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49 パジャマパーティー

「おーい、コルベットを連れてきたぞー」


「あ、殿下。勝手に冷蔵庫開けちゃったけど、いいですよね?」


「飲んじゃってまーす」


 ミュウレアがアンドロイドの手を引っ張って自室に入ると、既にレイと琥珀がジュースとスナック菓子を飲み食いしながらくつろいでいた。


 しかも帝國風に靴を脱ぎ、絨毯の上に直接座っている。

 なにせレイも琥珀も帝國人。

 コルベットだって頭の中にあるチップは帝國製。

 むしろミュウレアが少数派なのだ。


 幸いにもこの船は新品。絨毯も新品。

 まだ綺麗なままだ。


 ここは一つ、ガヤルド王国人であるミュウレアもスリッパを脱いで裸足になり、帝國式のくつろぎ方をしよう。


「ほらほら。コルベットも脱げ脱げ」


「服をカ?」


「靴に決まっているだろう! 急にボケをかますなよ、ビックリするだろうが!」


「……別にボケたつもりはないのだガ」


 コルベットは真顔で首をかしげた。

 すると寝転んでオレンジジュースを飲んでいたレイが、コルベットを擁護し始めた。


「いやいや。殿下が脱げって言ったら、服のことに聞こえますって。さっきも脱衣場で凄いイヤらしい顔でコルベットの服を剥ぎ取ってたじゃないですか」


「そうですね。完全にスケベオヤジの顔でした」


 琥珀までレイに同調する。

 というか、琥珀はどこでスケベオヤジなどという言葉を覚えたのだろうか。

 ミュウレアが貸したマンガだろうか。


「うるさいぞお前たち。脱衣場で服を脱がせて何が悪い! コルベットが脱ごうとしないのが悪いんだ!」


「でも、おっぱい揉む必要はないじゃない?」


「そうですよ。コルベットさんはロボットですけど女の子なんですから。あんなことしたら可哀想です」


 朧帝國人の二人は、弱小国のか弱い女王を言葉で虐めてきた。

 何と酷い話であろうか。

 まさに世界の縮図。

 しかし、こんなことでミュウレアはへこたれない。

 次はレイと琥珀のおっぱいを揉んでくれる。


「今に見てろよ……ほら、コルベットもぼんやりしてないで座れ!」


 ミュウレアは中央のテーブルの前でドンとあぐらをかき、隣をポンポン叩いてコルベットを呼ぶ。

 するとコルベットは無言でやってきて、正座をし、背中をピンと美しく伸ばした。


「む、私も負けませんよ」


 なぜか琥珀は対抗意識を燃やし、自分の正座を組み直し、背筋も改めて正す。


「お前ら正座とか脚痛くならないのか? 帝國人のやることは分からん」


「巫女はみんな礼儀正しいんですよ」


 琥珀は胸に手を当て、自慢げに呟く。

 そんな琥珀の膝の上で、黒猫が丸くなり、喉をゴロゴロ鳴らしていた。


「そういえば琥珀。その猫の名前は決めたのか? まあ、この船にはそいつしか猫がいないから、猫さんのままでも問題ないが」


「いえ! ちゃんと決めましたよ! その名も……」


 琥珀はそこで一旦言葉を区切り、皆の注目を集める。

 そして――


「クロちゃんです……ッ!」


 満を持して発表された名前は、何の捻りもない平凡極まるものだった。


「レイ。お前、琥珀のネーミングセンスをどうにかしてやれよ」


「いや……私も琥珀様がこんなに酷くて壊滅的なセンスだとは……」


「レ、レイまで!? どうしてですか、クロちゃんって可愛いじゃないですか!」


 琥珀は親友であるレイの裏切りにショックを受け、涙目になる。

 するとクロちゃんはもぞもぞ起き上がり、琥珀を慰めるように前脚をその頬に伸ばす。


「クロちゃんはいい子ですね……ずっと一緒ですよ」


「にゃー」


 琥珀はクロちゃんを抱きしめようとした。

 が、クロちゃんはそれを擦り抜け、テーブルの上に飛び乗る。

 そしてチーズを咥えると、今度はコルベットの膝に行く。


「なっ! コルベットさん、クロちゃんを返して下さい!」


「そう言われても、この猫が勝手に来たのダ」


 猫に乗られてもコルベットは動じず、微動だにしなかった。

 しかもコルベットは全身に電気モーターが搭載されているので、ほのかに温かい。

 クロちゃんにしてみれば、理想的な椅子だろう。


「うぅ……レイには暴言を言われ、クロちゃんには逃げられ……この世は絶望的です」


「琥珀の絶望は安いなぁ。まあ、飲んで希望を取り戻せ」


 ミュウレアは琥珀のマグカップに葡萄ジュースを注ぐ。


「はい、ありがとうございます……」


 琥珀は両手でマグカップを持ち、緑茶でも飲むような仕草で口に運ぶ。


「しかし琥珀。マグカップって普通、コーヒーとかココアとか飲むのに使うんだぞ。どうしてお前は何でもかんでもそのマグカップなんだ? 昨日なんかついに、味噌汁までそれで飲んでたし」


「え、だって、これはクライヴさんが選んでくれたマグカップなんですよ。きっと御利益があります!」


「御利益って……クライヴは現人神じゃないぞ。いや似たようなもんかもしれんが」


 帝國は世界最大の動力装置に人造神と名を付け、世界を支配している。

 ならば、それと同等の力を持つクライヴもまた、神と呼ぶに相応しいかもしれない。


「すると妾たちはクライヴ教の信者というわけか。妾はさしずめ教皇だな!」


「じゃあ私は巫女です!」


「琥珀はいろんなところで巫女をやるんだなぁ」


 種族、巫女。

 職業、巫女。

 巫女の鏡である。


「ねぇねぇ、私は何なの? 私だって一応クライヴ教でしょ?」


 レイは手を上げ、入信を表明する。

 以前よりも素直になって大変よろしい。

 が、ミュウレアはあえてレイを冷ややかな目で見やり、突き放すように言った。


「そりゃもちろん、お前はニートだ」


「んな!? まだニートネタ引っ張るつもりッ? じゃあコルベットはどうなるの!?」


 かつては帝國最強とまでいわれた輝士。

 しかし今はただのニート。

 時の流れとは実に無常だ。

 そんなレイは自分を高めるのではなく、底辺仲間が欲しそうな目でコルベットを見つめる。

 真まで染みついたニート根性は、生涯抜けないだろう。


「コルベットは……家事万能だし、船の舵もやってるし。現状この中で一番役に立っている。その功績を称えて、枢機卿の地位をやろう」


「おおっ、凄いですね! おめでとうございますコルベットさん」


 琥珀は手をパチパチ叩き、コルベット枢機卿を称えた。

 そしてアンドロイドに完敗したレイは口を開け放心する。

 だが、とうのコルベットはその地位にまるで興味を示さず、膝の上のクロちゃんを撫でていた。

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