65 遺跡を突き進む
クライヴは遺跡の中を進んでいた。
その構造はガヤルド王国にあったものによく似ている。
同一の文明、つまりアークによって作られたとみて間違いない。
しかし、このピラミッド型の遺跡の広さは、ガヤルド王国のものとはまるで違う。
あまりにも広すぎて、全てを探索するとなれば、はたして何ヶ月かかるか分からない。
無論、そんな時間は残されていなかった。
人類と禍津をまとめて滅ぼすことが出来るというアークの最終兵器。
それが起動する前にケリをつける。
「問題は上に進むべきか、下に進むべきか……」
最終兵器というからには、きっと相応の大きさのはずだ。しかしピラミッドといものは、上に行くほど狭くなっていく。
また巨大ロボットが地面を割って現われたことを考えると、目指すべきは下のように思える。
「はッ!」
クライヴは床に手を当て、灮輝力を放出する。
すると崩落が始まり、クライヴは下の階層へと落下した。
そのまま灮輝力を下へ下へと放ち続け、一気に突き進んでいく。
本来なら、この迷路を少しずつ攻略していかなければならないのだろうが、今は緊急時だ。
クライヴのやり方で行かせてもらう。
「ここが最下層か?」
辿り着いた先は、ドーム状の部屋だった。
中央に柱が建っており、そこにはキーボードや液晶パネルによく似た装置がついている。
アークのコンピュータかもしれない。
しかしキーボードを弄っても、まるで反応してくれなかった。
構造を解析してみたいところだが、それよりも気になるものがある。
地面に穴が開いているのだ。
底が深いらしく、暗闇が続いている。
「更に下がある……最終兵器はそこか?」
迷っているときではない。
まずは下に行き、何もなかったら戻ってくればいいのだ。
クライヴはそう考え、穴に飛び込もうとした――のだが、無理だった。
穴に見えたそれは、実際は穴ではなかった。
ガラスのように透明な板で覆われており、足で蹴っても割れる気配がない。
かなり頑丈な材質のようだ。
もっとも、普通に蹴っても割れないのであれば、さっきと同じように灮輝力を使えばいいだけの話だ。
足の裏に灮輝力を集中させ、ガンッと踏みつけた。
ようやく床が砕け、クライヴは透明な破片とともに落下していく。
それにしても随分と広い空間のようだ。
クライヴは灮輝力で作った光の玉を浮かべて、視界の光量を確保していた。
しかし、穴に飛び込んだ途端、真っ暗闇になってしまう。自分の体しか見えない。
今の光量では、壁まで届かないということだ。
それならばとクライヴは複数の光の玉を出し、あちこちへと飛ばす。
おかげで、ようやく空間の全容が見えてきた。
その広さは直径も深さも十キロメトロンといったところ。
小さな町ならすっぽり収まってしまう。
壁はリノリウムのように艶やかで繋ぎ目のない白色。
明らかに人工的な円柱状の空間である。
そして見下ろした先、円柱の最深部に『円盤』がいた。
ちょっと昔の特撮映画やアニメに出てきそうな形状だ。
色は真紅。
大きさは、床面積の半分以上を占めている。纐纈城すら凌駕する、途方もない大きさだ。
きっと、あれこそが最終兵器なのだろう。
大砲やミサイル発射口の類いは見受けられない。
しかし相手は超古代文明の作ったものだ。
人間の常識など通用しない。
空間を落下しながらクライヴは、相手の戦力を大雑把に想像する。
まず纐纈城以下というのは考えられない。
なにせ人類と禍津をまとめて滅ぼすと豪語しているのだ。話半分だとしても、スティングレイと互角か、それ以上。
第一、大きさが大きさだ。
どんな機能があるのかしらないが、あの図体で空を飛ぶとしたら、その時点で途方もない出力といえる。
「さて、まずは小手調べといくか」
落下中という不安定な状態だが、何もしないで見ているというのも芸がない。
クライヴは灮輝力で身の丈ほどもある光の矢を形成し、円盤に向けて発射した。それも十連発。
それは城すら崩壊させるだけの威力を持った攻撃であったが、やはり効果はなかった。
全て直撃したというのに、ほんの少し焦げ目を付けただけ。
円盤の装甲自体はへこみもしていない。
もっとも、これは予想どおり。
人類を滅ぼす兵器が、この程度で破損するなど初めから思っていなかった。
やがてクライヴは床に着地する。
さて。ここからが本番だ。
相手は町レベルの大きさ。外から攻撃していては、埒があかない。
いや、町を破壊するのはクライヴにとって、むしろ容易い。
問題なのは、この円盤が強固な装甲を有し、なおかつ巨大だということである。
これは流石のクライヴにとっても難儀な相手だ。
やはり、内部に侵入して破壊するのが正解だろう。
入り口を探すのが面倒なので、穴を空けて潜り込む。
ゆえに先程の矢よりも強力な技。対艦刀『月光』を使う。
クライヴの手から青い光の刃が伸びる。
それは超高温のプラズマの刃だ。
超古代文明の作った装甲であろうと何であろうと、物質である以上、この温度には耐えられない。
その超エネルギーを刃渡り百メトロンの剣とし、円盤の装甲へと叩き付けた。
融解。そして蒸発。
プラズマが通った部分は綺麗に抉れ、無事に入り口が生まれた。
やはり月光の威力には、超古代文明の材質でも耐えられないらしい。
だが、破壊できたのは全体から見ればほんの一部だ。
円盤の機能は全く削れていないだろう。
一刻も早く、中央制御装置なり、動力炉なりを見つけて破壊しなければ。




