にまでなった。お前のいとこのボルデアも、今や教令卿だもんな。」

 「ああ……、そうだな、長かった。何しろ、この18年の間に生まれたウェイリンが、もう官吏として働き始めるんだからな。」

 「フッ……。」

 法務卿は口元で笑った。「それじゃあ、あいつは、。、今はどんなになっていたかなあ?」

 「ん、そうだなあ……。」

 ウェルティランは近くにあった椅子に腰かけ、目をつむった。「あいつがまだいたら……。今ごろは、ガードナー公爵閣下を押しのけて、宰相の椅子にでも座っていそうだな。そんでもって俺たちは、卿くらいか、ひょっとしたら、副卿くらいにしかなっていなかったかもしれんな……。」

 「ち、違いないかもしれんところが、ちょっと怖いな。」

 ルーヴァスは顔を引きつらせつつ言った。「……あいつは、ただの友達関係だとか、縁故関係では、決して高官にはすえないたちだったからな。……多分俺たちは、あいつの下で、副宰相なんてできなかったよな。……もしあいつから話があったら、断ってたぞ。」

 「俺もだ。」

 ウェルティランもうなずいた。この副宰相というのは、他の官職とは違って、宰相自身による、直接任命方式になっているのだ。2名いるのだが、両方ともだ。元々は、宰相が適任者を候補として何人か国王に奏上し、その中から国王が2名を選んで任命していたのだが、いつのころからか、宰相が直接任命するようになっていたのだ。そのため、宰相1人に集まっている権力というのは、相当に大きくなっている。

 ルーヴァスは続けて言う。

 「にしても……。お前があんなことを言ったら、俺まで辞めなくちゃならんじゃないか。」

 前侯爵は首を振る。

 「いいや、お前は違うよ、ルーヴァス。お前は俺と違って、宮廷謁見の際に、先々王陛下から、あの“お言葉”を賜った者だからな。」

 しかし法務卿は、口調を強くして返した。

 「いやいや、同じだよお前と。……卿という地位に居座って、若いこれからの者の出世を邪魔しているしな。……それに、俺も古い官吏なんだよ。……聞いているだろう――というか、お前は実際に、目の当たりにしていたはずだ

――、俺の、法務副卿時代のことを。」

 ウェルティランはうなずいた。

 ルーヴァス・アンセッラ・ラフェイス子爵、法務卿が言っているのは、6年前にあった、“大内乱”のことだ。当時彼は法務副卿として、先王から臨時大権を受けていた。そして、官吏であろうが武官であろうが、中央貴族であろうが領主貴族であろうが、また、王族であろうが、先王と敵対する者を全て捕らえ、獄にぶち込み、また処刑し、暗殺し、追放するなどして潰しまくって、先代国王の即位を助けたことがある。そのやり方たるや、法務官僚としてのそれではなく、むしろ、武人のそれであった。いや、彼とて最初は、官吏としてのきちんとした手順を踏んで、追及を行っていたのだが、それでは切りがなくなってしまったのだった。そこで、やり方を転換したのは、内乱も半ばを過ぎたころだった。そこから一気に反乱に加わっていたものの数が減ってきたことで、終結に持ち込むことができたのだ。そしてルーヴァスは、その功により、法務卿に昇進することになった。その時に、彼らの側に立って戦った友、王府副官、ヴァンドラム・ティルムイ・アサミーヴァス伯爵が死んだ。反対する者の矢を受けての、戦死だった。

 「ああ……。あの時は、お前に何度助けられたことか。」

 その時のことを思い出しているようにウェルティランは、ゆっくりと言った。相も変わらず、じっと目をつむっている。それから、ルーヴァス法務卿が、語気を和らげて続けた。

 「……もうあの、“大内乱”が終わってから、6年にもなるというのに、俺には、あのやり方が未だに残っているし、また、ややもするとその方法をとってしまいそうになるんだよ。そういうものは、次代を担う者たちの邪魔にしかならんよ、ウェルティラン……。いくらあのお言葉を賜っていようとも、その時その時に合ったことができなくなってしまったら、官吏として……、人間としてでも、終わりだよ。」

 ウェルティランはずっと黙って、同期及第の友の言葉を聞いている。ここで、ルーヴァスは、ふと思ったのだが、というように話を続ける。

 「なあウェルティラン……。お前はやっぱり、さっきも言っていたように、リンディラン州に戻った後は、侯爵名代として、ずっと領地を見ていくつもりなのか?」

 ウェルティランはうなずいて、

 「ああそうだ。だからこそ、1年中ずっとリンディラン州にいられるように、俺は国璽尚書副官という官職さえも今日辞めてきたんだからな。」

 と、言った。ここでルーヴァスは、このことを聞かされてからずっと不思議に思っていたことを、友にぶつけてみることにした。

 「なあ、ウェルティラン……。俺はそれを聞いたときからずっと不思議に思っていたんだが、どうしてお前とウェイリン殿とで、半年ごとに互い違いで王府勤めにするようにしなかったんだ?」

 と、ウェルティランが声を荒げて、

 「そうしたら俺がウェイリンと一緒にいられなくなっちまうじゃないか!」

 と答えたのだ。それを聞いてルーヴァスは、深いため息をついていた。……これが、まあ前とはいえ、ヴィンドリル・リンディラン侯爵、そして、国璽尚書副官閣下のお言葉だとはねえ……、と、思っていた。さらに、苦笑までも浮かべてしまった。と、その様子を見たウェルティランは、さすがに激しすぎたか、と思ったのか、やや口早に言った。

 「……いいかルーヴァス?俺がウェイリンに、ヴィンドリル・リンディラン侯爵位と侯爵家の当主位を譲り、なおかつ、王府における国璽尚書副官なんていう、とても高位の官職まで辞めたのは、娘が領地にいないときの当地代行もそうだが、任官した後半年くらい領地にいるときに、統治のしかただとか、リンディラン州について、いろいろ改めて教えるためでもあるんだ。娘はこれまでずっとリンディラン州にいたとはいっても、実際治めていくには、まだまだ経験が足りなさすぎるからな。……それにだな、俺自身、そうそう官職だとか、そういったものには執着していないんだ。ただ単に、国王陛下がお与えくださるということで、臣下としてありがたく受けていただけのことなんだ。」

 ウェルティランの言葉の後半部を聞いたルーヴァス法務卿は、すっかりあきれ果ててしまっていた。さっきまでの苦笑も消えてしまっていた。

 「だったらどーして、お前は官吏になったんだ?」

 「あー……、そりゃまあ、領主貴族直系長子だったとはいえ、ちょっとでもいいから、国の政にも関与したいなー、と思って、そんでもって謁見を受けたら及第して、今になった、というだけのことだ。……フフン、どーだいルーヴァス、娘に比べて、ずいぶんと不純きわまりない動機だろう?」

 と、自慢げに言った。……おいおい、そんなことを自慢げに言ったところで、全然自慢にも何にもなりゃしねえだろうが……、と、ルーヴァス法務卿は思った。けれども、もうこのときまでに充分すぎるほどに呆れ果ててしまっていたので、これ以上呆れの表情を出すことができなかった。そこでまたしばらく時が止まる。言葉を継いだのは、ルーヴァスだった。

 「お前……。それをあのとき落ちた奴に聞かれたら、絶対殺されるぞ。」

 「フン、大丈夫だ。その時には返り討ちにしてやるさ。」

 サラリとのたまった。

 「あー、そういえば話を変えるが、ウェイリン殿は、どうして謁見を受け、官吏になろうと思ったんだ?」

 「ああ……。何かな、ウェイリンが小さかったころは、まだ単なる、中央王府、高位顕官への“憧れ”からのものだったらしいんだよ。でも、6年前――あの、“大内乱”だな――が起こった後からは、ただの憧れではなしに、本当の意味で、この中央王府、ランゲールの宮城に官吏として行きたくなっていたようなんだ。」

 とここで彼がため息をついた。「……まったく……。聞いてくれ、ルーヴァス。今思い出してもあれなんだが、10年前にな、こんなことがあったんだ。俺が、その時5歳のウェイリンに、『お前は大きくなったら、一体何になりたいんだい?』って聞いたんだ。……普通の領主貴族の子女だったら、こういうときには、“ここの領主”とか、そういうふうに答えるものだろう?俺もそう思っていたら、ウェイリンときたら思いっきり大きな声とキラキラした笑顔で、『この国の宰相!』って答えたんだ。あのときは……、嬉しかった反面、ちょっとばかり悲しかった。」

 ルーヴァスは我慢しなかった。1つ小さく吹き出すと、大口を開け大爆笑していた。その部屋の前を通りかかった官吏や兵士が、不思議そうに閉じたドアの向こうに視線を送るほどだった。

 「ハハハ……、アーハッハッハ……、アーアッと……。ククク、傑作だなこりゃ。しかし、こりゃあずいぶんと頼もしい娘だな。……ひょっとすると、いつか本当に宰相になっちまうかもしれないなあ、その分だと。……そういえば、この話は初耳だったように思うな。いつもいろいろとお前は話してくれていたが、今の今まで、これは聞いたことがないぞ。」

 「え?そうだったか?」

 「ああ。うん、そうだよ、初耳だ。大体のウェイリン殿の話は覚えているからな。……ほら、いつだったか、お前が話してくれた、ウェイリン殿が、台所によく出てくる黒かったり茶色だったりする虫に驚いて、キャーキャー悲鳴を上げながら城内を逃げ回って、滑って転んだこととかな。……ん、ちょっと待て。ということは、ウェイリン殿はまだこのときは?」

 「そう。まだ、ただの憧れだけの時だったようだ。……まだ、アドレアが元気だったころだ。」

 一番最後の言葉を聞いたルーヴァスは、あっと一声うめくと、申し訳なさそうに顔を曇らせた。

 「……すまん、ウェルティラン……。お前にはちょっと、思い出したくないときの話だったか。」

 「いや、なぜかこれだけは、いくらでも思い出して平気なんだ。」

 ウェルティランは微笑していった。

 ウェルティランの妻で、ウェイリンの母であるアドレアは、この出来事の数ヶ月後に突然体調を崩し、それからわずか1週間後に亡くなってしまったのだった。ウェルティランもウェイリンも、ルテティア城の者たちも、リンディラン州内の領民たちも、いや、アドレアの人となりをわずかでも知っている者たちは、全員悲しんだという。

 「しかし……。思えば、あらゆる意味で惜しい女性だったよなあ……。アドレア様は。」

 ルーヴァスは、しみじみとした調子でつぶやいた。ウェルティランも、ぎこちなくではあるが、うなずいた。というのも、アドレアも、彼と結婚するまでは、官吏だった。しかし、見習い期間を経て、正式任官されて最初に派遣されたリンディラン州で、ウェルティランが彼女に惚れてしまい、アタックを仕掛け、強引に押し切る形で結婚までしてしまったから、官吏生活としては、わずかに1年と数ヶ月間程度にしかすぎなかったが。しかし、その時の経験を見事に生かし、ウェルティランがいない間の州政を取り仕切ったりもしていた。しかもアドレアは、ウェイリンの母といって驚かれるような美貌の持ち主だった。いや、これには多少の語弊がある。娘のウェイリンにしても、1人だけならそこそこいい顔なのだが、隣にアドレアがならんでしまうと本当に、“そこそこの”顔になってしまうのだ。

 また、ウェイリンが生まれてから5歳までの6年間に、大体の素養を教え込んでしまった。そこのところからも、アドレアが、とても素晴らしく、法務卿曰く、“惜しい女性”だったことがうかがえる。さらに、もう1つの根拠がある。ルーヴァス法務卿の言い方だ。彼はたとえ、他人の妻であろうとも、友人と話しているときには、あまり“様”をつけないのだ。

 そうしているうちにルーヴァスは、ウェルティランが顔を曇らせていることに気がついた。

 「どうした、ウェルティラン?」

 「うん……、今さらになってしまうが、アドレアが行くべき道を、俺がふさいでしまったように思えてきてな……。ほら、俺が一方的に惚れて、求婚していたような感じだっただろう?それから、あいつは嫌がっていたのに、強引に押し切って結婚までしちまったように思えてならないんだ。」

 「バーカ」

 言い終わるやいなや、法務卿は一言で切って捨てていた。「いいかウェルティラン?もしもだ、アドレア様が本当に、そういうふうに思っていたとしたら、何が何でもルテティア城から出て行っていただろうな。……ウェイリン殿までも連れてな。」

 「……」

 ウェルティランは黙りこんでしまった。……うん、確かに、あのアドレアだったらやりかねなかっただろうな……。と、思った。彼の頭の中に、妻の言葉がよみがえってきた。

 『……ちょっとウェルティラン!またウェイリンに、台所にでる黒かったり茶色かったりするあのすばしっこい虫のことを散々に吹き込んだでしょ!さっきあの子が泣きながら飛び込んできたわよ!』

 そんなようなことを、リンディラン侯爵たる自分にズケズケ言ってくるようなアドレアだから、ルテティア城から出て行くのだって、縁切り状をたたきつけるのだっていとわなかっただろうな……。と、前侯爵は思った。法務卿はさらに続けた。

 「だろ?それなのに、ずっとアドレア様は、ルテティア城から出て行かなかった。ということはだ、そんなお前が思っていたようなことは全くなかった、とこういうわけだ。」

 そうして、話を変えた。「それで?お前はこれから、このランゲールに戻ってくる気はあるのか?……まあ、多分、国王陛下にあそこまで言ってしまったようなお前のことだから、もう戻ってくる気はないのかもしれんがな。」

 ウェルティランは、ルーヴァスの言葉にうなずいた。

 「うん、そうだな……。いや、さっき謁見の間を退出するときにも、陛下からもそのようなお言葉を賜ったよ。『そなたの気が変わったら、いつでも連絡をくれ。高い官職を空けて待っている。』とね。……でも、そうそうすぐに気が変わるとは、俺自身思えないんだよなあ。……だから俺は、ヴィンドリル・リンディラン侯爵名代として、ウェイリンに、領地経営のイロハを教えていくことにするよ。……まあ、多分、ウェイリンが立派に官吏として、また、ヴィンドリル・リンディラン侯爵として働きだせるようになるまでは、さすがにアドレアにしても、俺を迎えにはくるまいよ。」

 「フフ……」

 ルーヴァスは柔らかく微笑した。そして、ふと思いついたようにウェルティランは言った。

 「おお、そうだルーヴァス……。今日の夕食は、うちの王府屋敷でとっていいかないか?……いや、ぜひウェイリンとも引き会わせてやりたいし。」

 「おお、とうとうお前ご自慢の娘殿に会えるのか。……それは楽しみにしているよ。」

  そう言ってからルーヴァスは、第12塔の小部屋を出て行った。もう一度、残っている仕事のために、法務省に行くのだった。ウェルティランは、法務卿が見えなくなるまで、ドアで見送っていた。そして、彼もまた小部屋を出て行く。しかし、下へは下りず、上への階段を上がり、塔の屋上に出た。この屋上もまた、彼を含めた3人が、共に話していた場所だったのだ。そうして、王府ランゲールを覆う蒼穹をじっと眺める。それから、心の中で亡き妻に言った。

 ……と、いうわけだ、アドレア……。残念だけど、私はまだお前のいるそちらの方には行くことはできそうにないよ。……ウェイリンがきちんと官吏と、ヴィンドリル・リンディラン侯爵という、2足の草鞋をはけるようになるまではな。……フフ、しかし、こんなにも汚れてしまった手を持つ私が、お前のところに行けるのかすら怪しいところだがな。ただ、もしも叶うなら、それまで私は、ウェイリンに領主として、そして官吏としての経験、イロハを教えていかなければならないのだ。……アドレア、お前ならば分かってくれるはずだ。私と結婚し、実家の姓までをも消して我が家に嫁してきて、ウェイリンを生んだお前なら。そして、死ぬまでの6年間に、持つ素養の全てをウェイリン、そして、システィに注ぎ込んだお前なら。……お前が教えた、作法やフラウト・トラヴェルソが、ガルガヴェイス城主殿や、宮廷楽団長殿、さらには、国王陛下までをもうならせたんだ。……誇らしいもんじゃあないか、アドレア。私はウェイリンも、お前も、そしてシスティも、誇らしく思っているんだよ。だから……、アドレア、私たちの娘を、守ってやってはくれないか?ちゃんと官吏として、ヴィンドリル・リンディラン侯爵として、ウェイリンが働いていけるように……。

 と、その時、近くには何の風が起こるようなものは全くないのに、突然、明らかに建物を吹き抜けていく風とは違う一陣の風が、ウェルティランの周りで吹いた。彼は思わず袖で目をかばう。その風が耳元をかすめていったとき、彼には確かにこう聞こえた。

 『分かったわ。』

 「あ、アドレア!?」

 ウェルティランは、驚いてぐるりとあたりを見まわしながら言う。けれども、彼の周りにはただ、塔の屋上という、何もない殺風景が広がるだけで、ウェルティランが愛した、今は亡き妻の面影を見いだせるようなものは、何一つとしてなかったのだ。前国璽尚書副官兼、ヴィンドリル・リンディラン侯爵は、落胆したように1つため息をつくと、塔を下り、国璽尚書副官としての最後の執務に向かったのだった。


 ウェルティランは、夕食近くになって王府屋敷にようやく帰ってきた。彼は事前にルーヴァスを連れてくることを文に書いていて、法務卿も連れ立っての帰宅だった。

 ウェイリンたちは、もう食堂にいたのだが、ウェルティランがその男を連れて入ると、ボルデアとツィリがまず反応した。すぐに立ち上がり礼をするのを見て、ウェイリンたちも慌てて彼らにならう。

 その男は、濃い口ひげをはやしている。そして、ウェルティラン、ウェイリン親子よりも深い、むしろ、焦げ茶ともいえる髪の色をしていた。ややいかつい顔つきで、なにやらいつも不機嫌そうに顔をしかめているものだから、ウェイリンたちにしてみれば最初、どうにもとっつきづらそうな印象だったのだ。しかし、その直後に実際に話してみると、最初の予想を裏切り、気さくで、話しやすかった。ウェルティランが彼らの間に立ち、2人を互いに紹介していく。

 「ルーヴァス、これが、いつも私が話していた、娘のウェイリンだ。……そしてウェイリン、この人はね、私と同期で謁見に及第して、なおかつ同い年の子爵、ルーヴァス・アンセッラ・ラフェイス……。法務卿をしている。」

 ウェイリンが跪く。ルーヴァス法務卿は、友の紹介を受けて、丁寧な口調で言った。

 「……初めてだな。今さっき、君の父上からも紹介されたが、改めて申し上げる。私は、ルーヴァス・アンセッラ・ラフェイスという。……しかし、私としては、いつもいつも君の父上から話を聞かされているせいだろうか、あまり初めて会う、という気がしないのだよ。」

 ジェイラー3世や、ラヒアン・マルケ官吏局次長よりも低い声だった。その声を聞きながら、ウェイリンはさっきから姿勢深く跪いている。彼の自己紹介が終わると顔を上げる。そうして、法務卿の蒼い目をしっかりと見据えつつ、自己紹介する。

 「……お初にお目にかかります、ルーヴァス・アンセッラ・ラフェイス様。私は、ウェルティラン・テネール・ヴィンドリルが娘、ウェイリンでございます。このたびは、お忙しいところを、父ウェルティランの無理な頼みをお聞き届けくださってのご来駕……誠に、ありがたく存じます。」

 法務卿は、ウェイリンの言葉、礼法、所作に、思わず目を細めていた。……ふうむ、これほどとは……。中央貴族ならばともかく、領主貴族当主にしてこの礼法に作法……。やはり、アドレア様の娘殿なだけはあるな……と、思った。

 「いやいや……。それを言わなければならないのは、私の方だよ。と、いうのも、いつも君の父上が王府勤めになったときには、1日に1回は私のところにやってきては、君の話をしていたのだからな。……だから、私の方でも、君に1度お目にかかりたいと思っていたんだ。だから、そう言った意味では、無理な頼みをしたのは、私の方だとも言えるわけなのだな。……とにかく、突然押しかけてしまい、すまなかった。」

 ウェイリンは内心で、父様……どこまで私の話を広めているのよ……と思っていた。けれども、そこは顔を少し赤らめるだけですませ、

 「いえ……そんな……。」

 そう言って流す。そして、ふと思い出したように続ける。「あ、あの……先ほど、ルーヴァス様の姓は、“ラフェイス”と伺いましたが、もしかして、現シャンベリオン領主は……。」

 ルーヴァスは、少しぎこちなくうなずく。

 「あ、ああ。今のシャンベリオン領主、辺境伯ファニングは、私の兄だ。」

 ウェイリンは納得した。しかし、そのぎこちなさに少し怪訝な顔をする。と、それに気づいたウェルティランが補足する。

 「ああ、いずれ分かることだから言ってしまうが、ルーヴァスはな、ある事件の時に、ラフェイス家の者まで処罰したことがあってな。それが、現領主のファニング殿の逆鱗に触れた形になってしまったんだ。それがきっかけで、彼は実家とは絶縁状態なんだ。」

 ウェイリンは納得する。そして皆座り直した。全員が着席すると、食事が運ばれてきて、夕食が始まる。ボルデア教令卿とルーヴァス法務卿は、王府で、同じ卿という立場にあるからなのかな、多少なりともつきあいはあるみたいだな……、と、ウェイリンは思った。もっとも、ウェイリンがボルデアを除いた、ウェルティラン、ルーヴァスの2人、プラスもう1人のことを知るのは、もう少し先のことになるのだが。さらに彼女を驚かせたものとしては、ツィリも会話に加わっているということだ。まあ、教令卿夫人としては、当然のことかもしれないが。なので、ウェイリンたち4人だけが、あまり話題には入れていなかった。……さすがに王府の人たちは違うな……、と心密かに彼女は思っていた。

 「……しかし、ルーヴァス法務卿、謁見に関する決まりや法律というのは、煩雑きわまるものがありますな。……謁見問題作成の係から、毎年毎年苦情、陳情が上がってくるのですよ。」

 と、教令卿が言うと

 「ええ……。それは私も感じていたところです。……ですので、今は来年の謁見に向けて、少しでも簡略化できるようにと、優先度を上げてやっていくことを、部下に指示しました。」

 と、法務卿が答えた。するとここでツィリが、

 「……お二方とも、この場でそんなことをお話しなさっていても大丈夫なんですか?……ここに今年度謁見及第者がおりますのに。」

 と、やんわりと言った。「……でも、話題を変えるようですけれど、今の修部省の建設、修築熱は、一体どういう風の吹き回しなんでしょう?……この前も、王府の城壁を大修理したり。道路の修繕をしたり、役所の修築をしていましたがねえ……。」

 「あ、そのことですが」

 ここでようやく、ウェイリンは話題に入ることができた。「……今回王府に来る前に、ガルガヴェイス城に寄ったんです。そうしたら、ちょうどそこで、街道が3本に分かれていました。……その道路も最近、修部省の命令で造られたと、お城の兵士さんが教えてくれました。……父様?どうしたんですか、そんなにおかしそうな顔をして?」

 「ククク……、ウェイリン……、それを言うなら、“寄った”じゃなくて、“捕まった”だろ?」

 ウェルティランが娘に答えて、笑いながら言った。ウェイリンはぱっと顔を赤らめて、押し黙ってしまう。ルーヴァスとボルデア、さらにツィリまでが、今そんなことを言うものではないだろう、という顔をして睨んでいる。しかし睨まれている当のウェルティランはというと、そんなことは一切気にせず、数回うなずきながら続ける。

 「うん、うん。しかし、まあ、そうだよなあ……。別に今は戦時、というわけではないんだよなあ。しかも、今の修部卿は、そんな無駄な工事をするように命令するような男ではないんだがなあ……。絶対にこの国に利益がなければ工事命令を出さない……、そんな奴なんだ。」

 「へえ……やっぱり国璽尚書副官だったというだけあって、全官吏のことが頭に入っているのね。」

 「まさか。せいぜい官位的には副卿クラス以上だけだよ。それに、修部卿の指導官は、私だったからな。」

 「新人官吏の指導官はやるものなのね。」

 父はうなずく。

 「当たり前だよ、ウェイリン。官吏としてある程度の年数、経験を積んだら、どんな官位になっていようと、1回は誰だってやるんだよ。……まあ、私は領地経営もあったから、4ヶ月くらいは他の人に指導官をお願いしていたがね。」

 こんなことを話しながら、夕食は進んでいった。こうしている中でも、ウェイリンは密かにホッとしていた。今日は、昨日とは全く違って、とても和やかに食事が進んでいるからだ。……結局、昨日彼女は、ツィリの部屋で夕食をとったのだ。……なぜこの食堂に行かなかったのか?それは、ウェルティランとボルデアが喧嘩していた彼女の部屋の前を通らなければならなかったからだ。ただし、ツィリとの夕食はとても楽しいものだった。ツィリは、ウェイリンとシスティから、リンディラン州での暮らしを聞きたがったし、2人は2人で、教令卿夫人から、王府の様子を聞いてみたかったのだから。そして、夕食が終わると、またもツィリに連れられて、ウェイリン、システィ、そして今回はシミュルーとジェスの兄弟も、彼女の部屋に行くことになった。


 「……完全に人払いは成ったか?」

 ウェイリンたちや、家人たちが全員出て行った後、彼らしかいなくなった食堂で、ウェルティランは急に顔を引き締めてそう聞いた。

 「ああ、廊下には誰もいない。」

 廊下の様子を見に行ったボルデアが席に戻って答える。ウェルティランは1つうなずいた。もう完全に夜になっていて、明かりといえば、燭台のろうそく、壁際で燃える暖炉の火、壁につけられたランプの火くらいのものである。炎がちらちらと揺れるたび、テーブルを囲む3人に暗く陰影をつけていく。ルーヴァスは背もたれによりかかりながら言う。

 「ふう。しかし、ボルデア殿、奥方には感謝したいくらいですな。なんといったって、絶妙きわまりないタイミングで、ウェイリン殿たちをはじめとする全員を連れ出していってくれたんだからな。」

 「ん?気がついていたか?」

 ウェルティランが聞く。ルーヴァス法務卿は肩をすくめる。

 「気がついていないわけがないだろう?聞いたところじゃあ、昨日の話し合いだってそのようにしていた、というそうじゃないか。」

 と、言った。

 「まあ、その通りです。事前に妻に切りのいいところで連れ出すようにとは言いましたが、気がついていらっしゃいましたか。」

 教令卿はうなずきながら答える。「と、いいますのも、これからの話といいますのが、あまり、ウェイリン殿たちには聞かせられないものですからね。」

 「ツィリ様には別に聞かれても構わんのでしょう?」

 ルーヴァス法務卿が聞いた。この、ボルデア教令卿の妻であるツィリもまた、アドレアと同じく、彼が“様”をつけて呼ぶ数少ない女性なのだ。すると、その問いに、ボルデアが答える。

 「ええ、まあそうなんですがね……。別にこの場にツィリがいたとしても、ウェイリン本人に話すようなことはしなかったでしょうが。このことは、あの3人の家人たちにしても同じことだとは思います。ですが、ウェイリン1人だけを追い出しただけなら、彼女が変に勘づくかもしれませんからね。……だからツィリと一緒に連れて行かせているんですよ。」

 「しかし……」

 シャンベリオン領主の弟は、渋面を作って言う。「ウェイリン殿は、ウェルティラン、お前の血を引いているのだろう?……だったら、たとえこの話し合いのことを知っていても、そのことをきれいに包み隠している可能性が高いぞ。……だって第一ウェルティラン、お前は嘘をつくのがうまいだろう?」

 すると、今まで発言のなかった彼女の父親は、不本意そうに顔をしかめると、こう言った。

 「おいおい……それは心外極まりない言葉だな、ルーヴァス。私は嘘をつくのが下手だし、何よりも苦手なんだ。何しろ私はとてつもなく正直で、純粋な心の持ち主だからね、まったく嘘なんてつけるわけがないんだよ。」

 と。それを聞いたボルデアとルーヴァスは2人揃って頭を抱えてしまっていた。……まったくよ、その言葉からして既に大嘘だろうが。それに、本当にウェルティランが、“とてつもなく正直で、純粋な心の持ち主”だったら、他の人たちはきっと、全員神の領域になっているものに違いないな。もしもそうなったら、この国から、そして、この世からも犯罪だったり、戦争がなくなっているはずだろう……、と思った。さらに、……ああ、ウェイリンに、父親のウェルティランの性格が少しでも遺伝していなければいいが……、もう顔はある程度似てしまっているからまあ、しようがないとして……、とも思っていた。しかも、ウェルティランはウェルティランで、ボルデアとルーヴァスの2人が急に沈黙してしまったのを、別の意味にとっていたらしかった。さらに続ける。

 「心配するな、2人とも。俺は曲がりなりにも、ウェイリンの父親だ。自分の娘のつく嘘を、どう見破ったらいいかくらい、とっくの昔に知っている。」

 「一体それは何だ!?」

 「いいから早く教えろ!そんなもったいぶっていないで!」

 教令卿と法務卿が揃って聞いた。ウェルティランは、ルーヴァス法務卿曰く、もったいぶってたっぷりと間をとった。

 「これは私どころか、システィ・ヴェルシュ――お前たちも会っただろう、ウェイリン付きになっている、あれよりも2歳年上の家人なんだが――も知っていることなんだ。……ウェイリンはな、嘘をついているところだけが、不自然に早口になるんだ。しかもウェイリン本人というのは、そのことに全く気がついていないときている。だから、そのことについて確かめて聞いたときの、娘の反応を見ればいいわけだ。それだけで分かる。」

 それを聞いて、ボルデア教令卿とルーヴァス法務卿は、なるほど、とうなずいた。すると、ウェルティランが急に顔をしかめ、手を目頭にあてている。何事だと思った2人に、沈痛な口調で、彼は絞り出すように続ける。

 「しかもな……。それは、アドレアも同じだったんだ。」

 と。2人は、ああ……というようにまたうなずいた。そういえば、確かにそうだったな、と。彼らは、友人の亡き妻を思い出していた。

 すると、そうしている間に、ウェルティランの顔から、沈痛な表情は消え、宮中でも一、二を争う有能な官吏の顔になった。

 「さてと……それじゃあ、例の話をすることにしようか。まずルーヴァス、例の件については、どのくらいまでをつかんでいる?」

 同期及第の友人は、帳面を開いて答える。

 「うん、ま、監察局と協力して事に当たっているからね。いろいろな側面から調べているから、かの人物について、かなりのところまでつかめてはいるんだよ。……ただな、まだまだ弾劾の場に、動議として持ち出せるまでには証拠としては弱くてね。まだ出すわけにはいかないが、もう少し証拠が揃えば、出せるところまで持って行けると思う。」

 「そうか……。しかし、そっちの件はどういうことになってもいろいろと出てくるだろうからまあ、いいだろうけど。あと、“指導権”については、一体どこまで進んでいるんだ?」

 今度は、教令卿が答えた。

 「ああ、それについては問題ないよ。もう完璧なものになっている。そいつの屋敷内からの協力者もいるし、またここ最近で、2つばかり、この宮城内で不審なことも立て続けに起こっているからね。」

 ボルデア教令卿曰く、“不審なこと”というのは、例の2人の局長――王府省官吏局と総務局――が、突然に消息を絶った、というものだ。第一試験終了後に官吏局局長が、そして第二試験終了後に総務局局長が行方知れずになった。それぞれの屋敷にもいないし、また、宮城に出仕してもいないのだ。……どこかで拉致でもされたのではないかというのが最近もっぱらの噂になっている。また、それぞれの局長の部下たちは、例の“指導権”を無視した報復を受けたのではないかとも噂している。

 「ふうん……そうなのか……。うん、これは使えるな。まあ、2人の局長には悪いけれどな。それじゃあ早速明日の夜にでも、この問題について深く関わっているだろう、監察局長官閣下と、大蔵卿にも、ご来邸をあおぐことにしようじゃないか。」

 「いや、それはちょっとまずいぞ、ウェルティラン。」

 前国璽尚書副官、そして、前ヴィンドリル・リンディラン侯爵の言葉に否をつけたのは、彼のいとこだった。教令卿ボルデアは、そのままさらに続ける。

 「……いいか、考えてもみろ、ウェルティラン。これだけの宮廷高官が連日ここに来ていては、何か怪しい、勘づかれているかもしれないと向こうに考えさせてしまうかもしれないからな。……まあ、今日のところはまだ、ウェルティランお前と同期及第の友人である、ルーヴァス殿だから、まだいいかもしれないがな。だが、大蔵卿と監察局長官閣下は、どうかと思うがな。」

 「……」

 いとこの言葉を受けて、考え込むウェルティラン。「……分かった。じゃあ、明日の話し合いはなしだ。一応、証拠がある、ということでいいんだな?」

 前ヴィンドリル・リンディラン侯爵は聞いた。法務卿に、この前教令卿との話し合いの中で出てきた、リンディラン州でつかんだことを話し終わった後のことだ。ルーヴァスは聞き終えてから、ゆっくりとうなずいた。

 「ああ。まあ、遅かれ早かれ、確実な証拠が上がってくるだろうし、今にしたところで、追及するには充分なものがあるんだよ。ただし、状況的なものだけでしかないけどな。だから、やり方としては、まず謁見における指導権について動議を出して揺さぶって、たっぷりと追及した後、その次に例の件を出して追い詰める、というところだな。……まあ、大蔵卿と監察局長官閣下を交えて話をするのは、新人官吏殿(ウェイリン)が働き始める、始月1日以降まで待っている方が、何かにつけていろいろいいだろうな。」

 と、ルーヴァスは言った。それから席を立つ。「さて、と……。もうかなり遅くなってしまったことだし、今日はもう終わりにしようじゃないか。この後については、さっき言ったお2人を交えてからだ。始月にもなれば、もうウェイリン殿も宮城で働き始めるはずだからな。だから彼女が宿直の日を選んでやることにしようじゃないか。」

 その言葉に、ボルデアとウェルティランはうなずきながら立ち上がった。ウェルティランが1歩踏み出して言う。

 「いや……ルーヴァス。今日は遅くまで付き合わせてしまって、悪かったな。忙しいだろうに。」

 法務卿は、片頬で笑い、片手をヒラヒラと振った。

 「いやいやそんなことはないよ。例の件についちゃあ、多分、というか絶対、俺がいなければ全然話が進まなかっただろうから、気にしてないよ。それにウェルティラン、お前のご自慢の娘殿にも会えたからな、その点でもよかったと思っているよ。……それにお前は、この問題が済んじまったら、すぐにでもリンディラン州に帰って、侯爵名代としての仕事を始めちまうんだろうからな、その前に少しでも話せてよかったとも思うし。……なあウェルティラン、お前はまた、いつかまた、たまにはここにも来るんだろう?」

 「どうかな……。まあ、どちらにしてもそうなるのは多分、早くてもあと1年かかるぞ。」

 「フッ」

 ルーヴァス法務卿は数回うなずく。「いつになろうが、それは構やしないさ。……まあ、もしもそうなったときには、ほんの少しでいいから、ラフェイス=

シャンベリオン辺境伯家の王府屋敷にも顔を出してくれないか?……まあ、ここで出されたような夕食はとてもではないが出せないけどな、それなりにもてなすよ。……それで、その時には、今日したような政だとか、権謀術数だとか、そういった辛気くさい話でなしに、もっと……楽しい話をしよう。」

 法務卿がそう言うと、侯爵名代は微笑し、うなずいて、

 「ああ……ま、“その時には”という話だがな。」

 と、答えた。ルーヴァス法務卿もまた、それを聞いて微笑して応える。同期及第の友人はさらに言う。

 「……ツィリ殿やウェイリン殿にも挨拶をしていきたいところだが、この話し合いがあったから、やることが山積みになっちまっているからな、今日はお2人には、無礼をして帰ることにするよ。……すまないけれど、ボルデア殿もウェルティランも、ウェイリン殿とツィリ殿には、このことを伝えて、また、よろしく言っておいてくれないか?」

 2人はうなずいた。そして、彼らに見送られるようにして、ルーヴァス法務卿は帰って行った。


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