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第1章 突然の蒸し返し

 10年後————。

 ウェイリン・テネール・ヴィンドリルは、15歳になっていた。今年の紅葉月19日を迎えれば、16歳になる。彼女は今でも、リンディラン州の州都ルテティアにある侯爵本城内の宮殿で過ごしている。勉強したり遠乗りしたり剣を習ったり……。もうすっかり、田舎貴族令嬢である。

 そんな彼女の生活は、いつもいつも毎日毎日同じことの繰り返しのようなものであったが、ウェイリン自身としては、そんな生活が大のお気に入りだった。いつも同じ時間に起床し、ウェルティランや州官達と話して、読書をしたり遠乗りしたり音楽をやったり……という生活だ。さらに、このリンディラン州というところが、山脈の造形美で有名なところだけあって、とても自然は豊かなのだ。そして、人々も穏やかである。内心では彼女は、……もう、中央王府に行かないでも、リンディランの侯爵位を継いで、ここで領主をやって一生を送るっていうのも、いいかもしれないなあ……と、思い始めていた。

 しかし……。よりにもよって彼女自身の父親が、それを妨害することになったのであった……。


 10年前のあの日と同じくらい、よく晴れた日だった。この日は、ウェイリンがラッティカ将軍と剣稽古したあの日の、翌々日だった。

 朝のひと時……。ウェイリンは、父親が城にいる時にはいつもウェルティランの執務室にいて、のんびりといろいろなことを話すのが日課となっている。その父親がランゲールに行っていていない時には、その相手は彼女付きになっている家人か、侯爵補佐あたりになる。

 そしてこの日も、父と、天気のこと、王府のことなどを話していた。そして、しばらくして、話題がなくなって、ウェルティランは本格的に執務を始めて各州官達と話し始めると、ウェイリンは、そこらへんにある本を取り、少し離れた椅子に座って、読むのである。

 「ウェイリン、」

 ふと、ウェルティランが、娘を呼んだ。彼女は一つ返事をすると、読んでいた本を閉じると、すぐに行った。そして、ウェルティランがついている机の正面4、5歩下がったところで片膝をつくと、深々と頭を下げ、胸の前で両手を組み合わせた。……この国での、目上の人に対する最上級の礼のし方だ。

 ウェルティランは、そんな娘を見ると、少しく目を伏せて、椅子の脇を示した。——ここに来い——ということだ。彼女は示された通り、姿勢を低くしたままで父親の椅子の横に行き、同じくらいの間をもって、また同じ礼をする。

 頭を下げながらも、ウェイリンは今、妙な既視感に襲われていた。

 ……あれ?……これと全く同じようなことが、それが何なのかはよく思い出せないんだけど、ずっと前にもあったような気がするんだけどな……。

 と、内心で彼女は思っていた。ウェルティランは、そんなことをじっと考えているウェイリンを、こちらも同じようにじっと見つめている。そして、

 「……もう私を見上げて、あの笑顔を見せてくれないような年になってしまったのだなあ……。」

 と、一つため息をついてから、やたらとしみじみとした口調と表情で言った。ウェイリンはそれを聞いてはっとした。随分と頭を下げたその下でまじめくさった顔をしていたらしいと、自分でも気がついた。そうして、すぐに顔を上げ、慌てた様子で二コリと微笑む。それを見たウェルティランも、ようやく笑った。父親の、娘と同じ茶色の髪が、表情に合わせてわずかに揺れた。

 しかし、ウェイリンの中では、あの妙な感じは全く消えていなかった。……いや、むしろさっきの父親の言葉で、より一層ひどくなった……とした方がこの場には合っている。

 ……何っか同じようなことがあったように思うのよね……。うん、そうそう、絶対にあったわ。確か、10年くらい前だったように思うんだけど……。ええっと、それで、父様に、『大きくなったら、一体何になりたいんだい?』って聞かれて、それで私は……、……?

 ……?

 ……あれ?……そういえば私は、父様に何て答えていたんだっけな?……少しも思い出せない……。

 ここでウェイリンは、いろいろと、思いつく限りの思い出す事の出来ない原因を次々と列挙していった。

 理由その1:話をした当時、やたらと小さかったから(←しかし、その他のことについてはいろいろと覚えているのでこれはありえない)。

 理由その2:その時、とてもどうでもいいことを答えていたから(←それだったら、そもそも、父親に将来のことについて聞かれたこと自体、覚えていないはずなのでこれもまた却下)。

 理由その3:思い出すことさえも恥ずかしいことを答えてしまっていたので、“思い出せない”のではなく、逆に、思い出すことさえも妨げているから(←うん、それが一番納得がいく)。

 ……と、これらのようなウェイリンの脳内会議によって、“理由その3”が妥当とされた。

 一方、その間にもウェルティランの話は続いている。

 「……確か……。ずっと前に、そう今日みたいな天気のいい日だった、『大きくなったら、一体何になりたいんだい?』って、聞いたことがあったっけねえ……。ね、ウェイリン?」

 と、ポツリとウェルティランが言った。一体あの時どのように答えたかをすっかり忘れてしまっているウェイリンでも、さすがにそのことは覚えていたようである。けれども、肝心の自分の答えを忘れてしまっているウェイリンは、1つうなずいてから、こう言った。

 「でも……、それって、かなり前——私が覚えている限りだと——10年くらい前だったように思うわ。そんなに経っちゃっているから、もう、父様になんて答えたのか、さっぱり思い出せないわ。」

 と。しかし、その言葉を受けて答えたウェルティランの一言によって、ウェイリンは、あの時何と答えたのかを完全に思い出すことになる。……いや、もっと正確を期して訂正するとなると、“強引に思い出させられることになる”とした方が、状況的には合っている、と言えるかもしれない。

 「……ウェイリンは、はっきりと大きな声で、しかもと~ってもかわいい笑顔で、『この国の宰相!』って答えていたっけなあ……。それで……。」

 「やめて!やめてったら父様!そんな昔の話を!」

 ウェルティランが、親バカ丸出しといった顔でさらに続けて言おうとすると、ウェイリンは、思わず大声で叫び、話を遮ってしまった。そのあまりにも切羽詰まった声は、ちょうど執務室前を通りかかっていたこのリンディラン州官、州武官達にも聞こえていた。彼らは思わずその声に足を止めてしまうほどだった。しかし、その声が、リンディラン侯爵の姫君のもので、聞こえてきたのが当代侯爵の執務室だ、ということが分かると、安心して、微笑さえも浮かべながらまた歩き出すのだった。……ああ……、いつものアレですか……、などと思いながら。

 一方、執務室内では、娘に大声を出されたウェルティランが、驚いて目を丸くしている。

 「おいおい……、いったいぜんたいどうしたんだい、ウェイリン。少しは落ち着け。いきなり大声を出すからびっくりしちゃったじゃあないか……。……まったく、厨房や、この城の湿っていて薄暗いところならどこでも出てくるあの黒か茶色のすばしっこい虫を見てしまった時以外は、もう叫んだりはしないだろうなと思っていたんだがな……。……そうだ、いや、それにしてもウェイリン、知っているか?その黒か茶色の虫ってなあ……。」

 「その話もやめて!」

 さらにウェルティランが意地悪くニヤリと笑いながら続けて言おうとするのを、ウェイリンは必死になって止めた。その様子には、さっきみたいにある程度冷静に受け答えしていた様子は、みじんもなかった。なぜか?それは、こうなったあとのウェルティランの話が、いつもいつも同じ、決まりきったパターンになってしまうからだ。つまり、ウェイリンがその虫がとても大嫌いなのにつけこんで、その黒かったり茶色かったりする虫について散々、いろいろと聞かせるのだ。今でも聞かされると、彼女は背筋がさあーっと寒くなる思いがする。今ではもう、“父様が面白がって、その話をしているとしか思えない!”という境地にまで達してしまっている。父親――そのように娘に思わせてしまった(というよりはむしろ、それは全くの事実であるのだが)張本人――は、ため息をついて、言う。

 「まったく……、ねえウェイリン。今日は一体全体どうしたというんだい?……ふうっ、まあいい。私は別に、そういうことを今さら話そうとしていたわけではないしな。」

 と。そしてさらに、「……ウェイリン、お前は、当代国王陛下に謁見してみる気はないか?」

 と、聞いたのだった。

 それから一瞬の後――ウェイリンの頭の中は真っ白になってしまっていた。それはもう、今目の前にその虫が出てきてもならないだろう、といえそうなほどのものだった。口をポカンと開け、

 ……は?

 と、声にならない声で言っていた。


 ……。

 ……。

 そのままの状態で固まったまま、沈黙が数分続いていた。ウェルティランはウェルティランで、“フフン、どーだ”と言わんばかりに自分の言葉が与えた効果を確かめている。そして、ウェイリンはウェイリンで、さっきから一言も発せられなかった。さらに、考えさえも少しばかり混乱していた。今の、ウェルティランの頭の中は、こんな感じだった。

 (……ククク、どうだウェイリン?父親からきちんと、正式に国王陛下に謁見、そして、中央官吏になってよいというお許しが出たゆえ、もうその喜びでいっぱいになって、言葉さえも出てこないと見える。フフフ……、やはり、中央に行きたがっていた、というのは、本当だったのだな……)

 対して、ウェイリンの頭の中。

 (……え?ちょっと待って。まさか、国王陛下との謁見って、毎年1回ランゲールで、中央官吏を採用するために行われているあれのことよね。それと同時に、軍務省兵部主催で、やっぱりランゲールで行われる、武官採用試験も行われるって聞いたこともあるけど……。あ、いや、これは別に関係ないか。えっと、えっと……。それで、その謁見で国王陛下及び高位顕官達の覚えがめでたかったら、末は宰相か国璽尚書、さらには王佐までも夢ではないっていうあれのことよね。

 ……でも、どうして父様はその“謁見”を受ける気はないかって、いきなり聞いたのかしら……?)

 ウェイリンとウェルティランの考えは、気持ちのいいくらいに思い切り食い違っていた。その程度はちょうど、“雨と飴”、“端と橋”レベルのようなものだ。しかし、そう思いながらもウェイリンは、先ほど思ったことの前半部だけを聞いてみた。ウェルティランはにっこりして、うなずく。

 「ああ、その“謁見”だよ。」

 と、またしても穏やかに言う。

 「……でも、何でまたいきなりそんな話をするの?」

 聞かれたウェルティランは、ん?というように顔を上げて、 

 「だって、ウェイリン。お前は、このブルグリット王国の宰相になりたいんだろう?……前にも言っていたが。」

 と言う。このウェルティランの言葉を聞いて、ウェイリンは驚いたと同時に、ひどく呆れもした。

 「あ、あれはたった5歳の子どもが言ったことよ。父様、まさかとは思うけどその“5歳の子どもの言葉”を、10年間ずっと真に受けて、信じ込んでいたんじゃないでしょうね?」

 と、机に手をついて聞く。ちなみにこの、“5歳の子ども”というのは、言うまでもなく、ウェイリン自身のことだ。そういう事実を全て棚の一番上にまで上げてから言った。これでさすがのウェルティラン、父も、引きさがらざるを得ないだろう……、と、彼女は思っていた。しかし、それは違っていた。しかも、さらに、ウェイリンの方が引きさがらざるを得ないことを、父親は言った。

 「……それだったら、どうして最近、謁見に向けての勉強をしていたんだ?……まさか、気付いていなかった、なんてことは言わせないぞ。……あ、いや、まあ……本当のことを言うとだな、実は私が指示してやらせていたんだがな……。」

 ……気付いていなかったも何も、ね。いつもいつも来る先生が、作法関係だとか、弁論術の先生になっていれば、誰だって気がつかないわけがないじゃないの……、と、ウェイリンは思ったが、口に出すことはできなかった。というのも、父親がさらに、言葉を続けたからだ。

 「……もし嫌だったり、気が乗らなかったら、はっきり家庭教師なり、侍従なりに言って、その時間にやっていることを変えることだってできたはずだ。なのにそうはしないで、お前はずっとやり続けている。……まあ勉強用にある程度量を調整させはしているが、それでも謁見での問答というのは、やろうとすると結構な気構えがいるんだよ。しかも――これは、娘に言ってもいいことかは分からないのだが――、受け答えはいい。……ウェイリン、その胸に手をあてて聞いてみるがいい。お前は本当のところ、中央王府に行きたいんじゃないのか?王府ランゲールに行って、そこで、官吏として働いてみたいんじゃないのか?そうでなければ、そんなにやるわけがないし、ここでだって、そういった関係の本も読んでいるわけがないからね。……どうなんだい?」

 そう、最後に、口調だけは優しくして聞いたウェルティランは、もう、さっきまでのように笑ってなどいなかった。真面目な問いだということが、ありありと、ウェイリンにも分かった。彼女は、ゆっくりと息を吸って、それからまた、ゆっくりと吐き出しつつ答えていく。

 「……そうよ、父様。……私も、王府に行きたいわ。……ここでリンディランの領主を継いで、領地経営をしていくのもいいけれど、官吏として、この国の政治にも加わりたいのよ。……父様に聞かれた10年前のあの時は、ただ単に憧れだけで言っていたの。だけど、6年前から今までは……、そういう――うーんと、何て言ったらいいのかしら――そう、ふわふわとした、頼りないものじゃなくて本当に、王府に行きたくなっていたの。……あの時……、王位争いの内乱から帝国との戦争まであったけど、幸い、ここルテティア城は陥とされなかったわ。でも、このルテティアの城の窓から見ると、毎日毎日――見えないけれど分かるのよ――どこかで誰かが死んでいたの。その人達にしたって、あの時死ななくてもいいような人たちばっかりだった。死ななくてもいいような人たちが死んでいく……、そんなのは嫌だと思ったわ。……こんなことを止めるには、中央王府に行って、高位に昇るしかないと思った。……ううん、今でもそう思っているわ。」

 うつむき加減にぽつりぽつりと言っていく。あの時の記憶を呼び覚ますのは、とても辛かった。突然にたくさんのいろいろなことが出てこないように、必死に注意しつつ、続けた。

 「……だから今は、本当の意味で、“この国の宰相”になりたいのよ。10年前の、ただの憧れからではなしにね。それで、もしもなれたら――いや、これはどの官職についても官吏全てっていうことよ――、あんなことが、もう決して、二度と起こらないようにしたい。」

 ウェルティランは、ウェイリンの言葉が終わっても、すぐにはなにも言わなかった。途中からずっとうつむき加減になり、言葉をいろいろと探しながら話していたウェイリンは、……あれ?父様黙り込んじゃってどうしたんだろう?……と思って、父親の方を見る。当の父親であるウェルティランの方は、ウェイリン以上にうつむいていた。そうして、肩をひっきりなしに震わせている。さらにうつむいた頬には、流れるものがあった。

 ……泣いているのだ。

 それを見たウェイリンは、一瞬顔を思い切り引きつらせると、……始まった……とも思った。すると、ウェイリンは、数秒後に訪れるであろう自分の運命(?)に対し、静かに心の準備をしていた。何となく、その場の空気までもが、急に重苦しくなってきたような気までしてきた。そして、その空気は、早くこの場から逃げるようにと、彼女に教えているかのようだった。

 今回は、6秒後だった。

 ウェルティランは、さっきから身構えているウェイリンをガバッと抱きしめると、頬ずりをして、さらに泣きだしたのだ。……どうも、直前までの彼女の行動から察するに、こんなことになるのは、初めてではないようである。それはその通りで、さっきのような前兆があると、いつも必ずこうなってしまうのだ。だから彼女は、“前兆”が出た時にはいつも、その後に備えて心の準備をするようにしているのだ。まだウェイリンが小さかったころには、ウェルティランがこのように泣きだしたら、

 『泣いてるの?』

 とか言って、懸命に(しっかりと抱きしめられていて、父親の腕の中で思うように動けないのだ)頭を撫でてあげたりもしていたものだが、今となってはそうするほどの純粋さは、もはやウェイリンにもなかった。

 「わっ!ちょ、ちょっと!……父様、誰がいつここに来るか分からないんだから、離してよ!それに第一、ここは執務室なんだから。……あっ、ちょ、くすぐったいよ髭があたって、……わわっ!父様!髭を変なところに入れないでよ!」

 首筋に父の口髭が入りこんだので、ウェイリンは驚いたのとくすぐったいのとでそう言った。そして、言いながらも、何とか父親を自分から引きはがすべくいろいろと抵抗をしているのであるが、ウェルティランの方では全く言葉は聞こえていないし、また、抵抗にしても、効いている様子はない。それどころか、ますます娘を強く抱きしめているのだ。そうして、泣く。

 「うううう……、ウェイリンが、よもやそこまで考えて……いたとは……。私さえも思っていなか……ったぞ。……父さんはとても感動したぞ……。」

 ウェイリンに聞き取れたのは、残念ながらここまでだった。では、その後はというと、もう何を言っているのやら、さっぱり分からない、という状態になっていた。ただ、抱きしめ、頬ずりして、泣きながら、訳のわからないことをずうっとつらつらつらつら言っているだけだ。

 ウェイリンは、何が何でもウェルティランを引きはがそうと懸命になっていた。何といっても、ここは侯爵宮殿内の私的空間ではなく、公的空間たる前宮殿のヴィンドリル=リンディラン侯爵の執務室なのである。なので、いつ何時、誰がやってくるかしれないのである。なので、そうしようとしていたのだが、今はもう43歳とはいえ、若いころ、そして、6年前にも戦場を駆け回っていたというウェルティランの方が、当然力は強かった。ウェイリンにはもう、どうすることもできなかった。……習った柔術ででも、どうにかできるかしら……?と思ってやってはみたが、それ自体できるようなすきもなかった。彼女はとうとう完全に諦めてしまった。と、彼女が恐れていた最悪の事態が発生した。

 というのは、他でもない、執務室のドアが急に開いて、このリンディラン州府に努める役人が入ってきたのだ。その音に気付いていたのはウェイリンだけで、肝心の当代侯は全く気がついていない。

 「閣下、領内各地の書……」

 そう言いかけて、途中からビシッと固まったような気配がした。ウェイリンは、ウェルティランに抱きしめられている関係で、ドア近くの様子は見えていない。だがどうも、その役人は、“領内各地からの書状でございます”とでも言いたかっただろうことは、彼女には容易に想像がついた。しかし、言いかけて固まってしまった、あの感じからして、このヴィンドリル=リンディラン侯爵家に代々ずっと仕えてきた家の出身ではないこともやはり容易に分かってしまった。……うわー、本当に最悪!……と彼女は思った。……これがもし侯佐さんだったら、ホッホッホ、とか笑いながら、“なかなか、想像をかきたてられるような光景ですのう……”とかなんとか言って何も見なかったことにしてすましてくれるけど……とも。

 そして、彼は案の定、バサバサッと書類を落っことし、

 「し、失礼致しました。」

 と、慌てた様子で言った。そして、次の瞬間には、

 バタン!

 ……執務室のドアが外れんばかりに激しい音をたてて閉じられていた。後には、思わぬいきなりの音に驚かされてすっかり感動もどこかに吹っ飛んで、泣きやんでしまったウェルティランと、……ああああ……、何かあの人に誤解されたかも……、と冷や汗をだらだら流しながら頭を抱えこんでしまった当代侯の娘のウェイリンだけが残されていた。


 当代ヴィンドリル=リンディラン侯爵である父親と、次期ヴィンドリル=リンディラン侯爵となる姫君の“見てはいけないもの(ただし実際は、全くそういうものではないのだが)”を、ほんの目の前数十歩のところでうっかり見てしまった州府官(名前は、サーヴァン・ボーン。リンディラン州の内務局に王府から派遣されている官吏だ)は、そのすぐ後に、辞去のあいさつもそこそこに、慌てて執務室を出て行った。その時に、何やら書類とかなんやらを大量に落っことしていったような気がするが、そんなことには今や一切構ってはいられなかったのだ。ものすごい勢いで歩いている自分を見て、他の官吏や武官がどう思っているのかなど、お構いなしだ。彼はできる限り、執務室から離れたかった。さらに、もしもできることなら、今すぐにでもここへの派遣を取りやめてもらって、他の州なり、王府なりに行きたいとさえ思っていた。

 このサーヴァン・ボーンは、さっきウェイリンが推測していた通り、代々このヴィンドリル=リンディラン侯爵家に仕えてきた家の出身ではない。彼は、初代の栄達以来、数多くの官吏を輩出してきた、王府、ランゲールに本家のある、ボーン準男爵家当主の長男だ。

 まあ、こんなことはどうでもいい。彼は、2年前に、25歳で国王との謁見をし、見習い期間を経て、ここに派遣されてきたのだ。つまり、ここリンディラン州が、初めての派遣先だったわけだ。サーヴァンは今、あのようなとんでもないもの(?)を見てしまったために、思考がぶっ飛んでしまっていた。彼は今や、完全に勘違いしてしまっていた。つまり、ウェルティランの癖だとか、そういうものを一切知らされることなく、いきなりあのようなものを見せられてしまったのだ。サーヴァンは、強歩しながらも考えていた。

 ……まさか閣下と姫様が、あのような“禁忌の関係”にあったとは……。始月からここに来ているというのに全然知らなかった……。他の方々は、このことをもう知っていらっしゃるのだろうか……?いやいや、他の方々は知っていらっしゃるわけがない。あんなことは、いろいろな話にも出てこなかったことだし。だから、このことは私の胸三寸に納めるべきことなんだ。……うん、そうとも、きっとその通りだ、そうやった方がいいに決まっているんだ。何しろ、建国から続いているお家柄だし、領主貴族直系家だし、さらにその中でも、あの最高官職である“摂政”に就くことを許されている家の1つなのだからなあ……。このことが外にもれてしまっては、いたくまずいことになってしまうのは目に見えているしな。ああ、待てよ、そういえば王府の本家から……、ああ、いや、これはどうでもいいことか……。しかし、どうするべきだろうか……?

 悶々とした問いを、誰かに聞くまでもなく自分の中に抱え込んでしまったために、いっそのこと守り抜くために死んでしまおうか、というところまで考えつくした時だった。廊下を曲がってこちらの方に歩いてくる年とった男を認めたのだ。侯佐の、イーヴェル・アラテドールである。彼の方はというと、代々ヴィンドリル=リンディラン侯爵家に仕えてきた家の出身だ。何でも初代は、建国時、初代リンディラン侯爵であった、ルスティール大侯の第一の臣だったそうだ。

 彼ほど、63歳という年齢と、風貌が似合っている人はいないだろうな……、侯佐を初めて見た時に、サーヴァンはそう思ったものだ。先代侯爵の頃には、“リンディラン/ルテティアの用心棒”と言われるほどの武勇を州内各地に轟かせていたそうだが、今の穏やか隠居老人然とした様子からは、全く想像できないなあ……と、彼は思っている。

 サーヴァン・ボーン官吏は、……侯爵閣下の右腕でいらっしゃる侯佐殿なら、このことをお話ししても大丈夫だろうし、また、閣下を諫めても下さるだろう……と思った。なので彼は、

 「侯佐殿、」

 と、呼びとめた。アラテドール侯佐は、歩きながら何やら考え事をしていたようだ。声にピタリと立ち止まり、ややあってから顔を上げた。

 「……おお、ボーン殿ではないか。」

 低い声ながらも、はっきりとした聞き取りやすい声で、侯佐は言った。言葉とともに、口元を覆いつくしている白く長い口ひげが揺れる。サーヴァン・ボーン官吏は、言おうか言うまいかと少々逡巡していたが、やがて、

 「……あの……、少々お時間、よろしいですか?」

 と、聞いた。アラテドール侯佐――当代侯爵曰く、『私のよき侯佐』――は、少々怪訝な顔をした。そして、そのことについて聞こうともした。しかし、サーヴァン・ボーン官吏のただならない様子を見ると、すんなりとうなずいたのだった。


 「……あああああ~~~~~……。あの人に完全に誤解されちゃったわよ……。」

 うなだれつつ、こう言ったのはウェイリンである。そんな娘に対して、父親であるウェルティランは、まったくもって、何が何やら分からない、という感じで、きょとんとしている。

 「……どうしてだ?私が最大級の感動を娘に表していた、というのに、それを一体何に誤解するというんだ?」

 なんて聞いてくる始末だ。ウェイリンはそれを聞き、ぐりぐりと、こめかみをもみほぐしていた。……どうして、娘である自分でさえも、何となくでも分かるものが、何で父様には分からないのだろう……?……はっ、もしかしたら、私は養子だったりするのかしら?そうでなかったら、母様の連れ子だったりして……と、思っていた。しかし、このまま問答を続けたとしても、ウェルティランが分かってくれるような保証はどこにもない。むしろ、このまま問答を続けると、ウェイリンの方が疲れてしまいそうだった。なので仕方なく、ウェイリン自身にとっても、おぼろげでしか分からないものを、父親に説明した。

 「あの……。つ、つまりね……、あれよ。……うーん、だからね、父様と娘の私が、“そっち”の関係だって思ったのよ、あの人は。……ああもう!実の娘にこんなこっ恥ずかしいこと言わせないでよ!」

 心のうちではそういうように思っていても、言葉では、“実の娘”と言ってしまう。そして、耳まで赤くなりつつ、ため息をついた。

 「……ハァ~……。もう、父様のせいよ。……別にさ、こんな誰が来てもおかしくないようなところで感動を表さなくったってさ……。別のところでやったってよかったんだから。」

 と、ウェイリンが言うと、

 「私は、自分の心の中に渦巻き起こった感動というものを、その場ですぐに表す主義だ。」

 ……と、ウェルティランは平然として言ってのける。この言葉を聞いている限りではどうやら、ウェイリンの言わんとしているところも、全然、分かっていないようである。そんな父親を前にしてその娘は、……どうして中央の王府ランゲールじゃあ能吏と言われているような父様が、こんな単純なことが分からないのかしら?母様……、よくこんな父様と10年くらいも付き合っていて、しかもその内で8年も夫婦をやっていたわね……。私は今ほど、父様と親子をやっていくのが大変だって思ったことはなかったわよ……。1回、父様の心がどうなっているのか、見てみたいものだわ……、などと考えていた。

 「……うむ……、まあ……、それはそれでいいとしてだ。」

 コホン、と軽く咳払いを2、3回して、ウェルティランが言う。……なあにが、“それはそれでいいとして”だよ……、と、ウェイリンは心の中で毒づいている。それを全く知る由もなく、父親は聞いた。

「……それじゃあ、お前は、このブルグリット王国の宰相になりたいのだね?……そして、その夢、望みは、変わらないのだね?」

 「……うん。」

 ウェイリンがうなずき、肯定の答えを言ったのを見、聞きしたウェルティランは、……そうか……、というようにうなずいた。そして続ける。

 「よし。……それなら、今年もまた、謁見が行われる。今回は、再来月の、花月10日に行われることになっている。場所は王府ランゲールだ。これも時期と同じく例年と変わらないぞ。もうそろそろで、謁見希望申し込みが締め切りになるんだが、そうであるなら――受けるということで、申し込みを送ってもいいのだな?」

 「うん。」

 さっきとはうって変わって、きっぱりと、ウェイリンは答えた。彼女の意を知った父ウェルティラン侯は、また笑ってうなずき、こう言うだけだった。

 「……うん、そうか。」


 アラテドール侯佐は、ボーン官吏の話を聞き終えた後――いや、訂正しよう、話を聞いている最中からだが――、しばらくの間沸き上がってくる笑いを我慢するために両肩を盛んに震わせ、かつ、口を固く引き結んでいた。けれども、結局のところ我慢し続けていられなくなり、とうとう、大口を開け、大爆笑してしまっていた。63歳という年齢、それから、リンディラン州侯爵補佐という要職に似合わぬほどの大笑いに、サーヴァンは最初、こういうような反応が返ってくるとは全く予想していなかったので、しばらくの間ポカンとしていた。しかし、いよいよ気を悪くして、侯佐に分からないようにそっと、顔をしかめた。

 「しかし侯佐殿、あのことがもしも他州、そして王府に知られでもしたらどうするのですか?」

 と、声をおさえて聞くボーンに、アラテドールは何とか笑いをこらえながら、

 「ククク……、ああ、いやいやすまんなボーン殿、いきなり笑ってしもうて……。しかしな、それはもうこのリンディラン州内どころか、他州、そして、王府ランゲールでも有名な話でな。恐らく知らないのは、官吏になりたてで、まだ聞いていなかった人や一般の他州の民とか、北の“諦めの大地”の民くらいのものかのう。……まあ、閣下は、ちと感情表現が大袈裟な方でいらっしゃるからのう、特に姫様に対して。だから、ボーン殿のように、何も知らなかった者がいきなりその現場を見てしまうと……、唖然とするところもあるかもしれんな。……しかし、とても久々なことじゃなあ。あのような感情表現が出るとは。……もうわしも、あれは何10回となく見てきたことだがな、また見たかったのう……。残念なことじゃ。」

 なんて言った。ボーン官吏は、特に最後の言葉に対して、すさまじいまでの驚きを表していた。そして、アラテドール侯佐の方はというと、軽くそんなボーン官吏の肩をたたきながら、

 「いやいや、ボーン殿。こういったことには、最低慣れていなくってはな、このリンディラン州州都、ルテティアではやっていけんぞ。」

 と、言った。そして、“カッカッカ……”と大笑いして行ってしまった。後には、すいと眉根を寄せ、難しい顔になった官吏が残されていた。


 時と場所は移り――。

 あれから数10日後の寒月10日、場所は王府、ランゲールの宮城内にある役所の1つ、王府省である。そして、その中の1部署、官吏局の部屋である。時間はといえば、そう、夕方の6時を過ぎたころだ。ちょうどこの日、謁見希望申し込みが終了していた。そんな官吏局に、今、7人の官人が集まっていた。7人のうち2人は、王府省の官吏だ。1人は、サラディール・マストニー子爵、官吏局の長である、局長を拝命している。もう1人は、ヘルブランディ・ジブラルタン伯爵、王府卿だ。残る五人の官人はそれぞれ、教令卿、法務卿、農務卿、法務省次官、そして、集まっている7人の中ではトップの官職である、副宰相といった顔ぶれだ。

 7人は、それぞれ思うような体勢でいる。ただ全員に共通しているのは、火鉢が必ず傍らにあるというところだ。部屋の奥には暖炉があり、その中では勢いよく火が燃えてはいるのだが、どうもそれだけでは不十分らしく、2、3の火鉢が持ってこられているのだ。

 さて、5人の官人達は、どうしてここにいるのかというと、ただ単純に、どういう者達が謁見希望を申し込んできたのかを知るためだった。つまりは、好奇心半分の物見、である。

 「今回の謁見では、どのくらいの人数を任用させるおつもりなんですかな、王府卿閣下?」

 と、教令卿を拝命している、ボルデア・テネール・ヴィンドリル伯爵が聞いた。彼は、40歳で、ウェルティラン現リンディラン侯爵のいとこなのだ。“ヴィンドリル”という、領主貴族の中でも特に高位であり、名誉でもある名門家の姓ではあっても、傍流の家の出身である。彼の父親――つまり、第54代侯爵の弟だ――が、リンディラン州を出て、中央王府ランゲールで官吏をしていたのである。だから、直系の侯爵家本家と区別するために、爵位も一階級低い、伯爵なのだ。ちなみに、枝分かれしていった傍流のヴィンドリル家の当主達の爵位は、全員伯爵となっているのである。

 37歳の局長が答えた。

 「通常は百人程度になっておりますが、今回は、現王陛下の御世初の謁見、ということもありまして、200人まで及第とするように致しております、閣下。」

 「最大枠はそのくらいとして、どのくらいの人が御覚えめでたくなるか、は国王陛下の御心のまま、ということになりますな。」

 局長に続き、56歳の、王府卿が言った。マストニ―の方は、少しばかりやせぎすであり、見るからに怜悧そうな印象を与えている。逆にジブラルタンの方はというと、恐らく彼を見た人は、穏やかな人柄、という印象を受けるだろう。少し太り気味だからか。

 「ううむ……。まあ、陛下の御世初ということで、いくらか及第枠が大きくなっているとはいえ、相変わらずの“狭き門”ですねえ……。」

 と、副宰相である、グレッフェン3世・トーランディ・クオレッシェア辺境伯が、つぶやくように言った。今年で46歳という彼は、この歳で副宰相として、宮廷内でも重鎮の中に入る男である。しかも、彼は同時に、王国西部にあるツァズーム州、辺境伯領の領主でもある。さらにここまで上がってくるのに、10年かかっていないというのだから驚きだ。長身で、おまけに痩せている。しかし顔は苦み走った渋い中年、といった感じである。

 「そうですね、副宰相閣下……。私も、聞いたところでは、今年度の謁見には、1500人も志願してきたそうで、その中からあの人数しか及第できないのですからねえ……。」

 「正確には、1502名、になりますな。」

 この中では唯一の女性官吏である、法務省次官の、エレーナ・フィルヴィッツ准男爵が相槌を打つと同時に、マスト二―子爵がすぐさま訂正し、どうやって覚えていたのかと聞きたくなるような数字を言った。

 ……女性なのに准男爵?どういうことだソレは……などとツッこまないでほしい。制度というものはえてして、そういうものなのだから。32歳の准男爵は、化粧っ気はまったくない……というよりもほとんどスッピンというような顔をしているが、いかにも能ある吏らしい、知にあふれた表情を浮かべている。

 「まあ、6年前から比べてみれば、だんだんとよくはなってきた方でしょうな……。」

 「ええ……。あの時は、先王陛下が即位されるまで、官吏採用のための謁見は、一切中止されておりましたからな。確か、再開されたのは、あーっと……、一昨年……でしたか?」

 皆はうなずく。先に言っていたのは、法務卿、ルーヴァス・アンセッラ・ラフェイス子爵だ。彼の言葉に、農務卿、エヴィンディル・プリンシェッド・セシュール子爵がうなずき、そう言った。ルーヴァスは後々になっても、頻繁に出てくることになるので、今はどういう人かは省略する。もう一人の農務卿はというと、44歳で、普段は、とても穏やかな人柄である。法務卿にしても、毒舌家で皮肉屋ではあるが、穏やかな好人物である。

 ぱらぱらと分厚く机に載っている志願表をめくって、それぞれの名前を見るともなく見ていた官吏局局長が、ある名前を見て、思わず声を上げた。

 「あ!……教令卿、あなた様の従姪(じゅうてつ)殿も謁見されるようです。……あ、あと、農務卿の姪殿もですね。……とにかく、ご覧くださいこれを。」

 そう言って、局長マスト二―は、一同にそれらを見せた。農務卿は、……ふむ……と、口をへの字にして、少しばかり難しい顔をするだけだった。……ううむ……、あのクレイがなあ、一体どういう風の吹き回しなんだ。あんなに、“王府にはできる限り――ホントはできれば一生――行きたくない”などと言っていたものだがな……、等と思っていた。

 彼はそれきり黙りこんでしまったが教令卿の方は違っていた。

 「え?……ウ、ウェイリン……。一体、これはどうしたというんだ?……こんなにもいきなり謁見を受けようだなんて……。……ま、まさか、もしかしたら、ウェルティランの奴にでも何事かそそのかされて、それで決めたのか……。い、いかん!あのウェイリンに、王府――特に宮城――の不穏極まりない空気を吸わせるわけにはいかん!こんな権謀術数が渦巻いているようなところに入ってしまったら、ほぼ確実にウェイリンに悪影響が出てしまうだろう。そうなったら一体どうするんだ?……くっそ!ウェルティランの奴め……。昔っからそういった微妙なところが全く分かっておらんのだ!」

 などと言っている。……それなら今そんなことを言っているボルデア/教令卿の方こそ、自分が今どこにいるのか分かっているんだろうか……?……と、他の6人の官人達は、心の中で呆れていた。

 しかし、ボルデア・テネール・ヴィンドリル伯爵、教令卿は、そんなことには“全く”お構いなしだった。どころか、さらに文句を続ける。

 「……大体にしたところでもな、6年前の王位争いに、さらにはそれに乗じて攻め入ってきたナルヴェンゲン帝国との戦いといった、続けざまに起こったこの2つの戦いから、まだまだ我らがブルグリット王国は完全に立ち直ってはいないのだ!……それに、一部地域、州については、まだ治安が悪いとも聞いているし。そんな中でウェイリンに道中させて、危険がないという保証でもあるのか?ないに決まっているであろうがこれが!」

 一部地域(と言ってしまうにはとても範囲が広いのだが)、州というのは、直接、または間接的に、ナルヴェンゲン帝国と国境を接している地域、州のことである。それらの中には、もうあの王位争いが終結してから6年にもなるというのに、未だに帝国が放ったスパイだったり、強盗山賊等の破落戸、そして、元からの領民にしても、生活が荒んでいる層もあるということだ。しかも、そうした地域、州の中には、ちょうど北端を実際に国境として接しているリンディラン州もまた、含まれているのだ。王府批判に続いて、自分の一族の本家批判までも始めてしまった教令卿に、他の6人の官人達はただただ呆れ返るばかりで何も言えなかった。そして、その6人の中でたった1人だけ、少々目の色を変えて、ウェイリン・テネール・ヴィンドリルの謁見申し込み票に見入っている者がいた。しかし、そんなことなど、ボルデア・テネール・ヴィンドリル伯爵、教令卿の批判に圧倒されてしまっていた彼らが、気付くはずもなかった。


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