表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/76

53 解読不能

 琥珀はレイやミュウレア、コルベットとともに、クライヴの戦いを見守っていた。

 しかし、それは戦いというよりは蹂躙であり、見守るというよりは観戦である。


 なにせクライヴが負ける要素がなさ過ぎる。

 心配? どうやって?

 手に汗握る? 一撃で終わると分かっていながら?


 クライヴ・ケーニッグゼグとは無敵と同義語だ。

 極端な話、このスティングレイとて不必要といえる。

 巡洋艦より中の人の方が強いというのも笑える話だが、そうなのだから仕方がない。

 もっとも、流石のクライヴも泳いで大海を渡り、泊まる設備もなしに白の大陸アルビオンを探険するのは嫌だろう。


 つまりスティングレイは居住区としてここにいる。

 戦闘は余興。前座の類い。

 最大の必殺技は、クライヴ本人が外に出ての攻撃だ。


「まあ、どうせ一撃必殺ね」

「強すぎて拍子抜けだよなぁ。ちょっとくらい手を抜けばいいのに」


 レイとミュウレアは無責任な感想を述べている。

 実のところ琥珀も同じ思いだったが、そこは口に出さないのが礼儀というもの。


 それよりも琥珀としては、さっきクライヴに指をなめてもらった記憶が頭から離れなくて困っている。

 あの精悍な顔つきの男子が自分の指をペロリと舐めたのだ。

 凄いことである。

 いまだに心臓の鼓動が激しい。身体の芯が熱い。


 ああ、いっそ指と言わず全身を舐めてくれても――と、そこまで妄想し、危険な方向に進みつつあると自覚する。

 落ち着こう。

 ライバルは多いし、クライヴは恋愛に興味がなさそうだが、あきらめなければ、いつかきっと。


 と、そのとき。

 ――■■■。

 脳にノイズ、走る。


「ッ!?」


 解読不能の意味不明な声。

 だけど、自分を呼んでいるとなぜか分かってしまう。

 そのノイズが刺すような頭痛を産み、琥珀はたまらず頭を押さえる。


「琥珀様!?」


 琥珀を膝の上に乗せていたレイは、ぎょっとした声を出す。


「どうしたんですか? 頭が痛いんですか?」


「あ、いえ……ちょっと頭痛がしただけで……大したことはありません」


 それは嘘ではない。

 ノイズが聞こえたとき、強烈な痛みが走ったが、それは一瞬の出来事。

 今はもう何ともなかった。


「おいおい琥珀。無理しない方がいいぞ。スティングレイは快適だが、慣れない環境なのは間違いないからな。疲れがたまっているんじゃないか?」


「ミュウレア殿の言うとおりでアル。何なら我が看病する」


 ミュウレアとコルベットも心配そうに言ってきた。

 まあ、確かに帝都の屋敷に引きこもっていた自分にとって、この数日は激動の日々。

 体調を崩したとしても不思議ではないが――そもそも巫女は病気になったりするのだろうか?

 ちょっと分からない。


「琥珀様。大事を取って、もうお休みになりましょう。風邪を引いたりしたら大変です」


 そういってレイは勝手に琥珀の身体を抱き上げる。


「そんな、大げさな……でも、はい。そうかもしれません。だから降ろして下さいよ。一人で歩けますから」


「いえいえ。お世話をさせて下さい。そのために私はいるのですから」


 レイは澄まし顔で語り、ブリッジから琥珀を運び出そうとする。

 気持ちは嬉しいのだが、この格好は少し、恥ずかしい。

 そう思いつつ、世話を焼いてくれるレイがありがたくて、嬉しくて、このまま甘えてしまってもいいか、なんて考えてしまう。


「……分かりました。では、しっかりお願いします」

「かしこまりました琥珀様」


 部屋ではクロちゃんが暇を持て余しているだろう。

 いや、逆に一人で快適に過ごしているかも知れない。

 自分が部屋に入った瞬間、「にゃーん」と駆け寄ってきてくれたら嬉しい。


 しかし、それにしても。さっきのノイズと頭痛は何だったのだろう。

 クライヴに聞けば分かるのだろうか――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ