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64 呑気な女子たち

「よし、クライヴがいなくなったから、艦長の椅子に座るのは妾だな!」


 ミュウレアはスカートをひるがえし、さも当然という顔でクライヴが座っていた椅子に腰掛ける。

 誰からも文句が上がらない。

 きっとレイたちは艦長席など、どうでもいいと思っているのだろう。

 しかし甘い。

 この椅子には、クライヴの体温がまだ残っているのだ。


「それでクライヴ。そっちの準備はOKか?」


 その体温を感じながらミュウレアが尋ねると、スピーカーから、


「ええ。こちらは問題ありません。超重力砲は?」


 甲板にいるクライヴの声が流れてきた。


「いつでも撃てるぞ。な、コルベット」


「うむ。準備万全でアル」


「ではカウントダウンしてくれ。発射と同時に俺も征く」


 相も変わらず雄々しい言葉。

 やはりミュウレアの夫に相応しいのは、世界広しといえばクライヴだけだ。

 見ればレイと琥珀も頬を赤くし聞き惚れている。

 なんて罪深い男だろうか。


「では我がカウントする。五、四、三――」


 コルベットの平坦な声で、数字が読み上げられる。

 今のミュウレアはいわゆる、婚約者を戦場に送り出す婚約者、なのだが。

 送り出すのがクライヴなので、特に心配はしていない。

 むしろ、残されるこちらのほうが戦力的に不安だった。

 まあ、クライヴが言っていたように、危なくなったら逃げればいいのだ。

 クライヴと再開するまで生きていること。それがミュウレアたちの役目なのだ。


「――ゼロ。超重力砲、発射」


 スティングレイの先端付近の景色が歪んでいく。

 それが広がり、一気にピラミッドのシールドまで伸びていった。

 超重力によって生み出された、空間の断裂である。

 その膨大なエネルギーは、超古代文明のシールドすら破壊し、内部のピラミッドを露出させた。

 が、それも一瞬のこと。

 あと一秒もしないうちに、シールドは元に戻ってしまう。

 しかし問題ない。


 コルベットがゼロと言った瞬間、甲板から稲妻の如き速度で飛び出す人影があったのだ。

 無論、それはクライヴ・ケーニッグゼグ。

 シールドが再生する前に、余裕を持って内部へと侵入を果たした。


「おおっ!」

「流石はクライヴね!」

「格好いいです!」


 スティングレイのブリッジに、思い思いの歓声が上がる。

 だが、それはクライヴはおろか、ピラミッドすら見えなくなってからだ。

 なにせ、一秒以下の出来事。

 おそらく既にクライヴは、常人離れ……というか物質離れした動きでピラミッドにはいりこんでいる。


「さて。クライヴが帰ってくるまで生き残るのが妾たちの役目だが。退屈で死なないように、トランプでもしようじゃないか」


「もう。殿下ったら緊張感がないにも程がありますよ。一応、ここだって戦場なんですから。警戒心はもってください!」


 ついさっきまでミュウレアと一緒になってクライヴに黄色い歓声を送っていたくせに、レイは腰に手を当てて、常識人ぶって説教をしてくる。


「警戒心といっても、妾たちがここで警戒しても意味がないだろ。レーダーとかの監視はコルベットがやってくれるしなぁ」


「うむ。我に任せヨ」


 コルベットはアンドロイドのくせに自信たっぷりに頷く。

 可愛い奴だ。

 まあ、ミュウレアと同じ顔に作られているのだから可愛いに決まっているのだが、友達としても楽しい相手だ。


「というわけで、お前ら集まれ集まれ!」


 ミュウレアは椅子から飛び降り、スカートを床に円形に広げ、そして他の女子に手招きする。

 真っ先に駆け寄ってきてくれたのは琥珀だ。

 やはり琥珀が一番素直だ。妹にしたい。

 それから渋々という顔でレイがやってくる。

 残るはあと一人。


「おーいコルベット。何を関係ないみたいな顔してるんだ。お前も来いよー」


「我もトランプであるカ?」


「当たり前だろ。トランプしながらでも船体の制御は出来るんだろ?」


「無論でアル。トランプだろうと花札だろうと楽勝でアル」


 これでコルベットも加わり四人になった。

 トランプをやるには、やはりこのくらいの人数が最適だろう。


「よーし。じゃあ何やる? 七並べ? 神経衰弱もいいな!」


「いっておくがミュウレア。我の記憶力は完璧だぞ。神経衰弱は有利ダ」


「あ。私も巫女なので記憶力はコンピュータ並ですよ。だからやめた方がいいと思います」


「むむ。そうか……じゃあ完璧に運頼りのゲームのほうがいいな」


 コルベットはこのスティングレイを制御するためのユニットであり、少女型のボディは、いわばオマケ。近頃はAIが成長して人間臭くなってきたが、本来の機能は無機質なものなのだ。


 そして、琥珀もまた同様だった。

 巫女とはそもそも、朧帝國の誇る灮輝力発生装置『人造神』を制御するための人造人間である。

 ほぼ全世界にエネルギーを供給する人造神を制御するわけだから、浮動小数点演算も整数演算も、どんなコンピュータにも負けない演算能力を持っている。


 そんな二人に記憶力勝負を挑むなど、愚の骨頂としか言いようがない。


「よし……それじゃあ完全に運の戦い……ババ抜きだ!」


 ミュウレアはスカートの裏のポケットにかくしておいたトランプを取り出し、しゃかしゃかシャッフルし、全員に配る。

 そして、さあゲームを開始するぞ、というとき。不意にコルベットが立ち上がった。


「大量の禍津反応でアル! この場所に向かってきていル!」


 やれやれ。どうやら、のんびりとトランプをやっている暇はないようだ。

 もっとも、クライヴ一人を戦わせて、自分たちは遊んでいるというのも心苦しい。


「レイ。神滅兵装からの灮輝力は届いているな?」


「ええ、バッチリよ!」


「むむ。スティングレイには届いていないのでアル……」


 コルベットが残念そうに呟くが、そこは機械と人間の違いと思って諦めてもらおう。

 とにかく、これで『ただ遊んでいたわけではない』と言い訳がきくわけだ。

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